始まりの終わり真っ白い封筒が届けられた。 愛らしいスズランの透かし模様の入った便箋は、差出人には酷くそぐわなくて、俺は笑い出しそうになった。 しかし、祥先生が俺の目の前で大きな目を見開いて俺の反応を待っているとなれば、そんなわけにも行かなかった。 差出人は瓜生 義久と、朝井 葵。祥先生の幼なじみと姉との、結婚式への招待状だった。 あの夏の夜から、祥先生は毎週土曜日には必ず俺の家に泊りに来てくれる。 しかし、全てが俺の思惑通りになったわけではない。 初めての夜を一緒に過ごした翌日、熱と体の節々の痛みに閉口したらしい先生は、せっかくのお泊りにしばしば飼い猫の太郎を連れてくる。 またこの猫が、賢いというか、小憎らしいのだ。 祥先生と一緒のベッドに入ると、必ず俺と祥先生の顔の間で寝やがる。そっと手を伸ばしても、どういう訳かちゃんと察知して、鋭い爪での一撃を見舞いやがる。 だから、俺は太郎のケージを見ると、心底がっかりするようになってしまった。 俺は若いんだ。大好きな先生を目と鼻の先において、柔らかい香りをかぎながら指一本伸ばせないなんて、不健康すぎる。 でも俺は、祥先生にはどうあっても逆らえないようになっている。祥先生が俺を掬い上げるような目で見て、 「今日は太郎がいるから…ね?」 なんて言おうもんなら、興奮に膨らましきった鼻の穴さえすごすごと、引っ込めざるを得ないのだ。 だけどそんな中にも確実に、俺達は二人っきりの時間を重ね、少しずつレベルアップしてきたと思う。 祥先生は、初めの頃のように痛がらなくなったし、翌日も動けなくなる事なんてなくなってきた。 ただ、恥ずかしがるのだけはどうしても止らない。 「祥先生、入ってもいい?」 声を掛けながらバスルームの扉を開けると、祥先生はきょっとかいう妙な悲鳴を上げた。 今日の先生は、太郎のケージを持ってきてない。という事は、そういうつもりなんだろう。 俺は半ば強引に、先生の入浴中のバスルームに足を踏み入れた。もちろんすでにマッパだ。 「な…直哉君、もうすぐ出るから…。」 「先生と一緒に入りたいんです、俺。」 逃がさないように、わざわざ先生が泡塗れになるのをそっと窺って入ってきたのだ。そう簡単には拒ませない。 「だ、だって…、狭いじゃない。直哉君、大きいから、ほら。」 慌てて壁を探る。きっとシャワーのノズルを探しているんだろう。俺は先生の手が届く前にそれを取り上げた。 先生はいつだったか見たように、頭の先から爪先まで泡塗れだった。またシャンプーとボディシャンプー兼用らしい。 しきりに目を擦るから、シャンプーが入ってしまっているのかもしれない。頭の泡は落とさせてあげてもいいな。 俺は楽しい計画にくすくすと笑った。 「大きくなっちゃったのは…先生のせいかも。」 「な…に言って…、それじゃなくて…。」 先生は途中で言葉を飲み込んで唇を噛んだ。 やっぱり頭の回りの泡は落としてあげよう。先生が可愛らしく赤面する様が見えやしない。 「先生、泡を落としてあげますから目を瞑って。少し屈んで下さい。」 祥先生はちょっと悔しそうに俺を見上げて、それから素直に俯いた。 俺はその頭をそっと押さえて、少し深く頭を下げさせた。確実に頭の泡だけを落とせるように。せっかく先生が泡まみれでいてくれるのだから。 「お湯が行きますよ。」 「うん。」 弱めに出したお湯が、先生の栗色かかった髪の上を、泡と一緒に流れ落ちていく。 先生は落ちていくお湯で手を洗って、それで顔を覆った。泡が目に入るのを警戒しているんだろう。 あんまり無防備な態勢で、俺は嬉しくなる。そっと背中に手を這わすと、先生の細い背中がぴくっと震えた。 かなり親父臭い手段だ。そう思いながら、俺は泡に滑ったふりで手を滑らす。 先生の身体は薄いから、ちょっと手が伸びるだけで簡単に抱きしめられる。 「な、直哉…くん。」 「先生泡塗れだから。手が滑っちゃって。」 「だ、だめだって、そこ…んっ。」 「ここ? 先生乳首弱いよね。」 指先で小さな突起をこね回すように弄りながら、背中に密着するように覆い被さると、先生は困ったように身じろぐ。それでももう、俺を拒めない。 指先はたちまち尖ってくる正直な反応を伝えている。耳元に口を寄せて、女の子みたい、と囁くと、またぴくりと身体が震えた。 「お、女の子じゃない…もん。」 「知ってる。」 俺はくすくす笑いながらノズルを戻した。お湯は出したままだ。 左手で先生の胸元を弄るまま、空いた右手でもしっかり先生を抱きしめる。俺の重みに負けた先生は、壁のタイルに手を付いた。 「だってほら、可愛いのがちゃんと見えてるし。」 「ひゃ…! 直哉くん…!」 削いだような先生の腹から一息に、下腹部まで手を滑らせる。泡と一緒にやんわり握り込むと、抵抗するように背中が丸まった。 こっちにお尻を突き出しているのに気が付かないのかな? 俺はすでに昂ぶり始めている自分自身を先生の滑らかなお尻に押し付けた。 「先生…、誘ってんの?」 「ちが…、んんっ…!」 往生際悪く逃げようともがくので更に重みを加え、ついでにぎゅっと先生を握り込める手のひらに力を入れる。 先生の膝が震えて内股加減になるのを察して、ぐっと足の間に膝を突きいれた。 「あ…、やぁ…。こんなところ…で…!」 「どうして? こっちはいいって言ってますよ?」 泡をいっぱい乗せた背中が強張って、綺麗な肩甲骨を浮かび上がらせる。 俺は先生の細い肩の上にがっちり顎を食いこませて、ピクピクと震える先生自身の天辺をこね回した。くちゅりと、泡だけでは有り得ない音がする。 ザアザアと流れつづけるお湯が、狭いタイル張りの部屋を蒸気で満たしていく。 俺はうっすらと汗の浮いた先生の顎から頬を、ぺろりと舐め上げた。ピンク色に上気して物凄く美味そうに見える。 「あ、あ、そんなにしちゃ…だめ…っ。」 頼りなくしなだれていた物が、俺の手の中で少しずつ育っていく。先生の細い足の間にこじ入れた膝は、さっきから絞めつけられて気持ちいい。 「だってほら、泡がいっぱいで手が滑るし。」 まだ俺の手の中に納まりきるそれをしごき、天辺をぐりぐりと苛める。 先生の全身がわなないて、少しずつ息が荒くなっていく。 「ん…っ、んふう…っ、泡が…しみるんだってば…。」 「うん? どこに?」 「だから………直哉君が…握ってるとこ…。」 消え入りそうな声で先生が答える。壁についた両手が震えて、長い睫に涙が膨れてきた。 「ああ…これ。先生いやらしいから…。」 すっかり育ちきったそこは、泡の刺激には耐えがたいのだろう。からかうように言うと、ピクリと背中が震えた。 「だって…、こんなこと…され…て…っ!」 「仕込んでって言ったの先生じゃん。だから、…思いっきり俺好みに仕込んであげる。 すぐ感じて、欲しがって…でも俺以外には体を開かない堅い娼婦に。」 「娼婦なんて…、ああっ、いや…っ!」 「泡落としてあげる。」 俺はクスクス笑うと、手を伸ばしてシャワーのノズルを掴んだ。水量を上げて、先生のそこを狙う。 もう俺の手の支え無しでもしっかり天を向いているそこをめがけて熱いお湯を掛ける。 「ひゃ…! あっ、…ああ…っ。」 敏感なところには、勢いよい飛沫の刺激は耐えがたいのだろう。腕の中に閉じ込めた細い体が身悶えする。 俺はシャワーを背けると、もう一度キツク抱きしめて、すっかり真っ赤になってしまった先生の耳をかじった。 「ね、おねがい、直哉…くん、こんなところじゃ…。ベッドに…行こうよ…。」 精一杯の譲歩なのだろう。真っ赤に染めた頬と、涙に潤んだ目が縋るように俺を見る。 ゾクゾクと背中に喜びが走っていく。先生のほうからベッドに行こうだなんて! 俺は思わず加減知らずに先生の体を抱きしめてしまう。 「ベッドでもイキますよ。でも、今はここでイキたいんです。」 「ちが…、そ…じゃなくて…。あ…っ。」 名残惜しいけど、先生の胸から手を離した俺は、その手をそのまま先生の背後に伸ばして、後孔に這わせる。 何度も俺を受け入れてくれたそこは、すでにひくついて俺をねだり始めている。指を1本挿し入れた。すでに体重を乗せてないのに、先生は壁にすがりついたまま俺にお尻を差し出した姿で喘いでいる。 「先生だって我慢できないくせに。…凄い、絡み付いてくるよ、先生のここ。」 「あ…、ん、ん…っ!」 俺の指を誘いこむように貪欲に飲みこんでいく先生のここ。もう1本の指も楽々入る。 中で指を蠢かして掻き回して、性急にほぐしていく。先生は頬まで壁のタイルに預けて、時々腰を揺らめかす。 これで俺を誘ってないつもりだなんて、意地を張るにもほどがある。 「あっ! はあ…あっ! お…願い、直哉…くん…。もう…!」 「止めてなんて…今更言われても…。」 俺は歯を食いしばって言った。俺自身の漲りも限界で、今まさにお伺いを立てようとしていたところなのだ。 「ちが…、欲しい…、直哉君の…欲しいよう…。」 「………!」 胸を撃ちぬかれた感じだ。先生が俺をねだっている! 先生は首筋まで真っ赤に染めて、切ない吐息をついた。 「お願い…早く…」 「…言われなくたって…!」 どうしよう、動悸が納まりやしない。 俺は獣みたいに鼻息を荒くして、先生の綺麗なお尻を鷲掴みにした。ひくひくと震えているそこに先端を押し当てると、一息に押し進めていく。 「あああっ、や…あぁっ、大き…い!」 「く…っ、先生が…大きくしたんですよ…っ!」 先生の片足を抱えた。 泡が潤滑剤の代わりを果たして、滑らかに俺を飲みこむ手伝いをしている。 大きく開いた先生の体は、俺の腹が先生の背中に密着するのを許すくらい柔軟で、俺の全てを受け入れてくれる。 「先生…、全部…入ったよ。動いていい?」 「う…、ん…、んあ…っ!」 タイルの上で先生の爪がキリッ…と音を立てた。 俺は先生の足をしっかりと抱えなおし、ぐっと突き上げた。 「ひゃ…あ…あ…っ! 深…い…っ!」 俺はタイルに肘を突いた。 片足だけを着いている先生はすでに体重を支えられなくて、全身をタイルに預けている。 そのタイルの冷たさに、チラリと罪悪感がよぎる。でももう止められない。 「あ…あ…んっ、直哉く…ん。」 俺を包み込む洞は熱くて狭い。 先生の呼吸に合わせて蠢いては、俺をすべて吸い尽くそうとするかのように絡み付いてくる。 ぐちゅり、ぐちゅりと淫らな音がして、目眩がしそうだ。 「い…きたい、前、触っ…て…。」 「ん…っ、先生…、そんなに俺を煽って…、どうなっても…知りませんよ…。」 「どうなってもいい…。もっと…、あ…ああっ!」 先生の薄いからだとタイルの間に手を捻じ込んで、先生のそれを乱暴に掴む。 手が触れた途端に、先生が胴震いして、中がぎゅっと締め付けられた。 「まだ…我慢して…。先生、一緒に…行こう。」 「あっ…あっ…、いい…、いいよう…。」 俺の腕の中に完全に納まって震える小さな身体。俺はいくつもキスを降らせながら夢中になって突き上げていた。 時折、やっと床に着いている先生の足が浮くのが分かる。俺のだか先生のだか分からない粘液が、泡に混じって二人の足を伝い落ちていく。 俺は一際深く突き上げた。 「ひっ、あっ、あああぁぁぁ…っ!」 ぐっと先生のをしごき上げる。 ずっと張り詰めていた先生は堪らずに飛沫をタイルに叩き付ける。同時に中がぎゅっと絞り込まれ、俺は奔流を先生の中に放った。 長い放出に、先生はタイルに縋ったままひくひくと震えている。俺はそっと先生から体を離した。 支えを失った途端、先生はふらりと倒れそうになる。俺は慌てて先生を抱きしめた。 「先生、頑張って、まだ終わりじゃないんだから。」 「も、だめ、もう出る。」 顔が真っ赤だ。立ち込める蒸気にのぼせてしまったのかもしれない。 それでも俺は容赦なく、まだ出しっぱなしのシャワーを手にした。 「中出ししちゃったから、ちゃんと洗わないと。俺がやってあげる。そこに手を付いて。」 「え…ええええっ?」 浴槽の縁を指差すと、先生はさらに顔を真っ赤にして目を回した。 こんな時、この体格差は本当に有り難い。ヘロヘロの先生なんか簡単に抱きかかえて好くな体勢を取らせてしまえる。 俺は僅かに抵抗する先生を後ろから抱えて跪かせた。足をこじ開けさせて肉の狭間を開くと、今まで俺を飲み込んでいたそこは、赤く充血してひくりひくりと蠢いている。 俺の放った物が滴っているのがものすごく卑猥な感じだ。 「…凄い、先生、奥まで見える。…真っ赤だ。」 「やだ…、もう、ほんとに、許してよ…直哉くぅん…。」 中を暴かれている恥ずかしさが、先生に甘い声を出させるのだろうか。 俺は舌なめずりをして、指を押し当てた。大して力を入れているわけでもないのに、粘液を絡ませたそこはずぶずぶと俺を飲み込んでいく。 白い足が震えて、先生が掠れた切ない声を上げた。 「中…掻き出しちゃわないと身体に悪いんですよ。先生の事は、俺が隅から隅まできっちり面倒見て上げる。」 「いや…いや、そんなの、自分で…っ、直哉君…っ。」 拒絶が甘い悲鳴に掠れて消える。でも俺は手を放さない。 浴室を選んだ本当の目的はこれから行おうとしている事なんだから。 洋服に身を固めている時は、先生のシモベになっちゃう俺だけど、マッパの時にはいつでも俺がリードを握っていたい。 それに、俺の指を咥え込んで放さないのは先生の方だ。そんな可愛らしい痴態を見せ付けられて、俺が我慢できるとでも思っているのだろうか? 先生を傷つけないように慎重に指を曲げる。もう何が本来の目的だかわからなくなってきている。 吸いついてざわめいている内壁を擦り上げた。掻き出そうとしているのか、揉み解そうとしているのか、自分でもわからない。 「ああ…あっ、いや…あ、直哉く…ん…。」 たまらないな。俺はどんどん下半身が熱くなっていくのを感じる。 先生は素晴らしく可愛くて、一晩中でも一生でも抱きしめていたい。 思わず自分の下腹部に手が伸びた。 結局フラフラになった先生を抱きかかえてバスルームを出たのは、それから2時間後だった。 「うー…。」 「大丈夫ですか、先生。」 「大丈夫じゃない。顔にタイルの目地の跡が着いちゃったよ…。」 「すぐ消えますよ。先生ピチピチだから。」 「…直哉君の変態。ケダモノ。」 俺はちょっと後悔した。服を着せるんじゃなかった。それなら俺がまだ王様でいられて、可愛い口もキスで塞げたのに。 「今日は先生だって随分盛りあがっていたじゃないですか。俺を煽りまくるから…その罰ですよ。」 「煽ってなんか…ないもん。ただ、ちょっと…。」 祥先生は額に乗っけた濡れタオルをぐっと引き下ろした。 目の上まで覆ってしまって、口を尖らせる。 「やっぱ、応えてるのかな…あれが。」 「そんなに嫌なんですか? 瓜生さんが結婚するのが。」 おもしろくない。声が少し刺々しくなったかもしれない。祥先生は薄く笑った。 「瓜生も…そうだけど、それより葵ちゃんの方かな、意外だったのは。」 祥先生は大きくため息をついた。 「葵ちゃんは子供のころから、一生結婚なんてしないって言っていた子なんだ。僕と一緒に住んでいたいからって。事実、彼氏なんか全然連れてこなかったし、瓜生ともそんなそぶりは見せなかったし、僕は葵ちゃんは女の子の方が好きなのかと思っていたくらいなんだ。」 「へえ…。」 俺は去年の学園祭に現れた、祥先生のお姉さんという美女を思い出していた。 長い髪に、見事な肢体を強調する挑発的な服装。 強く女を見せ付けるくせに、性格といえばあっさりしてさばさばとして、まるで男そのものだった。 そうしていやに熱心に、祥先生の傍に張り付いては、油断ない目を辺りに配って…。 ん? なんだか覚えのある目つきだった。あれは…そう、瓜生が愛しげに祥先生を見つめる目つきとそっくりではなかったか。 「葵ちゃんはそりゃお転婆だったから、僕はずいぶん庇ってもらったんだよ。緑ちゃんが大きくなるまでは、いつも瓜生と葵ちゃんが僕を間に挟むみたいにして守ってくれてて。 僕は弱い子供だったから、外でまともに遊べたのはあの二人のおかげなんだ。 だから僕の中ではなんとなく、ずっとこの3人で手を繋いで、仲良くやっていけるような、そんなイメージがあったんだ。」 なにか嫌な予感がする。祥先生の語る“葵ちゃん”像が、どんどん瓜生に近づいていく。 そうして同じように祥先生に好意を持った、似たもの同士の二人が結託して、そしてどんな結論を出すのか。 「つい最近までだって、僕の事は一生守ってあげるだなんて言って…。葵ちゃんがメイクのスペシャリストになる道を選んだのも、生涯を通じて、自分の腕で稼いでいきたいからだって言うんだよ。昔から冒険心のある子ではあったけど、ヒヤヒヤさせられるよ。 普通のOLでやっていくなら、それなりの企業に入る事も出来たんだよ。それなのに、こんなご時世じゃ女は古くなったらあっという間にリストラ対象だって。それじゃ僕を養えないって。僕は自分ぐらい自分で養うのにさ。」 「祥先生を…養う…ですか。」 「そうだよ。僕はどこにも出さない、なんて、年頃の娘を抱えたオヤジみたいな事を言っちゃってたくせに、自分はさっさと結婚を決めちゃうなんてさ。」 「は…はは…。」 間違いない。祥先生のお姉さんは、瓜生と同じタイプだ。 それも、彼よりもより度合いの強い。 その二人が手を組んだという事は…。 「今日もね、家を出ようとしたら、仲良く二人で手を携えて来ちゃって。 本当は太郎も連れてくる予定だったんだけど、直哉君のうちに行くって言ったら取り上げられちゃって。」 ギクリ。それはまるで、太郎がいる事が二人の間の障害になる事をお見通しのような行動ではないか。 まるで…そう、なにもかも承知の上で、寛大に許してやるのだから、祥先生を泣かすなと、脅しつけているような。 「それでさっきの封筒を渡してね。 お式とかいっても、本当に身内だけのこじんまりした式なんだよ。そんな所に直哉君を招待したら返って迷惑だって言うのに、ぜひ来てもらってくれって。制服を着てきてくれて構わないからって。」 それは…暗に、制服を着てこいと強要しているのだろう。 結婚式に着るには、あまりにも不似合いな、あの純白の学生服を。 「ちなみに…先生は何を着ていかれるんですか?」 「さあ? 葵ちゃんが用意してくれるって。 葵ちゃんはねえ、お裁縫も得意なんだよ。ウエディングドレスぐらい簡単よって息巻いてた。 それにしてもブーケトスにぴったりの衣装だなんて…一体どんな服を作ってくれるんだか。ブーケトスなんて僕には関係ないのにねえ。」 先生はくすくすと笑う。どうしてそんなに朗らかに素直に、“葵ちゃん”の好意を受け取れるのだろう。俺はこめかみを冷や汗が伝うのを感じた。 ブーケトスにぴったりな、純白の俺の制服に似合う服…。よもやとは思うが、ウエディングドレスそのものではないのか。 いや、あの家族は、いきなり見せ付けられた筈の祥先生の女装にも動じなかった家族だ。その可能性は…大いにある。 そして、内内とは言え公式の場に俺を引っ張り出し、先生の隣に並べて、お披露目と公認を勝ち取ろうという腹ではないのか。 そしてその上で、自分達の目がいつでも光っているという事を、主に俺に重点的に知らしめようというのではないのか。 そうでなければ、瓜生のあの…あんなに祥先生に執着していた筈の彼の、転身の速さには説明が付かない。 この結婚はもしかしたら名目上だけの事で、本当は同じ目的を持った二人がより強く結束して、共通の目標に向かって突き進んでいく為の…言わば同盟ではないのか。 そしてその共通の目標は…言わずと知れた祥先生ではないのか。 気が付くと、いつのまにか祥先生が大きな目で俺を見上げていた。 俺は引き攣った顔をしていたのかもしれない。視線がそちらに向くと、先生は安心したらしく、花が綻ぶみたいに笑った。 「直哉君…、あの二人の結婚式、出席してくれる…?」 ああ、そんな縋るような目で言われて、どうして俺が嫌だと言えようか。 俺は心の中で涙を流しながら、それでも深く肯いていた。 先生の笑顔の為なら、さらし者にされようが笑い者にされようが、我慢できちゃう俺なのだ。 先生は思った通り、極上の笑顔を浮かべてくれた。そしておずおずと言葉を足す。 「それでね、あの、…葵ちゃんから伝言があったんだけど…。」 「………なんでしょう。」 「覚えておきなさいよ…って、どういう意味だろ。」 やっぱり…。俺と祥先生の為に設定される場は、祝福なんかじゃなく、がんじがらめの誓約の場なのだ。 嬉しいやら恐ろしいやら。俺は本当に涙を零しそうになった。 |