フェロモン




腰をひねるとまだぎしぎし言う。祥太郎は学校内の食堂に備え付けの自販機を前に顔をしかめた。
本当はどうせ飲むならイチゴ牛乳の方が好きだし、そもそも牛乳なんて祥太郎のやわな腸には結構負担になるのだ。

「まったく…無茶しいなんだから。」

ぶつぶついい、それでも結局祥太郎はコーヒー牛乳を選んだ。これが最近の祥太郎のノルマだ。
ほとんど牛乳とはいえ、仮にもコーヒーと名乗っているのだ。これをしばらく飲んでいたら、もしかして自分も直哉と同じようにブラックでコーヒーが飲めるようになるかもしれない。
祥太郎は、直哉が手ずから煎れてくれるコーヒーを二人で飲むのが夢だった。今さっき思い出したばかりの無茶しいの顔をもう一度思い浮かべて、祥太郎はうっすら微笑んでいた。



思えば無謀な約束をしたものだ。
直哉の要求した誕生日プレゼント──直哉の言うなりの一日──を最初に持ちかけられたのはもうしばらく前だが、言い出した当初から、直哉はなんだかがっついたような顔をしていたのだ。
しかもその場所といえば、直哉の腕枕の中だったのだから、当然すぎる結末だった。

もう何度も肌を重ねたとはいえ、なんとなく気恥ずかしくて、祥太郎は寄り道をしてから直哉のマンションへ行った。
ドアを開けるなり腕を取られて、祥太郎は小さく悲鳴を上げた。せっかく買ってきたケーキの箱が大きく傾いていた。

「もうっ! 乱暴にしないでよ、せっかくのケーキが傾いちゃう!」
「ケーキ? 何にもいらないって言ったじゃありませんか。」

しかも自分と違ってすっかり大人味覚の直哉は、ケーキなんて苦手だ。それは祥太郎も十分わかっている。

「う…そうだけど、お誕生日って言ったらケーキがつき物でしょう。直哉君だって、チーズケーキならいけるって言ってたじゃない。それに…僕が食べたかったんだもん。」

次第に言い訳がしどろもどろになる。少しでも濃密な時間を削りたくて、望まれてもいないケーキを買ってきたことなんか、簡単に見透かされてしまいそうだ。
しばらく祥太郎とケーキの箱を比べるように睨んでいた直哉は、やがてにやりと笑った。

「いいですよ。それじゃお互いにたっぷり食べることにしましょう。」

直哉は祥太郎の手からケーキの箱を奪うように取り上げると、祥太郎をほとんど小脇に抱えるようにして部屋へ上げた。
向かう先はいつもお茶を飲むソファーではなくて、まっすぐベッドだ。
あてが外れた祥太郎の足が鈍るのを面白がるように、直哉は声を潜める。

「ねえ先生、…女体盛りって知ってる?」

そうしてまず真っ先に、唇にクリームをこってり塗られたのだった。



「………!」

祥太郎は手にしていたコーヒー牛乳のパックを握りつぶしそうになって我に返った。
どうやら一人で百面相をしていたようだが、幸い誰にも注目されてない。
思い返すと、まだ全身がぬるつく気がする。玄関からベッドまで一直線だった。



いつもながら、直哉のキスは巧みだ。
熱い舌に口腔内を這い回られ、吸い上げられると、腰が砕けていくような快感を覚える。
その日のキスは、特に唇を念入りに甘噛みされた。クリームの甘みを伴う、まさしく蕩けるようなキスだった。
いつものようにうっとりと目を閉じかけ、それから祥太郎はにわかに慌てた。
いつの間にか、シャツの前は全部肌蹴られて、パンツのジッパーまで下ろされかかっている。
まだシャワーも浴びてないのに! 焦って身悶えると、返って両腕を取られて、そのままベッドに押し倒されてしまった。

「うわ…ちょっと!」
「なんです?」

癪なことに、祥太郎の両腕を片手に持ち替えてもまだ余裕たっぷりの直哉は、じたばたしている祥太郎を楽しそうに眺め下ろしてケーキの箱を持ち出してきた。

「シャワーくらい浴びさせてよ! …ちょっと、何する気?」

いつにない上機嫌の直哉の手には、掬い取ったレアチーズケーキがたっぷり乗っている。

「何って…だから、女体盛り。」
「待ったぁっ! 僕、女体じゃな…ひゃんっ!」
「ここにはたっぷり。先生、胸弱いもんね。」

悔しいけれど直哉の言うとおりだった。薄い胸の上にチーズクリームを塗りこめるついでに、小さな飾りをこね回されると、それだけで祥太郎は動けなくなってしまう。
そうして簡単に祥太郎の抵抗を封じ込めて、直哉はうれしそうに祥太郎の体をクリームだらけにしていくのだ。
甘い香りが立ち込めてむせ返りそうだ。気がつくと、パンツはとっくに剥がされて、片足が直哉の肩に担ぎ上げられていた。
手がふっと自由になって、その代わりのように一番鋭敏な部分がひやりと冷たくなった。
そればかりか、びっくりして息を飲む祥太郎を尻目に、そのクリームまみれの手はどんどんもっと奥まで進んでいって…今にも体の内側に塗りこめられそうだ。

「だあああっ! 待って待って待って!」

祥太郎はいっぺんに眼が覚めたようになって、場違いな大声を上げた。
流石に鼻白んだように、直哉が顔を上げる。

「なんですか、今日は先生、何でも俺の言うとおりにしてくれるんでしょう?」
「そ…そうだけど…でも…!」

慌てて両膝を引き寄せながら、祥太郎は言った。すかさず足首をつかまれて、またひっくり返されてしまう。
直哉の手から逃げることがそんなに容易い事ではないことなど、身にしみてわかっているが、それでもこんな恥ずかしいことを容認できるわけがない!

「ケーキ! 僕も…食べるんだから…そんなところに塗らないで! こらあっ!」
「大丈夫、先生の分はちゃんとあるから。」

直哉は祥太郎の言葉などまるで意に介さない風だ。改めてケーキまみれの自分の体を見下ろして、祥太郎は酷く恥ずかしくなった。

「それとも、先生、先に食べる?」

今考えると、直哉のその声はいかにも何かを企んでいるようだった。でも、そのときの祥太郎は自分の身に起きている恥ずかしいことから一瞬でも逃れたい一心で、何にも考えずにこくこくと頷いてしまったのだ。
いや、当然起こるだろうことから、眼を背けたかっただけなのかもしれない。
祥太郎の目の前に差し出されたのは、チーズケーキをたっぷり絡めた、直哉のたくましい雄だったのだから。



「いつも俺が先生にしてあげるのと同じようにしてくれたらいいんですよ。」

固まっているとそう囁かれた。決して強制的ではない手に頭を押しやられて、鼻先にそれを突きつけられた。
祥太郎は口をパクパクさせて、それからやっと心を決めた。
本当にいつもいつも祥太郎は直哉にリードされっぱなしで、ただ喘いでいるうちにすべてが終わってしまって、後片付けまでしてもらう状態なのだ。
とんでもなく恥ずかしいけれども、強制的にやらされているという口実が与えられている今、自分も少しくらいは直哉を気持ちよくさせてあげたい。

でも、間近で見るそれはかなり迫力があった。
いつもこんなものが自分の中に納まるのかと思ったら、恥ずかしいより唖然としてしまう。かなりためらって、祥太郎はそっと舌を伸ばしてみた。
先っぽをぺろりと舐めてみる。

「…うっ…!」

もしかしたら直哉は、祥太郎が本当に言うことを聞いてくれるとは思っていなかったのかもしれない。大きな胡坐のひざが震えて、クリームにまみれたそれがますます反り返った。
祥太郎はおずおずと両手を伸ばして、それを掴んでみた。
直哉の拍動が感じられる。思い切って口に含んでみる。大きすぎて天辺しか含めないそれは、ケーキの味とは違う苦味を口の中に広げる。でも、不快ではない。
しかし、この先どうしたらいいのだろう?

「…歯は立てないでください。口の内側全体を使って、包み込むようにして吸ってみて下さい。…ん、そ…う、気持ちいいですよ。」

囁くような声が次第に熱く弾んで、直哉の快感が伝わってくる。
祥太郎は夢中になった。直哉をこんな風に悦ばせてあげたのは、初めてかもしれない。
だから、直哉の股間に顔を伏せた自分が、どんなにしどけない姿をしているのかまで考えが及ばなかった。
背中をぬるりとした指が這った。祥太郎の尻の丸みを確かめるように滑ったその指は、まっすぐ祥太郎の入り口を目指し、そのままぬぷりとかすかな音を立てて、祥太郎の内側へもぐりこんで行った。

「ん…っ!」
「そのまま、先生、休まないで。」

直哉の指にはまだクリームがたっぷり乗っているらしい。たやすく進入した指は、けれども不自然な位置に遮られてか、入り口周辺を浅くつつきまわすことしかしない。
全身の感覚が、むず痒いようなそこに集中してしまうようだ。祥太郎は低くうめいた。
手足が震えて今にも突っ伏してしまいそうだ。

「先生、もう降参? それじゃ交代ね。」

言葉の意味を理解する間さえない。膝の内側に腕がもぐりこんできたと思ったら、もう祥太郎はひっくり返されていた。
体の中にはめ込まれている指は同時に深くもぐりこんできて、祥太郎を震わせる。

「…ちょっと俺の分のケーキ、多すぎるけど…まあいいか。」
「あ…んっ。」

ぞろりと暖かいものが肌の上を這って行く。
祥太郎を骨抜きにするのが目的なのだろう。丁寧に乳首をこね回す舌は、いつの間にか2本に増やされた指の動きと通じるところがあって、祥太郎を翻弄している。

「い…やっ、あ…っ。」

胸と体の奥とに、一本刺激的な鎖をつながれて、それで体の内側中をこすられている様だ。
目じりに涙が浮かんでくるのをとめられない。そのくせさらに指が深くなると、まるで直哉を待ち望んでいるかのように、自然に大きく広がってしまう両足を、祥太郎はどうすることもできない。
祥太郎の腰が揺らめきだしたのを見て、直哉が楽しそうに笑った。腰の辺りを掴まれたと思ったら、祥太郎はまたひっくり返されていた。

「さあ先生、もっと腰を上げて。今日は後ろからやらして。」

後ろから……直哉の言葉をぼんやりと反芻し、祥太郎ははっとした。
しかしその時にはすでに、直哉の大きな手が腰を引っ張り上げて、直哉の言うとおりの姿勢、犬のような四つんばいの姿勢にされていた。

「ちょっと、やっ、直…ひゃっ。」
「すごい…先生の中までよく見える。俺のが先生の中に入ってく所、一回じっくり見てみたいと思ってたんだ。」
「こんな、獣みたいな格好、いや…!」
「そんなことばっかり言って、いっつも先生、お行儀いい正常位しかやらしてくれないじゃないですか。今日は俺が王様だから。」
「ひ…っ!」

腰をしっかり掴まれて、すでに身動きは取れない。大きく開かされた足の間に熱い高ぶりが押し当てられ、それがゆっくり祥太郎の中に押し入ってくる。
クリームにすべりを助けられ、じっくりほぐされたおかげで痛みはない。
しかし、ことさらにゆっくり進入するそれは、まるで刻々と増して行く硬度さえ祥太郎に知らしめるように、少し入れてはまた引き出され、それを何度も繰り返しながら確実に祥太郎を割り裂いていく。
背中から、含み笑いが聞こえた。

「それに俺、先生に対してはいつでもケダモノだもん。」

くちゅりと、小鳥が囀るような音がする。
祥太郎が侵入するものを悦んで迎える音だが、すでに祥太郎にそれを認識する余裕はない。

「あ、あ、は…あ、あ…っ!」
「先生…、辛い?」

囁かれて、祥太郎は夢中で首を振った。
息が詰まるような充足感はいつものとおりだが、慣れない姿勢からの挿入で、覚えのないところを刺激され、手足が崩れて行きそうだ。
肘がついに体重を支えきれなくなり、祥太郎はシーツに頬をつけた。足にもほとんど力は入っていなかったが、そちらは直哉に貫かれて高く上げられたままだった。

「…すげえエロい格好。」

生唾を飲み込む音がして、手が前に回った。
硬く立ち上がっている雄の部分を握られて、祥太郎は涙にぬれた声を上げた。

「ひゃ…! や…あっ!」
「よくしてあげるけど、すぐイッちゃだめだよ、先生。一緒にイクんだから。」
「や…、無理…、ああっ!」

腰を深くつきこまれた。頬についたシーツが擦れて熱い。
祥太郎はすがるもののない頼りなさに、必死にシーツを掴んだ。開きっぱなしの口からは、唾液があふれて行く。

「先生、いいって、言って。俺の名前、呼んでよ。」
「ああっ、いい、直哉君、気持ちいいよう、もっと…もっと!」

ずくずくと、熱い塊に突き上げられている。
大きな手のひらは、爆発を促すように袋まで揉みしだくのに、最後の最後で意地悪するようにせき止める。
祥太郎は涙と唾液でぐちゃぐちゃになりながら何度も叫んだ。体の奥まで切り開かれるのも、太ももの裏側を汗ばんだ足に叩かれ続けているのも、時々反り返る背中をあやすように舐められるのも、何もかもすべて気持ちが良すぎてどうにかなってしまいそうだった。

「も…、直哉君、許し…て…。」
「俺も…そろそろ限界…。」
「あ、ひあああぁっ!」

両膝が浮くほど力いっぱい突き上げられ、同時に前を強く握られた。
堪らずに放つと異物が挟まったままの後ろが痙攣するように絞り込まれるのが感じられ、直哉がうめいた。
次の瞬間、迸るような熱さが体の中に叩きつけられた。
祥太郎は力いっぱいシーツを掴んだ。ピリッとどこかで、繊維のちぎれる音がした。

先ほどまでの荒々しいほどに腰を支えていた手が、まるで花びらでも摘むかのようにやさしい手になって祥太郎の腰を支えた。
ずるり、と体の中から大きなものが這い出していく。

「あ…。」

張り出した部分が、最後に引っかかって祥太郎に小さな声を上げさせる。
それを聞くと、直哉は壊れ物のようにそっと祥太郎を抱きしめた。
唇で肌をなでるような口付けが、頬と額とに何度も落とされる。

「先生、すっごくかわいかった。でも、先生のエロい顔が見えなくてつまらないから、やっぱり前からやらしてもらうのがいいな。」
「エロいって…、そんなこと言うの、直哉君だけだよ。」

声が掠れている。祥太郎の言葉に一瞬真顔になった直哉は、それから余裕たっぷりに笑った。

「そう思ってるのも先生だけ。先生、一番初めのときからすごくいやらしい体してること、自覚ないでしょ。」
「い、いやらしい体って…。」

祥太郎は思わず絶句してしまう。
確かに直哉と抱き合うのは嫌いではないが、それがいやらしい体と称されるとは思ってもいなかった。

「でも、先生のフェロモンは俺にしか通じないって思っててくれていいから。あんまりあちこちで撒き散らされても困るし。それに、祥先生が実はこんなに美味しい体してるなんて、誰にも知られたくないから。」
「馬鹿…言ってる。こんな恥ずかしいことするの、直哉君にだけだよ。」
「うん。嬉しいな。」

直哉は祥太郎の髪をすき上げながら笑った。
その顔が子供みたいに素直で、祥太郎は思わず赤面して俯いてしまう。
きゅっと抱きしめた腕がするりと解けて、祥太郎は慌てて顔を上げた。

「うー、甘い。先生にも何か飲み物持ってきてあげる。そこで待っててください。」

すらりとした後姿がキッチンへ向かうところだった。
形のいいヒップに思わず見とれて、祥太郎はそろそろと起き上がった。
直哉が舐め取りきれなかったケーキが体のあちこちに残っていて、ひどい様子だ。シーツもひどい有様だったが、これ以上汚さないように気をつけて身を起こすと、途端に足の内側を何かが流れていく気配がする。
さっき直哉が放ったものだ。用心深い直哉は、お互いの安全の為に避妊具を装着するのを忘れないが、今日はそれを忘れていたのかもしれない。

今しがたの行為の名残を見せ付けられて、祥太郎はさらに真っ赤になった。
今のうちに洗い流してこよう。体内に長くとどめていると、そうでなくてもやわな腸はさらに氾濫を起こすに違いない。

そろそろと足を伸ばす。
毛足の長い絨緞を汚したりしないように細心の注意を持って足を床につけた。そうしてそっと踏み出そうとしていたが。

「あ────────っ!」

直哉の時ならぬ大声に、祥太郎は伸ばした足をびくっと引っ込めた。

「先生、そこで待っててくださいって言ったじゃないですか!」
「き、聞いたけど、ちょっとトイレ…わあっ!」

すっ飛んできた直哉に足元を掬われてまたベッドに転がされてしまう。
そんな乱暴なことをしておきながら、片手に乗せた飲み物の乗った盆はちっとも傾いでいないのを見て、祥太郎は舌を巻いた。

「今日は先生、俺の言うこと何でも聞いてくれるって言いましたよね!」
「え、だって、トイレくらい…!」
「俺がいいって言わない限り、先生はこのベッドから降りるの禁止! 何かご要望があれば、俺が全部やってあげますから!」
「え、だってそれって…ええ〜っ!」
「トイレですか? むろん抱っこで連れてってあげますよ。それで、俺の目の前でやってください。俺、先生のすることなら、何から何まで見ていたいんだから。」
「ぎゃ〜っ!」

余りの恥ずかしさに、祥太郎は脳が煮えそうだ。

「や、やだやだやだ! そんなことできっこないじゃん! なに考えてるの、直哉君の変態!」
「何をいまさら。あったりまえじゃないですか。」

直哉は偉そうにふんぞり返っている。そうして腕が伸びてきた。
抱き上げられそうになって、祥太郎は必死に逃げた。

「大丈夫、俺の変態は、祥先生にしか発動しないから。それに、祥先生今日は一日俺のお人形さんでいてくれるんでしょう? 約束したじゃありませんか。
だから俺が責任もって、先生の隅から隅までたっぷり手をかけてあげる。食事ももちろんさせてあげるし、どんなところでも俺がこの手で洗ってあげる。そのためのプレゼントじゃないですか。先生は何にも心配しなくて大丈夫。」
「だ、大丈夫じゃな〜い!」

祥太郎はぷるぷる首を振ることくらいしかできない。
直哉が言い出したら最後、それを阻止することも、拒むこともできないのはよくわかっているのだ。

「あ、言うこと聞いてくれないんだ。それじゃ、うんと恥ずかしい格好に縛っちゃおうかな〜。それで、雪紀のとこから持ってきたいろんなお道具あるんだけど、それ全部試してみていい?」
「ひーっ、それもヤダ〜!」
「じゃ、言うこと聞いて。まずトイレ?」

確信的に畳み込まれて、祥太郎は肯くしかない。
直哉は祥太郎を軽々と抱き上げてうれしそうだ。

「ああ、さっきの洗いたいんだ。それじゃもちろん俺が中まで丁寧に洗ってあげる。もっとも、今日はどうせ洗ったって、すぐまたぐちょぐちょになっちゃうの、覚悟しておいて下さいね。俺のお人形さん♪」

そうして、直哉の欲求と探究心にまみれた恥ずかしすぎる1日を、祥太郎は過ごすことになったのだ。



頬が熱い。思い出して真っ赤になっていた祥太郎は、われに帰って急いでコーヒー牛乳を啜った。
冷たい飲み物が少しは火照った顔を覚ましてくれることを期待したのだが、どうやらあまり効果はないらしい。
あの時は恥ずかしすぎて死んでしまいそうに思えたことばかりだったが、今思い返すとちょっとうっとりしてしまう自分がいる。
そしてそんな自分に、さらに祥太郎は赤面してしまうのだ。

「あ、祥太郎先生。」
「何だよ祥太郎、またコーヒー牛乳かよ。ガキだな〜。」

うるさいのがやってきた。白雪と隼人だ。祥太郎は顔をしかめた。
この場合問題なのは白雪だ。隼人などどうにでも丸め込む自信があるが、白雪は妙に素直で、いつも深い切り口からずばずばと祥太郎の内面を切りつけていく。
祥太郎にしては珍しい、苦手のタイプだ。

「そんなこと言うもんじゃないよ、隼人。きっと祥太郎先生は、直哉さんに合わせて、コーヒーの訓練でもしてるのかもしれないよ。直哉さん、コーヒー大好きだもん。ねえ、先生。」
「ぶはっ!」
「うわっ、きったねえなあ!」

祥太郎は思わずコーヒー牛乳を吹きそうになってしまう。
どうして白雪は、何のヒントもなしに、こうずばずば真実を言い当ててしまうのだろう。

祥太郎は恨みがましい目で白雪を睨んだ。白雪はといえば、きょとんとした顔でまっすぐ祥太郎を見つめ返している。

「まったく、こんな色気のかけらもない奴のどこがいいのか、兄貴の趣味を疑うよな。」
「いいもん、男に色気なんてなくたって。」
「また隼人は余計なことを。祥太郎先生、可愛いからうんと人気あるんだよ。ねえ先生。」
「へ…へーそう。」

他になんと返事しろというのだ。
祥太郎は落ち着こうと、コーヒー牛乳を大きく啜った。

「それに、先生のフェロモンは、直哉さんにだけ強く反応するようになってるに決まってるじゃ…あっ!」
「ぶ────────っ!」
「ぎゃ────────っ! 両方の鼻の穴からコーヒー吹く奴があるか────────っ!」

またも当を得すぎた白雪の言葉に、祥太郎は思いっきり逆噴射をやらかして、一躍時の人になったのだった。