俺はフロからあがると、天ちゃんに教わったとおりに早めに寝室に引っ込んだ。
金蝉は難しい顔で書類とにらめっこしてる。昨日早く上がった分、今日はオシゴトが多いらしい。ちょうどいい。
俺はちょっとドキドキしながら、部屋の中を見渡した。
天ちゃんはなるべく大きな服を着ろと言った。だけど俺の服なんて数が知れてる。だから金蝉の服を借りることにした。
昨日金蝉がお茶をこぼした服が、洗濯から帰ってきてる。洗剤といっしょにかすかに金蝉の匂いがするそれを、俺は素肌の上に着た。
なんで裸の上に着なくちゃいけないんだろ?
金蝉の服は思ったよりずっと大きくて、どうしても片一方の肩が落ちる。面倒くさくなって、両方の肩を合わせることは諦めた。裾は引きずるくらい長いけど、両脇に深いスリットが入ってて、ちょっと動くと足が丸見えになる。足をしまうことも、すぐに諦めた。
明かりを少し落とし、俺は金蝉のベッドの上に這い上がった。
天ちゃんは、俺にこう教えてくれた。

「いいですか、悟空。何でもいっぱいはいけません。大きな声もダメ。力一杯もダメ。君のできることの半分の力でなんでもなさい。
君の大きな目はチャームポイントですけど、できたらあんまり見開くのもダメ。
部屋の明かりを少し落とせば、きれいな金色が潤んだみたいに見えるでしょ。」

俺は細目の練習をしてみた。
ほっぺたに変に力が入って顔が疲れる。そうでないと眉間にしわが寄る。
こんな努力をしないと、金蝉は気持ちいいことを教えてくれないのかな。
俺が四苦八苦してるうちにだいぶ時間が経ったらしい。気がつくと、金蝉が怪訝な顔で俺を見ていた。

「なんだ、猿。人のベッドの上で。」
「金蝉。」

あ、振り向いた途端にでっかい目を見開いちゃった。俺は慌てて目を細める。
それで後、天ちゃんはなんて言ってたっけ。そうそう、ここに座ってだ。

「金蝉、ここに来て。…ここに座って。」
「言われなくても行く。俺のベッドだからな。…なんだその珍妙なツラは。」

珍妙って事は、誉められてないんじゃないかな。ちょっと天ちゃんの設計図と違うぞ。
だけどまあ、他にどうしようもなかったので、俺はそのまま続行した。

「…ひっつくな。暑苦しい。」

天ちゃんの言う通り、半分の力でそっと回した腕を、金蝉はあっさり払った。
天ちゃん、全然作戦どおりに行かないよ。
俺はちょっと意地になった。

「なあ、金蝉。」
「なんだ、俺は疲れてるんだ。いいかげん…。」

金蝉が言いかけて絶句した。俺が金蝉の耳をペロンと舐めたからだ。
ギョッとした顔で俺を見るので、今度は目を狙った。
金蝉がのけぞったので、それはほっぺたにしか届かなかったけど。

「なんだっ! 一体何のつもりだっ!」

金蝉が怒鳴る。おかしいな、粘膜を擦りあわすと気持ちいいはずなのに。
天ちゃんは、べろとか耳の中とか目玉が粘膜だって教えてくれた。他にもあるけど、あとは金蝉に教えてもらえって。

「気持ち良くない?」
「なに…を…。」

金蝉の顔色が見る見る変わる。
しまった、まだムーディー足りなかったかな。
ちょっと焦る俺の腕を、金蝉は力いっぱい握った。俺が痛みに思わず顔をしかめると、低い声で言う。

「…天蓬あたりの差し金だな。」

げ、もうばれてる。天ちゃん、ぜんぜんダメじゃんか。きっとすぐばれるとは聞いていたけど、こんなにすぐとは思わなかったよう。
俺があたふたしたので、金蝉は確信したらしい。額のあたりでピキッと音がするのが聞こえる気がした。

「おまえは俺に一体何をさせたいんだ。」
「な、なにをって、だから…。」
「俺はそんなに役立たずか。」
「えっ…。」

思いがけないことを金蝉は言った。いつもみたいにゲンコを振り上げて怒鳴り散らすのではなく、噛み締めた歯の間から軋りだすような低い声。

「おまえにとって俺はそんなに不満か。俺はできるだけのことをやった。お前が一番良いように仕向けてやったつもりだ。その上まだ何を望む。俺に不満があるのなら、お前の好きなように…天蓬の所にでも捲廉の所にでも、望むものを叶えてくれるところに行けばいいだろう。」

それってどういう事? 俺は金蝉のところにいちゃいけないの? 
ほっぺたがすうと冷たくなった。俺の顔から目をそらした金蝉が酷く遠くに見えた。

「嫌だ! …違うよ!」

俺は金蝉の胸元を握り締めた。俺の顔を見ない金蝉を振り向かせたくて、ぐいぐい引っ張った。
チラッと天ちゃんの最後の言葉が頭の中をよぎる。
天ちゃんは確かこう言った。

「どうせこんな小細工、金蝉には通じっこありません。すーぐばれちゃいますよ。だけどそれからが悟空の腕の見せ所です。頑張ってくださいね。」

腕の見せ所って、何だよう、天ちゃん。
だけど俺には今はまったく余裕がない。
あんなに練習した小さな声も半開きの目も、まったくできないでいた。
だって、金蝉が俺をいらないって言ったら、俺は…どうしよう、本当にどうしよう。

「確かに…天ちゃんに教えてもらったけど、だけど、金蝉に不満なんてないよっ! 金蝉…こっち向いてよ!」

金蝉の顔が歪んで見える。目玉が熱くなって、涙がボタボタ落ちる。俺は人前で泣かないって誓ったのに。

「き、気持ちいいこと教えて欲しいって言ったのは、天ちゃんがお互いに気持ち良くなるって言ってたからだよ。俺、金蝉のこと、気持ち良くさせてあげたかったんだよう!」

拳でぐいっと涙を拭いた。それでも呆れるくらいほっぺたが濡れる。
金蝉がゆっくりと俺のほうを見る。だけどどんな顔をしてるかなんて見えやしない。

「俺、…俺、金蝉にもうこれ以上何かして欲しいなんて思ってない。金蝉は俺にいっぱい素敵なことをくれたから、だから今度は俺が金蝉になにかしてあげたかったんだ!」

どうして止まんないんだこの涙。チクショウ、俺は涙なんか誰にも見せたくないのに。

「俺の…俺の不機嫌な太陽。俺が、笑わせてやりたかったんだ!」

金蝉の手が乱暴に俺の後頭の髪を掴んだ。息をつく暇もなく、俺は金蝉の胸の中に手繰りこまれていた。
髪が強く引かれて、顔を上向かされる。目の前に金蝉の深い紫の瞳があった。

「…バカ猿。」

吐息が香るほどに金蝉が近い。引っ張られて反った喉がひくりと鳴った。
「…俺は我慢してたんだぞ。」
「…やだ。」

俺は涙を見られたことが恥ずかしくて、顔を背けようとした。だけど金蝉の手は強力で、俺は金蝉の顔以外何も見ることができない。

「俺、もう、誰かの前で泣くのは止めたのに。涙なんかいらないのに。」

喋ると余計に涙が出る。無理に上を向かされているから、涙は耳の中にまで流れ込んだ。ふ、と、金蝉が表情を緩めた。

「おまえは俺の胸の中でだけは泣いていいんだ。」
「え、な、…んっ。」

金蝉の綺麗な顔が目の前に迫ってきて、あっという間もなく、俺は言葉を封じられていた。
乱暴な金蝉の手。髪が引っ張られて頭が痛い。だけど唇は優しい。からかうみたいに俺の上唇と下唇を交互に甘噛みする。
息苦しくなって口を開けると、俺の歯をこじ開けて金蝉の舌が入ってくる。
歯の裏と上顎を舐めまわされて、時々ピリッと噛みつかれて、どうしても逃げ腰になってしまう俺の舌を弄ばれて、気が付くと俺はすっかり金蝉に身を預けていた。
頭がポーっとして目の前がくらくらする。十分息ができなかったからだ。きっとそうだ。
だけど全身が熱いのはどうしてだろう。心臓がものすごい速さでドキドキ言う。きっと金蝉にも聞こえちゃうんじゃないかって思うくらい。

「こ、金…蝉。」

自分の声が、誰かが遠くで喋ってるみたいに聞こえる。
やっと俺の唇を離してくれた金蝉は、真剣な顔で俺を見た。深いスリットの間から、金蝉の手が忍び込んで、俺の胸をゆっくり撫でてる。

「気持ちいこと教えて欲しいんだろ。…恐いのか? 震えてるぞ。」
「う…ううん。」

やっと金蝉が俺の髪の毛を離してくれたので、俺は慌ててうつむいた。
体が震えてしまうのは、なんだか不安だから。何にも知らない自分、知ることで変わってしまいそうな自分が不安だから。
金蝉は何にも恐くない。

金蝉は俺の髪を離した手で、俺を深く抱きなおした。俺は軽々と金蝉の膝の上に抱き上げられてしまう。
なんだかお尻が痛い。金蝉の服の中に何か硬いものがあって、それが俺のお尻にあたってる。

「金蝉、なんか…、ひゃっ。」

俺のお腹の上を滑ってきた金蝉の手が、いきなり俺の大事なところを握った。大きな手が俺の両足をこじ開けて、袋までしっかり握りこまれちゃってる。

「やっ、金蝉、あっ…あっ。」

金蝉の手が柔らかく動き出すと、背中がぞくんとした。
全身の神経がそこに集まってしまったみたい。強く弱く擦り上げられて、金蝉の手の感覚だけしか感じられなくなっていく。

「やぁ、金蝉、…だめぇ。」

気持ちよすぎてどうにかなっちゃいそう。
俺は思わず金蝉の手に爪を立てた。下半身が緊張して、体の中に硬いものが入ってしまったような感じ。
金蝉の胸にほっぺたを押し当ててすすり泣くと、金蝉が小さく笑うのが聞こえた。
その声を聞いた途端、さらに全身が熱く火照る。
膝をすり合わせたいのに、金蝉の大きな手が邪魔でそうできない。体の奥が一際熱くなって、その熱い塊がせりあがってくる。
俺は金蝉の腕の中でぶるぶるっと体を震わせた。ぴゅるっと小さな音がした。凄い開放感。緊張しきっていた体から力が抜ける。
俺が顔を上げると、金蝉が濡れた掌を舐めていた。

「オトナ…ね。ふうん。」

くすっと笑われて、頬がかあっと火照った。金蝉のこんな意地悪な、だけど満足そうな顔、見たこと無い。
俺は急いで膝を合わせた。これでおしまいかと思ったんだ。だけど金蝉はまだ許してくれなかった。
膝裏を取られて掬い上げられる。俺は金蝉のベッドの上に転がされていた。
大きすぎる金蝉の服は、もう俺の体をいくらも覆っていない。すっかり落ちてしまった両肩は俺の腕を半ば拘束していて胸まで丸見えだし、スリットの入った裾も、臍までまくれあがってる。
まるで自分で選んだ金蝉の服に縛り上げられているみたい。金蝉は俺の顔の両脇に手をついた。

「気持ち良くさせてくれるんだろ。」
「う…うん。」

金蝉は俺の額から髪を梳き上げた。顎が上を向くと待ち構えていた金蝉に唇をついばまれれる。
柔らかくてあったかくて、金蝉の触れているところから、甘い痺れが全身に広がっていく。
下を触られるよりこっちのほうが気持ちいい。ああそうか、これが粘膜の擦りあいなんだ。
体が蕩けそうで、ふにゃっと弛緩した足の間にまた金蝉の手が潜り込んでくる。また触られちゃうのかな。
だけどこんどの金蝉の手はもっと奥までもぐりこんできた。

「ひあっ。あんっ。」

変な声が出ちゃった。だって金蝉が変なところ触るから。そんなところ、トイレでしか触ったことない。

「やあ、だめ、…だめだよう、金蝉…。」

抗議すると、唇を塞がれてしまう。金蝉の指がゆっくりと俺のすぼまりを撫でている。くすぐったくて震えが走る。だけど…だけど、じんわりとその指先が気持ち良くなってくる。
俺は自分から深く膝を折った。もっといっぱい撫でてもらいたい。金蝉がこれで気持ちいいなら、もっとめちゃくちゃにされてもいい。
優しく撫でているだけだった金蝉の指先にぐっと力がこもった。

「痛あっ!」
指がめり込んだ瞬間、俺は背中をそらして叫んでいた。さっきまで気持ちいいだけだった金蝉の指が急に凶器になったみたいに俺を痛めつけた。
金蝉がはっと息を飲んだ。焼いた鉄を突っ込んだみたいだった金蝉の指は、すぐに引っ込められた。
それでもまだひりひりする。俺は金蝉の顔を見上げた。きっとまた、泣きそうな顔をしていたんだろう。
金蝉はちょっと困ったように笑った。

「だめだな。何を焦っているんだろう。おまえはまだ…幼すぎる。」

金蝉は俺の頭を大事そうに裸の胸の中に抱え込んだ。深いため息を付く。一体いつ服を脱いだんだろう。
なんだか金蝉が我慢をしているようで、俺は心配になった。

「金蝉、これで…いいの?」
「………。」
「ちゃんと気持ち良くなった?」

だって俺のお腹にあたってる金蝉のものはまだ硬いまんまなんだ。俺だってさっき、硬いのがなくなったらすんごく気持ちが良かった。
金蝉はまだ気持ち良くないんじゃないかな。

「金蝉…。」

答えない金蝉の胸が俺の目の前にある。呼吸のたんびに小さな胸のしるしが緩やかに上下する。
俺はそうっとそれを舐めた。
なんだかとっても可愛くて、そうしたかったんだ。

「…うっ。」

金蝉が震える。

「…バカ猿。」

小さく呟くと、金蝉は俺の手を取った。なんだかおずおずとそれを自分の足の間に導く。
金蝉のものはフロで見たときとはまた違う形をしていた。俺はためらわずそれを握った。

「わ!」

俺が指を巻きつけた途端、金蝉のそれはむくむくと頭を擡げた。たちまち組んでいた指が解ける。
戸惑う俺の腰を、金蝉は力いっぱい抱き寄せた。
俺のお腹にそれを押し当て、ついでに俺のものまで一緒に握りこむ。
俺はいっぱいに広げた手の中に俺のものと金蝉のものを両方握って固まっていた。
俺の手の上を金蝉の力強い手が押さえつけていて、離れることはできない。かわいそうに、俺のアレ、大きさも体積も全然違う金蝉のものに押しつぶされそうにひしゃげている。

「こ、金…蝉。」

金蝉がゆっくりと動き出した。俺のお腹と手、それからアレにゆっくりと自分の昂ぶりを押し付けて擦りあわす。
金蝉の吐息が俺の額に掛かる。少し弾んだ息。息だけじゃなくて金蝉の全身が熱くなってる。
金蝉の手とアレにはさまれてキュウキュウ締め上げられてた俺のアレまで、刺激されて熱くなってくる。
金蝉が時々うめき声を漏らすたび、ぞくぞくするほど気持ちいい。

「ねえ金蝉、気持ちいい? …ねえ。」
「…ああ。」

嬉しくて俺は何回も聞いた。金蝉は何度でも肯いてくれた。
いつのまにか金蝉の一方の手が外されて、俺のお尻に回されていたけど、俺は手を離さなかった。
金蝉の指がゆっくり俺のすぼまりを撫でてる。少し物足りなさそうな指の動き。全身が蕩けていきそう。
俺はまたほっぺたを金蝉の胸に擦り付けて、時々金蝉の胸を舐めた。
だって俺が舐めるたび、金蝉がぴくぴく震えるんだ。きっと金蝉も気持ちいいに違いない。
そうしているうちに俺の手の中の金蝉がいっそう大きくなって、ピシャッと勢い良く弾けた。


少しうとうとしちゃったみたい。俺は金蝉の腕の中で目を覚ました。
金蝉は俺を大事に抱えたまま、ぼんやりした目をしてる。なんだか金蝉が後悔しているみたいに見えて、俺は心配になった。

「…金蝉。」

小さく呼びかけると、ふっと穏やかに笑ってくれる。少しだけ安心できた。

「あーあ、俺もまだ若いよなあ。…いいか、悟空、このことを天蓬には…。」

言いかけて苦笑する。

「お前が天蓬の口車に敵うわけないな。ま、…いっか。」
「なあ、金蝉、俺、思うんだけど…。」

天ちゃんの言ってた気持ちいいことと今のことは、なんか違う気がする。俺が恐る恐るそう言うと、金蝉は俺の頭を撫でた。

「いいんだよ。そのうちゆっくり教えてやる。そんなに急いでオトナになることねえよ。」

そっか。金蝉がいつかちゃんと教えてくれるんだ。それまで俺は、このままでいていいんだ。いつか金蝉がちゃんと教えてくれたとき、俺はオトナになれるんだ。

いつか、きっと。

「それにしても、天蓬の奴…、悔しがるだろうな。俺も自分の偉さに脱帽しちゃうぜ。」
p 金蝉が俺を抱きしめたままくすくすと笑う。何がそんなにおかしいのかわからないけど、今俺は、ものすごく満ち足りた気分だから何でもかまわない。

俺の不機嫌な太陽が、笑ってくれてるから。



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