消毒薬




夢中になって何かを叫んだのかもしれない。僕を抱きしめる直哉君の腕がさらに強くなって、耳元を忍び笑いが過ぎた。

「そんな可愛らしい事を言って…先生はよっぽどめちゃくちゃにして欲しいらしい。」
「…ん、な、事、な…っ、あ…っ。」

僕のかすかな抵抗を封じるように、僕をえぐる熱いものが一際奥に分け入ってきて、言葉を途切れさす。
僕は酸素の足りない金魚みたいにあえぐ。折り曲げられた上、あられもなく開かされて抱え込まれた足がきしむ。
僕の中にぶちこまれて僕を揺さぶり続けるものは、マグマみたいに熱くて、僕を内側からぐずぐずに蕩かしていく。

せめて呼吸くらい楽にしたくて、僕は思いきり顎を上げる。直哉君のコロンの香りのする寝具に頭頂部が擦れると、まるで僕を咎めるように、直哉君の舌が僕の喉を這い回る。
直哉君の腕の中の僕は、どこにも逃げ場がない。

「ねえ…泣くほど気持ちいい? 先生。」

どうしていつも直哉君ばかりこんなに余裕があって、僕は攻め立てられる一方なんだろう。直哉君の動きが、僕をじらすような小刻みなものに変わって、僕は思わず鼻を鳴らしてしまう。

「腰が…揺れてるよ。欲しいって言ってごらん?」

5つも年下の癖に…! でも、かき回されて沸騰しきった僕のそこは、直哉君の消毒薬を注入してもらわないことには鎮まりそうもない。

「欲しい…っ! 欲しいよ、直哉く…!」

目を瞑ったまま叫ぶ。声が枯れている。
貪欲な僕の体は、いくらでも直哉君を欲しがる。
密着した体の奥に、破裂しそうな熱いものが注ぎ込まれて、僕は小さく悲鳴を上げた。



一瞬気絶してしまったようだ。僕は、僕の中から大きなものが這い出す感覚で我に返った。たくましく張り出したくびれの部分が、最後の所に引っかかって、僕を小さく震わせる。
僕の上に覆いかぶさった直哉君が、酷く熱心なしぐさで、僕の髪を撫でている。僕は薄く目を開いた。

「あれ、先生、起きてる?」
「…起きてない。もうダメ。」

僕は慌てて言う。直哉君は僕以上に貪欲で、僕がへとへとになってもなかなか解放してくれない。

「そんな口が叩けるようじゃ、まだ大丈夫。」

大きな手が包み込むように僕の頬を押さえて、深い口付けが降りてくる。

「んっ、…ぅん…。」

僕の抗議なんてまったく聞き入れられない。
大体この体格差がいけないんだ。直哉君は全身で僕を押さえつけ、自分の好きなように僕の顔を傾けて、僕の唇をむさぼる。吐息さえ閉じ込められてしまう苦しさに、僕はもがいて直哉君の広い背中に爪を立てる。
直哉君の口付けはいつもつま先まで蕩かすくらい甘くて、あんまり自由に弄ばれていると、体だけでなく脳みそまで溶け出してしまいそうだ。

やっと頬から外された手は、早速僕の体中を這い回っている。何度も穿たれた穴は、簡単に直哉君の指を2本飲み込んで、湿った音を立てた。

「やぁ…、もう、3回も…したのに…っ。」
「へえ、数えてたんだ。余裕…あるじゃん。」

どうしてこんなに、裸の時の直哉君は意地悪なのだろう。
僕はたやすく直哉君の言いなりになる体が癪で、逃げてみようと試みる。すると、わずかに浮き上がった腰とシーツとの間に手が差し入れられて、僕はあっけなくひっくり返されていた。
僕の中に納まったままの指が、僕に恥ずかしい声を上げさせる。
直哉君はそのまま僕の腰を抱えて膝を折らせ、僕のお尻だけを高い位置に固定してしまった。
僕はほっぺたをシーツに擦り付けたまま、僕のお尻が恥ずかしい水音を立てているのを聞かされている。直哉君はまた笑ったようだ。

「すっげーの、俺のと先生の汁が交じり合って…こういうの蜜壷って言うんだぜ。」
「やだ…もう、やだってば…。」
「嘘ばっか。カラダはこんなに正直なのに。ほら、もうらくらく入る。」
「あ、や、…あー…。」

熱い塊が押し入ってくる。いっぱいに押し広げられた太腿の内側の筋が、びくびく蠢いているのが分かる。喉が勝手に震えて、歌うような声を押し出した。

「ねえ、俺の形、ちゃんと覚えてよ。俺以外のものは絶対に覚えなくていいから…さ。」
「ひ…っ。」

貫いた腰をぐるりと大きく回されて、僕はシーツを固く握り締めた。開きっぱなしの口からは、唾液と喘ぎ声が間断なくあふれ続けている。

「やだなんて、うそばっかり…ほら、先生が喜んでいる音、ちゃんと聞いてる?」

ゆっくり抜き差しされる熱い塊。そのたびにジュプジュプと際限なく音がする。
あまりの恥ずかしさと全身をなぶる快楽に、頬が嫌になるくらい火照る。

「聞こえない、そんなの、聞こえ…ひゃあん…。」
「ふうん、それなら、もっと頑張らなくっちゃ」
喉元を震わすような笑い声を立てて、直哉君の大きなものがさらに奥まで突きこまれる。同時に、大きな手が僕の胸を這い回り始めた。

「やだぁ…もう、何にも…出ないよう…。」

右胸の飾りを摘まれた。押しつぶすようにもみこまれると、連動するように腰が揺らめいてしまう。
僕のこの小さな体の隅々まで、直哉君は知り尽くしている。

「いいよ、何にも出なくても。先生はただ感じていればいい。ここ…好きでしょう? ここも?」

うなじをぞろりと舐め上げられた。手は、女の子にするように、胸をもみしだくまま。

「それに先生は、何にも出なくなってからの方が、いい声で啼いてくれる。」
「や…、あっ、ああああ…っ。」

伏せたまま強張っていた体を、不意に引き起こされた。無論、お尻には直哉君をくわえ込まされたままで、僕は自分の体重で自分自身を大きく穿っていた。
直哉君は片手を僕の膝に引っ掛けて、足を閉じられないようにさせておいて、さらに手を伸ばした。
空っぽの癖に、浅ましくたぎっているそこを、大きな手のひらに包み込まれてしまう。

「やっ、やだよう…っ、ほんと、もう無理…っ。」
「無理でいいってば。」

指先が天辺をからかうように刺激する。一番鋭敏な部分をこじ開けるようにされると、あられもない声と一緒に背骨の底からこらえ切れない快感が、震えを伴って駆け上がってくる。
涙がまた、頬を伝って落ちていくのが分かる。もう直哉君の愛撫に答えられないくらい空っぽにさせられても、まだ欲望には限りがない。

滾るだけ滾って出口のない苦しさなんて、直哉君には分からないに決まってる。まるで僕が直哉君を想う心そのものの苦しさだ。

「何にもないって言うけど、だらだらよだれがこぼれてる。ほら、分かる?」

握りこまれて上下にしごかれる。僕は泣きながら、直哉君の手に爪を立てた。
全身馬鹿みたいに痺れているから、たいした抵抗にもなりやしない。

「もう、お願い、許して、変になっちゃいそうだよう…っ!」
「俺、先生のそういう弱音聞くの、すごい好き。」

直哉君は嬉しそうに、僕のうなじに唇を押し当てたまま囁く。

「いいよ、変になっても。そうしたら一生閉じ込めて、いいように弄んであげる。」

今だっていいように弄んでいるくせに…! 僕はかすれた声で途切れ途切れに悲鳴を上げながら、大きい直哉君の塊が僕の中に叩きつけられるのを覚えこんでいくしかない。

直哉君が少し強く、僕のうなじを噛んだ。僕の中の熱いものが膨れ上がって、4度目の破裂を迎えた。
僕は全身を痙攣させた。絞りつくされて何にも出ない筈の物が、わずかばかりの汁で直哉君の手のひらを汚している。



電子レンジが軽い電子音を立てた。ややあって左の膝が熱い物に包まれた。

僕は薄く目を開けた。蒸しタオルを片手にした直哉君が、丁寧に僕の体をなぞっている。
バスルームで僕をからかいながら散々洗った後でも、直哉君はこうして丁寧に僕の体をぬぐってくれる。
気持ちのよさに思わずため息をつくと、直哉君は小さく笑いながら、僕のつま先を口に含んだ。

「もう…本当にダメだからね。」

僅かに囁くような声しか出ない。直哉君はほんの少し笑ったようだ。

「分かってます。ちゃんと服も着ているでしょう?」

僕は直哉君を見上げて、ちょっと顔をしかめた。
ボクサーショーツ一枚が、ちゃんと服を着ている状態なのだろうか。それに、そう言えるのは直哉君ばかりで、僕は丸裸のままだ。
しっかり気を張っていないと、またいつ何時弄ばれてしまうか分からない。

でも、直哉君は癪なくらい、僕の本心を読み取るのがうまい。
いつまでもその行為が恥ずかしくて、必ず拒んでしまう僕だけれども、そのダメと、本気のダメを、直哉君は怖いくらい正確に聞き分ける。

「後ろからするのは、キライだって言ってるのに…。」
「でも、先生、凄く感じてくれるじゃありませんか。」

蒸しタオルが、今度は手のひらを包んだ。指の股の端々まで丁寧にマッサージしてくれる。
起き上がれないくらい疲弊してしまっている僕には、それがなんともありがたくて、僕はされるまま全身を直哉君に預けている。

「…そんなことじゃないんだよ。後ろからだとさあ…。」
「はい? なんですか?」

直哉君はにっこり笑いながら先を促す。僕は口を尖らせて言うのをやめた。
後ろからされると、僕が直哉君を抱きしめられないからキライなんだなんて言うと、ますます直哉君を付け上がらせそうだ。

「僕はさ…本当は、添い寝だけで十分なんだ。なのに、何で毎週毎週、こんな、フルマラソンみたいになっちゃうの…。」
「フルマラソン…? 俺、まだ余裕あるけど…今度挑戦してみます? 俺のフルマラソン。」
「やだ。冗談じゃないよ。」

慌てて言う。この上さらに頑張られたら、僕は一生足腰が立たなくなってしまうかも。

「先生が、週に1回しかさせてくれないのが悪いんです。せめて二日に一辺だったら、この半分くらいで済ましてあげるのに。」

それじゃ、どの道僕は一生足腰が立たないじゃないか。僕はあきれて直哉君を睨みつける。
今度は僕の髪を丁寧にぬぐっていた直哉君は、僕のしかめっ面に笑顔を返した。

「でも、先生、けっこう慣れてきたじゃありませんか。なかなか気絶してくれなくなってる。俺、先生が気絶しちゃった後、先生を好きなように弄り回すのが好きなんだ。だから、これからも手を緩めるつもりはありませんよ。」
「…別に気絶しなくたって、好きなように弄り回すくせに…。」
「うん、こういうの、先生も好きでしょ?」

僕は口を尖らせた。すっかり気分を読まれているのが悔しい。

「さあ…これで一通りいいかな。後で何か作ってあげますから、食べてくださいね。」
「……そんなのはもうどうでもいいんだってば。」

僕は苦労して体を返すと、大きく開いた僕の横のシーツを叩いた。
キングサイズの直哉君のベッドは、僕一人には広すぎる。

「はいはい。」

苦笑して、直哉君が僕の隣に滑り込んでくる。僕は広げられた腕を捕まえて、直哉君の胸元に自分の位置を確保した。
どんなに極上の羽まくらより、この直哉君の腕が、僕にとっては最高の枕だ。
鼻先には直哉君の綺麗な胸。僕は安心して、直哉君の匂いを確かめるように額を寄せた。

「…もう何にもしてくれなくっていいんだから、たっぷり僕の枕になってて。」
「はいはい。仰せのままに。」

腕がゆっくり巻き込まれて、裸の胸と胸とを密着させる。
僕は、そのなんともいえない暖かさにうっとりして、静かに目を閉じる。
この一時のために、僕は毎週直哉君に、自分自身を捧げていると言っていい。
直哉君の綺麗で激しい消毒が、僕を今よりもっと直哉君を好きな僕に、洗い流してくれるのを待っているんだ。