危ない夜




どっかり座った慎吾は、膝の前の鞄を抱え込むようにしてにこにこと上機嫌だ。

「約束やもんな、や・く・そ・く! 今日はたっぷり乱れてもらうで〜。」

私は大きくため息をつく。
予想は付いていたが、やっぱり忘れていてはくれなかったようだ。

慎吾の抱えているバッグの中には、極めて付きのイカモノ、はっきり言って様々なオトナのオモチャが詰まっている。
慎吾が修学旅行に持ち込もうとしたそれらを、私は何とか言いくるめて持ち帰らせることに成功したが、今日その代償を迫られているのだ。
その場しのぎとはいえ、自信満々に乱れてみせるなどと口走るのではなかった。

とは言うものの、前言を撤回するなど、私の望むところではない。

慎吾はといえば、子供のように無邪気な顔でバッグを広げ始めている。
スイッチを入れれば奇怪な動きをするグロテスクなものを取り出して歓声を上げたかと思ったら、次には何やら皮の衣装を取り出した。

「ささ、脱いだり。今夜はこれ着て、な。」

私は目を眇めた。やたらジッパーだのバックルだののついたそのつなぎは、一見堅牢そうに見えて実はこの上なく危なげだ。
セットになった手袋とブーツには怪しいフックが付いていて簡単に行動を制限されそうだし、パンツの肝心な部分がぐるりとあわせになっていて、そこだけ取れる感じが何とも胡散臭い。

「約束やもん、な♪」

嬉しそうな慎吾の顔を見ていると、無性に腹が立ってきた。
私が日々十二分に満足させてやっているのに、なぜこの筋肉はこんな欲求不満のような代物を手に入れてくるのか。

もう一度大きく呼吸をすると、私は声を落ち着けた。
ぴくぴく引きつるこめかみを悟られないように気をつけて、私は慎吾に猫なで声を出す。

「そう急かさないで。今、コーヒーを入れてきますから。」
「こーひー? なんやの? 天音、紅茶党やったんちゃう?」
「ええ、でもね、コーヒーの方が効き目が有りそうじゃありませんか。」
「効き目? なんの?」

本当はコーヒーに期待するところはその苦みだけだが、私は知らん顔をして言う。

「夜は長いでしょう。コーヒーの方が、しっかりと眠気を払ってくれそうじゃありませんか。」

喉元をくすぐるようにすると、慎吾の鼻息が荒くなった。

「コーヒーなんてのうても、眠られへんようにしたるけど、天音が飲みたいんやったらいいわ。けど、早うしてえな。」

私は含み笑いを漏らすと、台所へ向かう。
さっきお弟子さんに落としてもらったコーヒーをカップに移すと、懐から懐紙を取り出した。
小さく畳んだそれは、あらかじめすり潰した白い粉が入っている。それを慎吾専用のカップにたっぷりと投入した。



思ったよりずっと効き目が早かった。私はだらしなく転がってよだれを垂らして眠りこける慎吾を見下ろした。
なにか幸せな夢でも見ているのだろうか。むにゃむにゃと呟く口元は少し微笑んでいる。

私が慎吾のコーヒーに混ぜたのは、修学旅行前日、おばあさまに分けていただいたアモバンだ。
即効性というこの睡眠導入剤は、半錠では苦いばかりで私には十分効かなかったけれども、慎吾には抜群によく効いてくれた。
もっとも、3.5錠分も飲ませたのだ。効いてくれなくては困る。

「さて…。」

私は慎吾の持ち込んだバッグを開けた。よくもまあ、こんなにたくさんのものを集めたものだ。
さっき慎吾が遊んでいた物のほかにも、私の理解の及ばないものが何点か。それに、この鞭は、やっぱり私を叩こうと思っていたのだろうか。

それにしても、普段から財政難でひーひー言っている慎吾のどこに、こんなに大量のものを買い込むだけの蓄えがあったのだろう?
私はふと、出発前のおばあさまのお言葉を思い出した。
皆さんでおいしいものでも召し上がって、ゆっくり楽しんでいらっしゃいとおっしゃっていられなかったか?
今回は珍しく、おばあさまからの資金提供が無いと思っていたのに。
まさかと思うが…。

私は更に鞄を探る。底の方に、皮製の手錠と足かせを発見。
さっきの皮スーツは手袋さえ慎吾に装着は無理だけれども、これなら十分大丈夫。

慎吾の今日の服装は、前あきのコットンシャツだ。大変都合がよろしい。
ボタンを外すと、案の定素肌の上にそれを直接着ている。大男なので扱いが大変だが、何とかそれを脱がせてしまう。
ぴったりしたジーンズは更に脱がせるのが大変だったが、それも何とか引っこ抜く。
そうして素っ裸に剥いた慎吾をごろんとひっくり返して、私は慎吾の腕に、後ろ手に皮手錠を止めた。
ついでに足首も繋ぎ、それらを余っていた鎖で繋いでしまう。
慎吾はそんなことをされながらも、かあかあと高いびきだ。何だかちょっとつまらない。

更に悪戯心が涌いた。私はそろそろと腕を伸ばして、慎吾が着ろとせがんでいた皮スーツを取り上げた。
慎吾が起きないのを確かめると、そっと袖を通してみる。
まるであつらえたかのように私のサイズにぴったりだ。
身体中を拘束するようにきゅっと締まったスーツは、体を捻るたびに皮独特の摩擦音がする。
調子に乗ってブーツも手袋もつけた。
かかとの高いブーツは私の背筋をきりりと伸ばし、指の股に食い込む手袋が私の神経を研ぎ澄まさせる。なんだか興が乗ってきた。

慣れないハイヒールは歩きづらかったが、私は数歩進むと、鞭を拾い上げた。
空中で揮うとひゅんと風を切る音がする。威勢はいいが、力が分散されるから、当たっても音ほどには痛まないはずだ。

「慎吾、起きなさい、慎吾。」

尖ったハイヒールの爪先で、つんつんと慎吾の引き締まった腹をつついた。
ふがっと鼻を鳴らして寝ぼけた慎吾に呆れると、私は軽く腕を振り上げた。鞭が軽くしなる。
躊躇わず、ほんの少々力を込めて、慎吾の胸を叩いた。

「ふぎゃっ! 痛いなあ、なんやの…? あれっ?」
「さあ、あなたのお望み通り、着ましたよ。これでいいんでしょう?」

両手を広げて、慎吾の前にスーツを着込んだ体を晒す。
私の白い肌に食い込むようなデザインのスーツは、酷く扇情的に移るはずだ。

「おお! 思った通りよう似合う…って、あれ、なんで俺裸やの? しかも、なん? 手が! …足もぉ!」
「こういう事をしたかったんでしょう?」
「いや、俺やのうてぇ!」

芋虫みたいに転がった慎吾は泣き出さんばかりだ。
慎吾がいかに屈強な腹筋の持ち主でも、さっき手錠と足かせとを鎖で繋いでしまったから、立ち上がることは物理的に不可能だろう。

「ややー! こんなん、ややー!!!」

往生際悪く叫ぶ慎吾を、鞭の一振で黙らせる。
慎吾は歯医者にも注射にもびびるチキンだから、鞭は聞かせるだけでも効果的だ。

「ところで慎吾、聞きたいんですけど…。」
「な…、なん?」
「これらのいかがわしいものを買うお金、一体どうしたんです?」
「あ…。」

さあっと、慎吾の顔色が変わる。分かりやすい反応で面白いほどだ。

「今回の旅行は珍しく、おばあさまからの援助が無いと思っていたのですが、もしかして…。」
「だ、…だって、これで天音が喜べば、飯食うたって何したって一緒やん! だからいいかと思って…。」
「で、使い込んだんですか?」
「…………はい。」

しゅーんと音が聞こえるような勢いで、慎吾が小さくなる。私はふっと息を付いた。

「おしおき決定ですね。」

ひゅっと鞭を振る。慎吾は更に小さくなってぷるぷる震えた。



「…しかし、なんともえげつないものですねえ。こういう物は…。」

私は呟いた。バックの中身を全部ぶちまけてみると、なんだか用途の不明なものがまだあった。

「これはなんです?」

どうやら下着のようだが、それにしては異様な形だ。
慎吾はそれを突きつけられると口篭もった。

「そ、それは…、おもらししないための…。」
「ああ、男性用の貞操帯ってところですか。こんな風になってるんだ。ふーん…。」

にっこり。私が笑うと慎吾が身を竦める。

「付けてみます?」
「やや────っ!」
「じゃあ付けてみましょうか。」

いくら暴れたところで、すでに拘束済みである。
多少手間取ったが、私は赤ん坊におむつを付けさせるように、慎吾の股間にそれを装着することに成功した。
もっともそんなに大変だったわけでもない。脅えたように縮こまっている慎吾の可愛いジュニアを私が摘み上げると、慎吾はそれだけで動けなくなってしまう。

やはり皮製のそれの筒状になった部分にジュニアを押し込んで、慎吾の筋肉質な尻の狭間にTバック状の部分を通して、ぎゅっとバックルで止めてしまえば出来上がりである。
筒になったその拘束部分から、慎吾のジュニアのおつむだけがこんにちはしていて、なんだか愛らしいようだ。
私が触ったことで成長しかけていたそこを締め付けられて、慎吾は泣きそうな声を上げた。

「痛い、痛いって、天音、なあ、堪忍や。」
「何を言っているんです。こんな物を私に使うつもりだったんでしょう?」
「ちゃうねん、俺が欲しかったのはそのつなぎだけやねん。これはセットでどーしょーもなくついてきてしもうたんや!」
「問答無用。」

どっちにしろ放っておけば、好奇心旺盛な慎吾は、いずれ私に試そうとしたはずだ。先手を打つに限る。

「それで…、バイブばかり5本もどうするつもりだったんです。…試してみます?」
「ひい! やや────っ!」
「うーん、あいにく、そのパンツの紐が邪魔ですねえ。これは保留にしておきましょう。」

慎吾のバックを奪う気など毛頭無いが、ちょっと苛めてみる。慎吾はすでにべそべそだ。

「これから、これは…なんです?」

私には繭玉にしか見えないものが入っている。長いコードに転々と繭のようなものがつながっているのだ。
コードの先にはスイッチもある。

「それは…、ローター…。」
「ローター…? ああ。」

私だってまったく無知というわけではない。名前を聞かされれば、それをどんな目的に使うか分かる。
私はその繭を一つ手に乗せてスイッチを入れてみた。
微細な振動が、革の手袋越しにもむず痒いような感覚を伝える。

私は慎吾を振り向いてにっこり笑った。慎吾が引きつった笑みを返してくる。

「付けてみましょう。」
「やめーっ!」

慎吾の抗議を無視して、私はそれを慎吾の乳首に貼り付けた。
こんにちはしているジュニアのおつむの周りにも念入りに。
慎吾はばたばた暴れるけれども、テープで止めてしまったからそう簡単には外れない。
スイッチを入れるとヴ…ンという微かな電子音と共に、慎吾がぶるっと震えた。

「あ…あ…。」
「ねえ、どんな感じです?」

私は慎吾の太股の内側をそっとなで下ろしながら囁いた。
足の拘束は足首だけだから、膝は比較的自由に動く。
その膝が、ローターのじれったいような動きに連れて次第に開いてきていた。

「く、くすぐったいねん。変な感じ…。あ、天音、触らんといてって…。」

ジュニアのてっぺんが涙を流し始めている。私は指先でそこを弄んでいた。
こんなにきつく拘束されているのに、健気に成長しようとしているジュニアは、とても愛しく感じられる。

「だって…、可愛いんですもの。慎吾の…ここ。」

膝をこじ開けて、そこに体をねじ込んで、私はその涙を掬うようにぺろりと嘗めた。
とたんに慎吾が大きく震える。

「だ…だめやって、そんなんしたら…。」
「だって、おもらししないためにこれを付けているんでしょう? なら平気じゃないですか。」

口の周りに付いた少し苦いそれを、舌で嘗め取ると、慎吾はうーうー唸り始めた。

「これ! 取ってぇな! もうなんでも言うこと聞くし!」
「お仕置きなんですから、あなたの言うことが通るわけ無いでしょう?」

実を言うと、私の方も慎吾の思いがけない可愛い反応に、体が熱くなってきている。
この皮スーツは実に機能的だ。硬く締め上げて、私の興奮を慎吾に悟られずに済む。
私は鞭を取り上げた。

「そうですね、せっかくお仕置きなんだから、少し叩いておきましょうか。」
「ええっ! それはややーっ!」
「なんでも言うこと聞くんでしょう?」
「だってまだこれ取ってもろてないし! うわー! 天音、堪忍やって!」

にわかに芋虫みたいにぐねぐね動き出した慎吾を、私は容赦なくひっくり返した。
やっぱり叩くのはお尻がいいだろう。

慎吾はそう毛深い方でない。どこもかしこも小麦色だが、パンツの後は僅かに白い。
その、まだ固い桃みたいな尻をそっと撫でた。
鞭を当てるには、手足の鎖が邪魔をして叩きにくい。
私の手が這うのを感じると、何を期待したのか慎吾がおとなしくなった。私はそのまま鎖を慎吾の肌に押し付けると、鞭を振り上げた。

ピシリ。

「キャーン!」

大型犬みたいな悲鳴を上げて、慎吾が反り返る。
そんなに痛くはない筈だ。鞭の這った後はうっすら赤くなっただけで、蚯蚓腫れにすらなってない。

「そんなに痛い筈ないでしょう?」

もう一度鞭を振り下ろすと、今度は悲鳴を上げずにぶるぶる震えた。
鎖に引っ張られて天井を向いている足の裏が、変な風にひしゃげている。

「違うのや、ケツはそんな痛ないけど、天音に叩かれるたびに何やぞくぞくして、その…。ムスコが…痛いねん。」
「…へえ。」

慎吾の恥ずかしそうな告白に、私も体がかっと火照ってしまう。
その動揺を悟られたくなくて、私は慎吾の貞操帯の後ろ紐に指をくぐらせた。
きちきちに締め上げてあるそれは、さして太くない私の指でもなかなか潜り込めない。

「可愛いことを言ってくれるじゃありませんか。」

指に力を込めてぐっと引っ張る。更に締め付けられた慎吾が、オットセイめいた声を上げた。

「それじゃあ御褒美。」

パチンと指を離して、手と足を繋いでいる鎖を外してやる。
ようやく体が伸ばせてほっとした様子の慎吾の、足の上に私は座り込んだ。
少し赤くなってしまった尻の上に伏せて、ぺろりと舌を這わせる。

「ひゃ! 天音、そんなんしたら…あかんて!」

泣き出しそうな声。取り合わずに更に深く顔を静めていくと、慎吾は本気で暴れ出した。
何とか寝返りを打った慎吾に、私は転がり落とされてしまう。

「んむぅ! う────っ!」

慎吾は不自由なままの足を高く振り上げると、そのままひょいっと起き上がった。
そして、驚いたことに体を縮めて跳ね上がると、後ろ手にまわされていた両腕をひょいと飛び越えてしまったのだ。
私が苦心して後ろ手に縛り上げたというのに、今や手錠は体の前に付いている。

「やれやれ、凄いですね。」

私はそういって近づくと、いきなり足を払った。
だいぶ自由になったとは言え、まだ手錠と足かせの付いたままの慎吾は、その場で転がってしまう。
私はその胸の上にまたがった。しかしそれはあまりうまい手ではなかった。
慎吾の胸に貼り付けたままのローターの振動が、直接私にも響いてくるのだ。

「あっ、…んっ。」

思わず下唇を噛み締めたのを、慎吾は見逃さなかったらしい。
自分も荒く息を付きながら、不遜ににやりと笑った。

「どうしたのや、天音。そろそろ…欲しいんちゃう?」
「うるさいですね…。」

しかしにわかにせっぱ詰まってきた私は、きつくてたまらなくなったパンツの前部分のジッパーを外した。
全部外してしまうと、下着無しでガーターを付けているようなみだらな格好になった。
私はそのまま慎吾の太い首に手をまわして、頭を持ち上げた。ちょうど慎吾の目の前に私の頭をもたげたそれを突きつける格好だ。

「…口でして下さい。」

我ながら声が上ずっている。
慎吾はにやりと笑うと、舌を出して、私の先端だけをぺろりと嘗めた。

「あ…っ。」

思わず胴震いしてしまう。だが、慎吾はもぞもぞと動くばかりで、それ以上触ってくれない。
じれったくなった私は、それを慎吾の口元に擦り付けてしまう。
夜も更けて、薄らと無精ひげの伸び出した慎吾の顎はざりざりと刺激的で、私は熱いため息を吐いてしまう。
滴り始めた先走りで、慎吾の頬がぬらぬら光った。

「どうしたんです。早く…咥えなさい。」
「だあって、いくら俺が尽くしてやっても、俺は自由になれへんのやもん。」
「嘘おっしゃい。貞操帯ならとっくに取ったくせに。」
「はは。ばれてたか。」

手錠が前に付け替えられた時点で、遅かれ早かれ慎吾が自分で勝手に貞操帯を外してしまうことは予想が付いた。
私はそっと肩越しに後ろを振り返った。
狭苦しい皮のサックを外された慎吾ジュニアは、いつもよりもっとのびのびと天を突いているように見える。
思わず私は期待に体を震わせてしまった。

「今日は天音が、俺をイカせてくれるんやろ。」

慎吾が、まだ張り付いているローターを毟り取った。
それは狙い違わず私の股間をこすり上げ、私に嬌声を上げさせる。

「…天音の下の口がぱくぱくしてるんが分かるで。」
「ん…っ、下品…な。」

私の抗議を聞く気が無いのか、慎吾は焦らすように、目の前に付きつけられた私のものを咥えた。
だが、いつものように熱い舌を絡めてくるでなく、一番敏感な先端に意地悪く歯を当てる。

「ひ…っ。」

いきなりの刺激に、腰の中心がうずいて膝まで震えてしまう。
私は慎吾の首を抱きかかえたまま荒い息を付いた。

「天音…、すごいエロい眺めや。全身皮で締め上げてるくせに、肝心なところだけまっぱで、びくびく震えてて。
俺、もうこのままでいいから、早くお前に突っ込みたい。ぐちゃぐちゃに掻き回して、泣かせたい。いいやろ?」
「は…あ、慎吾…。」

呻くような私の声を肯定の返事と取ったのか、慎吾は私を胸の上に乗せたまま、ゆっくりと身を起こそうとする。
私はバランスを崩しかけ、慌てて新語の頭を押し戻した。

「だめです…、慎吾。」
「なんやの。そんな濡れた声出して…。」

私は無意識に唇を嘗め回した。
頬は火照っているし、目には涙が滲んでいる。
慎吾の言う、殺人的に色っぽい顔になっているだろう。

「今日は、私が女王様なんですから…、あなたは指をくわえて見ていればいいんです。」

私は慎吾の上に座り込んだまま、背中を反らして腰を前に突き出し、大きく膝を開いた。
慎吾からは私の恥ずかしい部分が丸見えになっている筈だ。
なんだかとても大胆な気分になっていた。

滑らかな皮に包まれた指を、慎吾の口に差し込んだ。からかうように蠢かしてやると、熱い舌が絡んでくる。
たっぷり唾液を含んだそれを引き抜くと、そっと内股に這わせた。

「ん…っ。」

くちゅ、と可愛らしいさえずりが聞こえる。待ちかねた入り口が、私の指を迎え入れるため息みたいな音だ。
すでに熱くなっているそこは、躊躇うこと無く私の指を受け入れる。

「ねえ、慎吾、見えます…? 私の…恥ずかしい姿…。」

指が深く潜り込み、引き抜かれるたび、秘めやかな水音がする。
私は全身をわななかせて指を増やした。
片足を胸まで引き付けると、慎吾が大きく喉を鳴らした。

「あ…天音、そんなん…焦らしなや…。」

私は膝を抱え上げていた手を下ろして後ろへまわした。
逞しい屹立はすぐに探し当てられる。手袋越しにも脈打つそれを、私はぎゅっと握った。
慎吾がたまらずに呻く。

「つぅ…っ、天音…っ。」
「これを私のここにぶち込みたい?」

声が掠れている。
指だけではもの欲しくてたまらなくて、みだらに収縮を繰り返すそこも、期待の為にひっきりなしに痙攣する内股も、すべて慎吾の目に晒されているかと思うと恥ずかしくてたまらない。
なのに、私はそれを止められないのだ。
心ならずも慎吾の言うことを聞いてしまっている。
いつもと違う環境が、私をいつに無く乱れさせていた。

ちゃらりと鎖の鳴る音がする。
皮手錠につながれたままの慎吾の両手が私の尻を摩っている。
僅かに露出された部分は酷く敏感になっていて、私は背中を反らして震えた。

「凄い…ええで、むちゃくちゃエロいわ、天音…。
こんなんやったら、俺、お前を壊しそうや…。」

私が好きな、慎吾のハスキーな声が、私の理性をくすぐるように囁かれる。
その声だけでイキそうになりながら、私は何とか声を繋いだ。

「私が…女王様だって言ったでしょう…? あなたは木偶みたいに寝てればいいんです。」

そろそろと腰を上げる。膝が笑って思うように動けない。
慎吾の両手をまたぎ越して、私は移動を済ませた。
手を伸ばして、慎吾の屹立を支え、もう一方の手は自分自身の入り口を寛げる。
私のしどけない仕草に、慎吾が唸った。

散々焦らしたせいだろう。慎吾のものは、見たことも無いくらい猛っている。
私はそれを自分の肌に押し当て、少し躊躇した。

熱くうずく肉を突き崩されたい。めちゃくちゃにされたいと思う一方、恐怖心が涌く。
僅かな唾液だけでは到底受け止めきれない熱を感じる。
触れている部分は欲しい欲しいと喚くようにひくつくのに、私の最後の理性の一欠けらが、警戒を呼びかけるのだ。
ほんの少し腰を落としただけで、そこが引き攣れていくのを感じた。

「あ………んっ。」
「どうしたのや、天音、怖じ気づいたんか?」

下から笑いを含む声が上がってきて、汗ばんだ大きな手に、腰の辺りを掴まれた。
あっと思う間もなく、力いっぱい引き降ろされる。
じゅぶっ、と、一際濡れた音がする。文字どおり串刺しにされて、私は高い悲鳴を上げた。

「ひい…、あ…あ…っ。」

待ち望んでいた熱い衝撃。ぴりりと皮膚が裂ける痛みより、中心を抉られる快感に攫われて、私は全身を震わせた。

「ほれ…、動いてんか、女王様。」

大きな手がひたひたと私の太股を叩く。
その手がからかうように私の中心を弄ろうとする。私は夢中でそれを振り払った。
これ以上快感を与えられては、どうなってしまうか分からない。

慎吾の逞しい手にしっかりと指を絡め、それを支えにして、私は腰を浮かした。
ズッという音と共に訪れる喪失感は、慌てて腰を落とすとすぐに満たされる。
床につけた膝がガクガクと震えて思うように動けない。それでも私の中にめり込んでいる慎吾の熱い固まりに浮かされて、私は胸を喘がせていた。

「ふ…っ、うっ、慎吾、もっと、…もっとぉ…。」

いつのまにかあられもないことを口走っている。
いきなり両手が振りほどかれて私は慎吾の広い胸に手をついた。

「女王様…、もう俺、辛抱たまらんで。」

太股の上を鎖が這っていく。慎吾が私の腰を捕まえたのだ。
その手にぐっと力が込もる。

「ひぃあっ、ああっ、あ…っ、あ…っ!」

私は汗ばんだ頭を振りたてた。
慎吾が力任せに私の細腰を掴んでは引き上げ、叩き付けていた。
繋がって抉られ続ける部分から、全身に痺れるような快感が広がっていく。
いつもと違う姿勢での結合は、慎吾を今まで感じたことの無い深い所まで感じられる。

「ああっ、慎吾…っ、いい…っ。もっとぉ! もっと奥まで…!」

私は思わず慎吾の裸の胸に爪を立てていた。
開きっぱなしの口の端から唾液が溢れて流れるのが分かる。

「うっ、くっ、可愛いで、天音…。」

掠れた声で囁かれたと思ったら、不意に両手が腰から膝裏に回された。
それを高く持ち上げられて、私はあっけなく後ろに転倒する。
中に深く慎吾をくわえ込んだまま、私と慎吾の位置が入れ替わった。
覆い被さってくる慎吾の、箍が外れたような目の光がほんの少し怖い。

「天音…、天音…っ!」
「ひっ、あ、ああああぁぁぁ…っ!」

瞼の裏が真っ白に閃くような快感。のしかかってきた大きな体が、力任せに私を蹂躪する。
押しつぶされそうな息苦しさに喘ぐと、両の頬を抑えられ、むさぼるように口付けられた。
分厚い舌がねじ込まれて、私の悲鳴ごと封じ込めるように絡み付く。私は夢中で応じた。
すっかり汗臭くなった頭に両腕を絡めて、力いっぱい抱き寄せた。
慎吾の動きはますます激しくなり、もがく私を抑え込むように押し付けると、今まで感じたことの無い深い所で大きく弾けた。

「天音…、綺麗やで。いつもよりもっとずっと綺麗や。」

ようやく身を起こした慎吾だが、私の中から去る気配を見せない。
鎖に繋がれたままで不自由そうな両手が上がって、私の胸の辺りのバックルやジッパーを外していく。
すっかり汗ばんだ肌が晒されていくのを、私は荒い息をつきながらぼんやり見ていた。

慎吾はまだまだ体力十分で、予告通り私を眠らせないつもりらしい。



「……………痛い。」
「ほんま、堪忍やって。いいかげんこれ外してぇな。なっ。」

結局段階を経て素っ裸に剥かれた私は、うつ伏せに伏せたまま頬を膨らませていた。
慎吾はあんな夜を過ごした翌朝だというのに、元気全開で、さっきから甲斐甲斐しく私の世話を焼いている。
慎吾が動き回るたび、手足の鎖がチャラチャラ鳴って鬱陶しい。

昨夜の慎吾はまさしく野獣になってしまった。私は嵐の中に放り出されたように、蹂躪に身を任せるしかなかったのだ。
叫びすぎで喉は痛いし、出血するまで励んだのなんてずいぶんしばらくぶりだ。
おまけに重たい慎吾が私の体を好き勝手に弄んだものだから、私の全身いたるところに、跡が付いている。
キスマークだけではない。鎖を押し付けられた痣の方がかなり多い。

私はじっとり慎吾を睨んだ。
香油を滴らした熱いお絞りで私の手足を宥めるように拭っていた慎吾は、困ったような嬉しいような顔をして、へらりと笑った。

「……嫌です。しばらくそのままでいなさい。」
「ええーっ! だってこのままじゃ、俺、パンツもはけんやないの!」

私が慎吾に嵌めた皮手錠と足かせの間の鎖は、それぞれがせいぜい20センチだ。
大柄の慎吾には狭すぎる歩幅だし、いちいち両手が動いてしまう。
その拘束具に付いていた小さな錠を隠してしまったから、慎吾はいまだに自由になれない。
だが、私は慎吾の訴えを却下した。

「私だって全身痛くて服を着るどころの騒ぎじゃありません! あなたみたいなケダモノは、そうして鎖に繋がれてるのがお似合いです!」
「ええー、そんなあ…。かなんわ、まったく…。」

ぶつぶついいながらも、慎吾はそっと私の脹脛を摩ってくれる。
私はふと漏れた笑みを慎吾に見られないように顔を背けた。

今の不満は体の痛みに対してだけで、昨夜は素晴らしい気分を味わったのだ。
腕の中の慎吾はいつもよりずっと猛々しく、雄々しく見えた。
与えられる快感も、目もくらむほどだったのだ。

たまには…1年にいっぺんくらいなら、こんなプレイをしてもいいかも。
雪紀と咲良みたいに年がら年中変態プレイには励めないが、たまにだったらこんなお遊びも、新鮮でいい。
そう考えると、思わず頬が緩む。柔らかく微笑んだのを、背中越しの慎吾はどうしてか悟ったらしい。

「…本当はよかったんやろ? なあ、天音。」

私の不機嫌が実はふりだけなのを知って、慎吾は私の肩に手を回してきた。
肌をくすぐる指がいやらしい。

「またしような。昨夜の天音は天女みたいに綺麗やったで。俺はもう骨抜きや。」

私は少し肩を竦めた。
素直に従ってしまうのはなんとも小癪だ。

「今晩は、バイブ使ってみよ。またあのかーいらしい天音見られる思うたら…ああもう、辛抱たまらんわ、俺。」

昨夜の今でこんな事をいい、鼻息を荒くする。
私はちょっぴり頬を染め、それでもがっついた慎吾に、きつい肘鉄を食らわせた。





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