君のカタチ




  「う…ん。」

頭が痛い。俺はゆっくり目を開けた。
薄っぺらいカーテン越しに射す朝日が、部屋の中を水底のような色に染めている。目を開くと、鈍い頭痛は頭の芯に押しやられていき、心臓の音と一緒にかすかに俺の体を揺るがした。

三蔵とシタ次の朝がだるいのはいつもの事だけど、今日は何かが違っている。俺は首を少し巡らせて、横向きに寝ている俺を背後から抱きしめるように眠っている三蔵を見つけた。

一昨日、酷い雨が降った。おかげでこの村の先の林道が崖崩れを起こし、俺たちは2〜3日の足止めを余儀なくされている。
それを知った三蔵が、なんだか怪しげな薬を手に入れてきたのは、ここを数日の宿に決めた昨日だ。

三蔵は、その薬を一緒に持ってきた酒のビンに直接入れた。なんだかいやらしそうに微笑んで、躊躇する俺にしつこく勧めた。
あんまり酒に強くない俺は、簡単に酔っ払ってしまう。コップに2杯も飲まされると、もう腰が立たなくなった。
三蔵は楽しそうに自分でもコップ酒を呷りながら、俺の服を剥き始めた。なんだか妙に体が火照ってしょうがなかった俺は、何にも疑問に思わずに三蔵の手を受け入れた。

「いい気分になってきたろ。」

三蔵が耳元で囁く。少しハスキーな甘い声で耳たぶをくすぐられると、それだけで俺は体の奥まで熱くなった。
たまらずに三蔵にしがみつくと、三蔵は満足そうに笑った。

「よく効いてるな…。今夜は泣くまでやってやるからな。」
「なに…? 効いてるって…?」

体中を撫でまわす三蔵の手に追い上げられながら、俺はやっと聞いた。三蔵の意味ありげな視線の先を追って、さっきの酒に気付く。三蔵がさも嬉しそうに酒に混ぜた薬が、そういう気分にさせる薬だったのだと気付くのに時間はかからなかった。

「や…っ、何飲ませたんだよ…っ。」

早くも俺の中心に到達した三蔵の手の動きと、ヘンな薬を飲まされた焦りから、俺は声を喘がせて三蔵を睨む。
だけどその強い視線も長くは続かない。三蔵の親指が虐めるように俺の天辺を捏ねている。くちくちと粘る音がして、泣き出したいような切なさが俺の全身を駆け抜ける。

「別にヘンなものじゃねえ。ちょっとばかり、…いつもより正直になれる薬だよ。」
「そんなもの…っ、飲まなくったって…っ。」

三蔵のふくよかな唇が俺の鎖骨の上を這っていって、俺にあられもない声を上げさせる。
俺はいつだって正直なのに。三蔵が俺を求めてくれるのを、正直に待ち焦がれてるのに。そう思うとほんの少し悔しかった。
いつだって俺をいいように泣かせて余裕たっぷりの三蔵が癪で、俺はいつもより力を込めて三蔵の背中に爪を立てた。まるでそれを合図のように三蔵の指が俺の中に入ってきた。

「あっ、……んんっ。」

中を捏ねまわしながら次第に奥深くに入り込んでくる指に誘われて、俺は腰をゆっくり蠢かしてしまう。鉤型に曲げられた指が俺のイイところを探り当てると、自然に足が大きく開いて腰が浮いた。

「焦るなよ。正直になりたいのは、おまえばかりじゃないさ。」

指が引き抜かれる。一瞬の空虚感の後、もっと確かな質量と熱さが俺を勢いよく串刺しにする。

「あ…っ、さんぞ、もっと奥…っ。」

自分自身でも聞いたことのないような甘い声が零れ出る。三蔵は俺をしっかり抱きしめると低く笑った。

「俺だってたまには、正直にお前に縋りついていたいんだぜ。」

言葉と一緒に耳たぶを噛まれると、俺はどうしようもないような充実感に小さく悲鳴を上げた。



昨夜はあの後どうしたんだろう。俺は、俺を緩く抱きしめている三蔵の腕の、キラキラ光る産毛を眺めながら思った。ほっぺたをちくちくくすぐっている金髪とおんなじように、こんなところまで金色なんだと思ったら、ちょっと三蔵が可愛く思えた。
まだ昨夜の酒が残っているらしく、頭がふわふわして考えがまとまらない。そう、酒だ。何回も口移しで飲まされた。最後には指に浸して、俺の体の中まで塗り込められて、俺は三蔵の言う通りに泣きじゃくらされたのだった。
怪しげな薬と強い酒は三蔵にもよく効いて、俺は抱きしめた腕から一時も放してもらえなかった。キモチよすぎてどうにかなりそうで、俺は何回ももう許してって懇願したんだった。
だけど結局許してもらえなかったみたいだ。だって今もこんな風に俺は三蔵の腕の檻に閉じ込められているんだから。

窓の外で小鳥が鳴いている。八戒たちが起き出してこないうちに、せめてシャワーを浴びよう。
俺に小さな子供みたいにしがみついている三蔵の腕を離すのはほんのちょっぴり残念だったけど、俺はそうっとその腕を外そうと試みた。その途端。

「ひゃ。」

俺は小さく悲鳴を上げ、慌てて口を押さえた。あまりの恥ずかしさに顔がかーっと火照る。

だって俺の中にまだ…三蔵がいるんだ。

三蔵がよく眠っているから、いつもとは感覚が違うのだけれども…それでも確かな異物感が俺の中で存在を主張している。
気がついてしまったら、もう意識せずにはいられなかった。体がだんだん…ヘンなカンジになってくる。どうしよう。いつも三蔵が俺の中から離れていくときの、なんともいえないキモチよさと切なさを思い出してしまう。
それを自分でしなくちゃいけないかと思うと、なんだか恥ずかしくてますます俺は赤面した。

だけど急がなくちゃ。日が昇りきる前に。

そうっと体を動かす。俺の中で三蔵の位置がズルリとずれる。

「あ…っ。」

小さく声が漏れてしまう。まだ薬が残ってるのかも。こんなことで感じちゃダメ。

だけど、体の位置を動かすために足を曲げるだけでも、俺の中は擦られてしまう。俺はむず痒くて気持ちよくて、カラダを震わせてしまう。

そうしてもがいているうちに、俺はだんだん息が荒くなってくるのを感じていた。だって、三蔵を起こさずに、自分も刺激されずに抜け出すことなんてできやしない。

だけど、なんだかおかしい。前よりも…三蔵が大きくなってない?

俺の胸の前で緩く組まれていた三蔵の腕が僅かに動いた。俺がそれに気付く前に、その手は悪戯に俺の胸を這っていた。

「きゃん!」

少しずつ膨れ始めていた乳首をきゅっと捻りあげられて、思わず俺は女の子みたいな声を上げてしまう。首の後から忍び笑いが聞こえた。いつのまにか三蔵が目を覚まして俺をぎゅっと抱きしめている。体の中に収まっていた三蔵も、いまや力を取り戻して、大きく自分を主張している。
俺は不意を突かれた恥ずかしさに、反り返るようにして三蔵を睨む。

「いつから起きてんだよ。…それに、いつまでいるんだよ。早く抜いてよ!」
「…気持ちよくて離せねえ。」

いつになく上機嫌の三蔵は、ますます腕に力を込める。俺を貫くモノがより深く入り込んできて、俺は出したくもない声を上げてしまう。

「や…だ、八戒たちが起きてきちゃうじゃんか。もう…っ。」
「昨夜一服盛ってやったから、まだ起きやしねえよ。」

三蔵の熱い舌が、俺の首筋を嘗め上げていく。足が絡み付いてきて、少しずつ俺は足を大きく広げさせられる。

「ふ…うん、…や…っ。」

背中からぞくぞくと快感が這い上がってきて、俺に甘い声をこぼさせる。三蔵がゆっくりと動き始めた。

「昨夜の薬がまだ残ってる。もっといいことしようぜ。」

三蔵が耳元で囁く。俺はやっとの思いで首を振った。
薬が残っているのは俺も同じで、もうどうしようもないところまで高められてしまっているけど、俺には心配があった。

「やだ…っ、だって…っ。」
「だって…?」
「入れっぱなしじゃ、…ひ、広がっちゃう…ぅ。」

いつもきつくて気持ちいいって言われる俺の中。広がっちゃったら三蔵を十分に楽しませてあげられない。俺のことも飽きられちゃうかも。後から突き上げられて、イイところをずんずんつつかれながら、俺は必死でそう言った。
一瞬三蔵の動きが止まった。ありがたいはずなのに、物足りなくて鼻にかかった声が漏れてしまう。三蔵の柔らかい笑い声が俺の首筋をくすぐった。

「いいじゃねえか、広がっちゃえよ。」
「ん…っ。」

聞いた事もないくらいに甘い声。もう一度動き始めた三蔵の熱さより、なんだか楽しそうな吐息にくすぐられて、俺は体を震わせた。

「俺だけのカタチに…広がっちゃえよ。」

少しずつ激しくなる三蔵の動きに優しく解きほぐされて、俺は夢中になっていく。
俺の全身どこもかしこももうとっくに三蔵のカタチだけど。啄ばむようなキスに応えながら、貪欲な三蔵を心から愛しいと思い、そんな自分に少しばかり呆れている。
それでも三蔵が望むなら、もっともっとカタチを変えてもいいかも。三蔵が望むカタチがどんなでも、俺は簡単に変えられるから。三蔵が言う通りになら。



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