いろいろアキラ君 3




「大変よくお似合いでございます。」
「うむ。それでは仕上げに入ってくれ。あ、袖丈はあと5ミリ長いほうがいいな。そのほうがアキラ君の華奢な手首がよく映えるだろう。」
「畏まりました。」

仮縫いの終わったスーツを眺めて、緒方は得心したように何度か頷いた。アキラは細い木綿糸を切らないように慎重にスーツを脱ぐと、眩しそうに緒方を見上げた。

「緒方さん、すみません。試着にまで付き合って頂いて。」
「なんの。僕が紹介した店だからね。責任を持って最後まで付き合ってあげるよ。」
「でもそんな…。緒方さんだってお忙しいのに…。」

遠慮深く言うものの、アキラの頬は嬉しそうに染まっている。アキラのいかにも少年じみたためらいをからかうように、緒方は静かに笑った。

「ついでに、そのスーツは僕がプレゼントすることにしよう。君のプロ試験合格のお祝いにね。」
「そんな! そこまでして頂いては…、父に叱られてしまいます。」

アキラはびっくりして目を見張った。長い睫に縁取られた大きな瞳が見開かれると、吸い込まれそうな吸引力を感じる。緒方は、また更にアキラに惹かれていく自分に少し驚きながらアキラの柔らかな髪を一房手に取った。

「これくらいさせてくれたまえよ。君は僕の恩師の愛息子であると同時に、僕の可愛い弟弟子でもあるんだから。」
「でも…、そこまでは、本当に…。」

アキラは恥ずかしそうに目を伏せる。緒方の長い指が、触れるか触れないかの位置でそっと頬を掠めていく。

「どうしてもだめかい? 君がこのスーツに身を包んだときには、いつでも僕を思い出して欲しいんだ。」
「…緒方さん…。」
「それにね、洋服を贈ると言うのは、特別な意味があるんだよ。」
「特別な意味…ですか。」
「そう、それも実地でちゃんと教えてあげるから。」
「は、…はい、そこまでおっしゃってくださるなら…。」

アキラは綺麗な笑顔を惜しげもなく緒方に向けた。緒方は胸のうちでそっとほくそえむ。
そう洋服は、脱がせるために贈るのだ。アキラなら、どんなに綺麗な素肌を見せてくれることだろう。
老舗のテーラーの店主が、一つ思わせぶりなしわぶきをした。



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