白鳳マーメイド




プール開きである。

祥太郎は、上着とネクタイと靴下を取り、ズボンの裾を折ってプールサイドを歩いていた。
ここ白鳳高校には、50Mプールと、飛び込み用のプールと、なぜか波の出るプールまである。あまり授業向きでないそれは、理事長の趣味だという噂もあるが、真偽の程は確かではない。
とにかくも、そのように奢った設備を持つプール敷地であるから、全学年集合のプール開きなどという賑々しい行事も、らくらく行えるのであった。

もっとも、お坊ちゃん学校である白鳳高校は、もちろん冷暖房設備も完備されている。
夏が来たからと言って、祥太郎の母校のように涼に飢えるようにプールを待ち望む生徒達もいない。ごくのんびりとした行事なのであった。

担任を持たない祥太郎は、本来ならプール開きに出席する義理はない。だが、急な教師の欠席と、水辺の誘惑が祥太郎をここに招いたのだった。
だから彼は前述のような中途半端な格好でこの式に臨むことになったのだ。

「祥太郎センセ、せめてジャージくらいなかったの?」

プールに胸まで使った生徒が、祥太郎を見上げて言う。祥太郎は苦笑を漏らすと小首を傾げた。

「川崎先生がお休みされたから、僕はその代理なんだよ。急なお話だったから、生憎着替えを用意してなかったんだ。」

生徒はふうんとあいまいに頷くと、勢いよく水を蹴って仲間達の方へ向きを変える。その透明な水しぶきを少し羨ましそうに見やって、祥太郎は振り向いた。側に誰かが立っていた。

「朝井先生。」
「あ、住園君。」

フレームレスの眼鏡がトレードマークの生徒会長は、眼鏡を取っても殆ど印象が代わらない。ほんの少し目付きが柔らかくなって見えるのは、きっと焦点を定めにくくなるからだろう。
祥太郎は気まずげに目を眇めた。雪紀はドキドキするようなビキニの水着を着用していた。それがまた、細い割にしっかりと筋肉の付いた身体によく似合う。
やせぎすで生白い祥太郎にはとてもまねのできない姿だ。

「はあ、またずいぶん大胆な水着だねえ。」
「これですか? このあとのレセプションで、模範水泳があるんです。少しでもいいタイムを出したいですからね。直哉もあの通りですよ。」

競泳用ということらしい。雪紀が指差す先を見ると、やはり眩しい水着姿の直哉が、プールの反対側でバインダー片手に指示をしている。
祥太郎はこっそりため息を付いた。これではどちらが年上かまったく分からない。

「模範水泳って、何を泳ぐの?」
「僕は自由形。直哉はバタフライです。」
「ふ〜ん。」

雪紀より僅かにがっしりした直哉にバタフライはとても似合いそうで、祥太郎は得心した。
祥太郎も子供の頃にはスイミングスクールに通わされたので、一通り泳げることは泳げるが、とても人様の前で泳ぐほどにはうまくない。

「本格的なんだ。本当に行事の多い学校だねえ、ここは。球技大会だろ、プール開きのほかに競泳大会があって…、2学期には女子部と合同の、体育祭と文化祭と合唱コンクールか…。」
「理事長がお祭り好きですから。ところで先生、裏レセプションってご存知ですか?」
「裏…?」

祥太郎は首を傾げた。雪紀の妙に悪戯っぽい口調がちょっと気になる。

「毎年、プール開きの時には、2年生と3年生が、投票で1年生を一人選ぶんです。それで、選ばれた生徒は、栄誉をもってめでたく賞されるんですよ。」
「へ…、へえぇ。」

祥太郎は首をかしげ直した。どうしてわざわざそんな事を、この忙しい生徒会長が言いにきたのだろう。

「時に、…朝井先生。」

端正な雪紀の顔が、ますます悪戯っぽくなった。

「先生は視力はいいほうですか? コンタクトとか?」
「僕? 両方とも裸眼で1.2だよ。」
「そう、それじゃ、…心配はありませんね。」
「…………何が?」

満面の笑みの雪紀に不安を覚えて問い返す祥太郎だったが、すでに雪紀はその場を離れている。
もう一度首をかしげる祥太郎の後方が不穏にざわめいていた。



「おい、花本咲良はどうした!」
「はい、実行委員長、なんでも朝から食いすぎで、衛生室に直行とか…。」
「なにいっ! じゃあ、2番人気の加納瑞樹はっ!」
「そ、それが…、花本に付き添って衛生室に行ったきりとか…。」
「な、なんと…っ!」

実行委員長と呼ばれた3年生はきりきりと眉を釣り上げた。パシリをしていると思われる2年生たちが側でおたおたしている。

「3番人気は…う───む…。」
「ど、どうしましょう、実行委員長。今年は…止めにしますか?」
「む、いかん、それはいかん! 伝統の行事を俺の代で途切れさすのは断じていかん!」

なぜか学生というのは伝統にこだわるものなのだ。

「あの人も新入生といえば…言えん事もないな…。」
「そ、そうでしょうか? すっ飛ばして、4番人気の学生にすれば…。」
「いかん! 今年の投票分布を見てみろ。123位がダントツで、後は似たり寄ったりだ。そんなマニア受けしかしない奴を、今年のナンバーワンに据えるわけには断じていかーん!」
「じゃ、じゃあ…。」

パシリの2年生がごくりとつばを飲み込んだ。

「決行…するぞ!」
「は、はい。」

実行委員長の血走った目の先には、真っ白いシャツを初夏の日差しに光らせて、のんきに歩く祥太郎がいた。



「ちゅうもーく! これから白鳳マーメイド発表会を行いまーす!」

突然耳元で上げられた大声に、祥太郎は驚いて振り返った。いつのまにか祥太郎を取り巻くように、水着姿の学生たちが直立している。

「え? 発表会? 白鳳マーメイド? え?」

突然の事態に、祥太郎は助けを求めるように当たりを見回した。
主に拳を振り立てて喜んでいるのは2年生と3年生だけ。1年生は全員きょとんとしている。教師たちは苦笑いをかみ殺したような顔だ。

「厳正な投票により、例年1年生をエントリーいたしますが、1位と2位が不慮の事態で欠席のため、繰り上がり3位の祥太郎先生を本年度の栄えある白鳳マーメイドに認定いたしまーす。」
「え? だからマーメイドって? えっ、僕?」

歓声が上がった。祥太郎の戸惑う声などそれですっかり掻き消されてしまう。
いまいち事態を飲み込めない祥太郎は、説明を求めてもう一度あたりを見回した。プールサイドの対角線上に、焦った顔の生徒会副会長と、それをのんきそうに押しとどめている会長がいる。

「ハイビスカス贈呈―!」

祥太郎の顔ほどもありそうな大きさの、真っ赤なハイビスカスの造花が恭しく差し出された。それは実行委員長の無骨な手によって、祥太郎の左耳の上にそっと挿される。
南国のポスターみたいな飾り付けに、初めて祥太郎は焦りを感じた。

「や、あの、僕一応教師だから…っ、て、ねえ聞いてる?」
「生徒諸君、マーメイドを称える拍手を!」

地面を揺るがすような歓声とともに、いっせいに拍手が巻き起こった。
次第にその拍手はまとまっていき、大きな手拍子に変化する。何かを催促するようなその手拍子に、祥太郎はたじたじとなった。

「静粛に! 皆さん、マーメイドは故郷に帰してあげなければなりません!」

おお、ともああ、とも聞こえる歓声が沸き起こる。祥太郎はおろおろした。
何で生徒たちはこんなに盛り上がっているのだろう。いや、それ以前に、どうして僕がマーメイドなんだろう? 故郷に帰すって、実家にでも帰れという事なのだろうか?

戸惑う祥太郎の肩を誰かががしりと掴んだ。見る見るその手は数を増やし、祥太郎は肩だの腕だの足だのをわしわしと掴まれていた。ふわりと体が浮く。

「え? え? え?」

やっと雪紀を振り切った直哉が、人波を掻き分けてこちらへ駆け寄ってくるのが目に入る。だが、興奮して身を乗り出した生徒たちは、なかなか直哉を通さない。

「ひとときの潤いを与えてくれたマーメイドに感謝とお別れの言葉を!
マーメイドさんありがとう!」
「「「「「「さよーならー」」」」」

一糸乱れぬ正確さで、生徒たちが声を揃える。水平に持ち上げられた体が、一度大きくプールサイド側へ振られた。

「ええぇっ!」

ふわりと重力から解き放たれる。下は水面だ。
祥太郎は空しく空を掻いた。当然なんの手応えもない。

ザバンッ! ガバゴボゴボゴボゴボ…………。

全身を平手打されたような痛みに続いて、ぐんと水圧がのしかかってきた。
祥太郎の、大きく見開いたままの目の前を、鼻やら口やら洋服の裾やらから生まれた大小さまざまな泡が、視界を遮るように立ち込めていく。色素の薄い髪がワカメみたいにゆらゆら顔の周りを揺れる。うっかり口を開けてしまうと、大きい泡ががばりと出て、その隙間を目指すように大量の水が押し寄せてきた。

祥太郎は焦った。プールに投げ込まれたのだと気付くのに数秒かかった。
慌てて水を掻く。鼻の奥にまで水が入ってしまい、ツンと痛い。子供の頃、水泳は一通り習ったはずなのに、水面に出るまで夢中でしていたのはなぜか犬掻きだ。
水を吸った衣服は存外重くて、祥太郎は両手両足を必死になってばたつかせた。
明るい水面の向うから、はやし立てるような声が聞こえてくる。かすかに撤収と叫んでいるのは、あの実行委員たちなのだろうか。

「ぶはあっ! ガハゲホゲホッ! は…はあっ!」

ようやく顔を出した祥太郎を、大声援が迎えた。プールサイドを実行委員たちがすたこらと逃げ出していく。
いつのまにか直哉が間近まできていて、心配そうに手を差し伸べてくれた。

「大丈夫ですか、朝井先生。」
「ちょっと…なんだよ、これ〜。」

祥太郎はひいひい言いながら水の中を歩いた。思ったよりも深いプールで、祥太郎は飛び跳ねないと前に進めない。
やっと岸に着くと、直哉の大きな手が勢いよく引っ張り上げてくれた。

陸に上がると、びしょぬれの衣服は一気に重くなった。大きめのシャツが体にびったり張り付いてしまっている。なぜか直哉があたふたと目をそらした。

「うあ…。パンツまでぐっしょりだよ〜。」
「先生! そんな挑発的な事しないでください!」

祥太郎がズボンの前を引っ張って中を覗き込んでいると、直哉が慌てて遮った。祥太郎は訳が分からなくてきょとんと首をかしげた。

「そ、それよりも、濡れて困るものとか…なかったんですか?」
「う…、まあ、時計は防水だし、携帯も上着のほうだから、別に困るものはなかったけど…は〜…。」

クリーニング代を思って頭が痛い祥太郎だった。

「まったく…あいつら、きつく言っておきますから!」

祥太郎は憤慨した顔の直哉を見上げた。そのままぐるりを取り囲む生徒たちを見る。
どの顔も楽しそうに生き生きと輝いている。その楽しそうな面々を見ていると、祥太郎はすっかり怒る気を殺がれてしまう。

「…いいよ、伝統の行事なんだろ。」
「し、しかし…。」

祥太郎はかがむと、漂ってきたハイビスカスを取り上げた。放り投げられたときに、髪から落ちてしまったものだ。左耳の上に挿すと、歓声が巻き起こる。

「みんな、投票してくれてありがとう! びしょぬれのマーメイドは一足先に失礼するよ。」

拍手が巻き起こる。祥太郎はにっこりと直哉を見上げた。みんながこんなに楽しそうにしているのに、水など差せないではないか。

「みんなが楽しそうだから、まあいいよ。こんな事、そうはないだろうし。ここはひとつ大人の余裕で…ね。」

呆然とする直哉を残して、祥太郎はすたすたと去っていく。
びしょぬれの後ろ姿はなんともみすぼらしくて、とても格好いいとは言いきれない。

取り残された直哉は、このマーメイド選抜は、可愛らしいのみを基準に投票されたものだという事は、祥太郎に知らせないほうがいいのだろうなと思っていた。



生徒たちの前ではカッコつけて去っていった祥太郎だったが。

「へくしょ、へくしょ、…へっくしょっ!」
「センセ、だいじょうぶ?」

瑞樹は気遣わしげに祥太郎を見た。元々色白の祥太郎だが、今日の顔色はいつもより更に青白い。
皺だらけのシャツとぺたんと張りついた髪の毛が、なんだか祥太郎をいつもよりもっと小さく見せていた。

「だ、だいじょうぶ、…たぶん。」
「もう、だから俺の体操服貸してあげるっていってるのに。」

祥太郎はぶるぶると首を振った。
確かにサイズ的には瑞樹のものならぴったりだろう。だが、これ以上生徒に間違われるような格好はしたくない。

一足先に校舎に引き上げた祥太郎は、だが、着替えの用意などある訳もなかった。
仕方なく、職員用のトイレに篭り、一生懸命ハンドドライヤーで服を乾かす羽目になったのだ。だが当然そんな場当たり的な対処ではどうにもならず、祥太郎はじっとり湿った服のまま、冷房完備の教室で授業をする事になってしまった。
しかもいくらなんでもトイレで全裸になるわけにも行かず、下着は滴らない程度に絞っただけ。いつもなら心地よい冷房の風が、今日は祥太郎を凍えさせているのだった。

「感謝しろよ、瑞樹。本来ならプールにぶち込まれるのは、おまえか咲良だったんだから。」

仏頂面で直哉が言う。瑞樹はきょとんと振り返った。

「え、俺? なんで?」
「投票で、咲良が1位でおまえが2位だったんだよ。僅差だったけどな。」
「え、ちょっと待って、君たち知ってたの、それ。」

祥太郎はびっくりして腰を浮かした。
直哉はますます苦い顔になり、その後を雪紀がにっこりと引き継いだ。

「実行委員の方から、生徒会にお伺いが立てられますから。」
「じゃ、じゃあ、僕があんな目に会う事も知ってたの?」
「いえ、大体先生がエントリーされるなんて事が過去にはなかった事ですし、3位ですから楽観してたんですけどねえ。」

3位までが僅差であった事はおくびにも出さない雪紀だった。

「いくらなんでも、先生に手は出さないだろうと思っていたのが失敗でした。実行委員を呼び出しましょうか?」
「………いいよ、もう…。」

祥太郎は怒る気も失せて肩を落とした。
雪紀はああ言っているが、あの時、実行委員を止めようとした直哉を引き止めていたのはこの雪紀だったのだ。しかも、彼は、思わせぶりな言葉で祥太郎のコンタクトの有無を確かめてもいる。れっきとした確信犯だ。

「僕が体調の悪い咲良君の代わりになったって思えば…。」
「…咲良なら、2時間寝たらけろっとしちゃって、さっき学食で大盛り定食平らげてましたけど…。」
「あ…そう…。は〜…。」

祥太郎の悲壮な決意の一言も、あっさり否定されてしまう。
祥太郎はやるせない気分になって、応接セットのテーブルに突っ伏した。合板の冷たさが頬に気持ちいい。

「センセ、ちょっと邪魔。ん?」

いつものようにテーブルいっぱいに資料を広げて計算機とにらめっこをしていた瑞樹が、祥太郎の肩を押しのけようと手を伸ばし、そのままぺたぺたと背中や首や頬を触った。

「なんか、センセ、あっついよ。熱あるんじゃないですか?」

そりゃ風邪もひくわな、と祥太郎はぼんやり思った。
エネルギー満タンの男子高校生たちは、いつでも暑がりで冷房を最強にしてしまう。そうでなくても、冷房の吹き出し口は教壇の真上だ。
祥太郎はいつも上着を着込んで、それでも寒いなと感じながら授業をしている。濡れた衣服での寒さといったらなかった。

「あっ、ホントだっ!」

いつのまにかぺたぺたと触る手が増えている。目の前に座っていた瑞樹だけでなく、生徒会室にいた生徒全員が集まって、祥太郎を取り囲んでいるのだった。
祥太郎は触られるのがうるさくなって、仕方なく顔を上げた。
目の前には生徒会の面々。雪紀が楽しそうな顔をしているのも不思議だが、直哉のおっかない顔はどうした事だろう。

「大丈夫、ここが片付いたら帰って、後は寝るだけだから。」
「片付いたらって…、俺らまだ当分帰りませんよ。」

生徒会は何かと多忙だ。今日のプール開きの後始末や、夏休みに向けて各クラブの夏季合宿の申請・手続き、休み明けすぐの生徒総会の準備等、する事はいくらでもある。

「やっぱり顧問としては、みんなを置いて帰るわけには…。」
「あ、全然問題ないです。心置きなく帰ってください。」

相変わらずにこにこした雪紀にきっぱり言われ、祥太郎はがっかりした。
ここの生徒会は極めて自治率が高いのは分かっているが、せめてもう少し当てにしてくれてもいいではないか。

「だ、だけど一応…。」
「朝井先生。」

頭上から直哉の冷たい声が降ってくる。祥太郎は思わず首を竦めた。

「具合悪いのにうろうろされて、風邪をこじらされても困るんです。ここは俺達で何とでもなりますから、どうぞ先生はお帰りください。」
「や、でも…。」

祥太郎はそっと食い下がってみた。とたんにじろりと高い位置から睨み据えられる。

「帰りなさい!」
「…………はい。」

祥太郎はしゅんと肩を竦め、小さく肯く。
実はもう、さっきからだるくて仕方ないのを我慢しているのだから、帰っていいのはありがたいけれども、生徒に脅されて帰る教師ってどうだろ、と、自分に突っ込みを入れた。
すごすごと立ち去りかけて、思い付いて振り向く。

「明日、土曜日で学校お休みだけど、生徒会活動あるんだよね。僕も来るから。」
「来なくていいです。ゆっくり休んでてください。」

直哉に一刀両断される。祥太郎はなんだか情けなくて泣きそうになった。

「そんな…、一応、顧問としての…。」
「じゃあ、風邪が治ったら来てもよろしい。」

直哉の言葉は冷たい。祥太郎はがっくり肩を落とすと、今度こそ本当に生徒会室を出た。

「副会長、冷たい!」

瑞樹がふくれっつらで直哉を睨んだ。直哉は睨み返す事でそれに応じた。
雪紀はそんな二人を笑いながら眺めている。その笑い顔が、祥太郎がいたときと微妙に変わっているのに気付くものがどれくらいいるだろうか。

「直哉は過保護だから。そんなに心配?」
「うるさい。」

大体直哉は、雪紀に腹を立てているのだ。そもそもあの時、雪紀が止めたりしなければ、直哉は十分に間に合って祥太郎をプールに着衣でぶち込む事など許さなかったのに。

直哉は改めて怒りを覚え、きつく雪紀を睨んだ。だが、彼には直哉の苛立ちなどまったく通用しない。

「大丈夫。あれで祥太郎センセ、結構頑丈なそうだから。」

ところが、そうでもなかった。  



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