獣たちの宴




遠くで悟空を呼んでいる声がする。
俺は書類から顔をあげ、窓の外を眺めやった。視界が白く染まるほどに日差しは強く、開け放した窓は、生ぬるい風を送ってくるばかりで、暑さをしのぐ役には立たない。窓の外をふらふら飛んでいた小さな蛾が、せり出した枝の下で急に進まなくなった。空しくもがいている様子が分かる。どうやら、蜘蛛の巣にでも引っかかったらしい。
俺は立ち上がると窓辺に進んだ。強い日差しに目を眇めて遠くを覗う。木陰に悟空の長い髪が見え隠れしている。不意に毛先が跳ねたから、悟空が伸び上がったのかもしれない。
俺は強く眉を潜める。悟空は何度言っても言うことを聞かない。
自由奔放な悟空の存在は、良くも悪しくもこの寺院中に影響を及ぼしている。悟空を忌み嫌い、あからさまに排除しようとする者どもの中にも、ひそかに悟空の存在を歓迎している者は少なくない。
しかし、その目的といえば、決してつまびらかにできない不埒なものだった。

「三蔵! こんなところでなにをのんびりしてるんです!」

不意に強く叱責され、俺は顔をしかめて振り返った。
悟浄を引き連れた八戒が、俺を底光りする目で睨んでいた。



「珍しい果物が手に入ったので、おすそ分けに来たんです。」

八戒は抱えてきた籠を、執務室のデスクの上に置いた。熟成し、蜜をはらんだ果実の香りが漂う。

「さぞ悟空が喜んでくれることと思って…それなのに。」

俺は八戒を睨むともう一度窓の外に目をやった。強い日差しに顔をしかめた悟空が歩いている。頬張っているのはまんじゅうだろうか。

「あなたは悟空がやっていることをご存知なんですか! 偶然目にしてしまって、僕はそれは驚きましたよ!」
「知っている。いくら言ってもやめやがらないんだ、あの猿。」

八戒が忌々しそうに強く唇を結ぶ。俺だって悟空が密かに行っている取引には嫌悪を感じている。
食欲の権化のような悟空は、寺の精進料理だけで満足することはない。常に腹を減らしているといっても過言ではない。
そこに付け込む奴らがいるのもまた事実だ。
俺が知っている限りでも、悟空はまんじゅうや団子をもらう代価に、自分を切り売りしている。年齢の割にいつまでも子供じみた悟空だから、自分の皮膚や唇への接触が、たとい唇だとしても、そう意味を帯びていることのようには思えないのではないか。
腹がくちくなることほどの重要性など、感じていないのに違いない。

「アイツが…まんじゅうやら団子やらに値段をつけて、それに見合う分のキスや握手を認めていることを言っているんだろう…。」
「値段…今日たまたまの出来事じゃないんですか!」
「けっ。お猿ちゃん、欲求不満なんじゃねーの?」

欲求不満か。言いえて妙だろう。猿はいつでも愛情に飢えている。
しかしそれは、こいつらが言うような生々しい意味での愛情ではないだろう。

「寺の奴らは、悟空を俺の稚児だと思っているんだろう。」

仕方なく、俺は呟く。

「だが、それを俺が認めないから、多少のつまみ食いは許されると思っているのさ。
悟空には何度も言い聞かせているが、あいつ自身が嫌悪感を感じないのだから、止めることも難しい。」
「ということは、あなたも公認のいたずら、という事になるのですね。」

嫌な言い方だ。俺は顔をしかめたが、それを八戒に向けることはしなかった。

「そう苛めるなよ、八戒。三蔵様はきっと自分の意思を明確にすることが嫌なんだぜ?」
「いずれにしろ、ちゃんと躾けなければならないようですね。悟空も、あなたも。」

八戒が目を細める。モノクルが煌く影には、光を失ったはずの瞳が鈍い光を放っている。
その、威容を湛えたような視線に、俺は思わずあとずさる。八戒と、彼をかばうように立つ悟浄の背後からも、濃い闇が噴出してくるかのように思え、俺は強く目をしばたいた。
悟空はともかく、俺も躾なければならないと言うのは、一体どういう意味だ。
俺の背後から嬉しそうな声がした。悟空が二人の来訪を認めて戻ってきたのだ。



乱暴に扉を押し開いた悟空は、飛び跳ねるような数歩で部屋を突っ切り、八戒の胸に飛び込んでいった。次に後ろに立った悟浄に向き直る。長身の二人に挟まれた格好だが、悟空はまるで無防備に笑っている。

「八戒! それに悟浄も! どうしたの!」
「相変わらず元気だな、お猿ちゃん。」
「猿って言うな! エロガッパ!」

悟空は軽く握った拳を悟浄の胸板に押し付けた。軽い音がしたから、それなりに衝撃は伝わったことだろう。しかし、悟浄からは何の反応も戻ってこず、悟空は訝しい顔をした。

「ねえ、悟空。」

悟空の肩に手を置いて、八戒は静かな声を出した。体ごと振り向こうとする悟空を手のひらだけで押しとめると、八戒は薄く笑った。

「僕たちはさっき、偶然あなたを見かけたんですよ。あの回廊の端で。」

悟空は首だけを捻じ曲げるようにして八戒を見上げ、それから俺を視界の隅だけにちらりと見た。意識的にこっちを見ないようにしているらしい。

「あなた…妙なことをしていませんでしたか。」
「妙なこと? ああ、饅頭のこと? えへへ…。」

悟空は悪びれない表情で笑った。いや、悟空にしたら本当に、ちょっとしたいたずらが見つかっただけの気分なのだろう。

「三蔵は嫌がるんだけど。」

悟空の明るい顔に罪悪感は微塵も見られない。

「時々ああやって、饅頭や団子をくれる坊さんがいるんだ。代わりに、手を握らせてくれとか、ほっぺたをなめさせてくれとか。
唇のときはちょっと嫌なんだけど、でもその分旨いものをもらえるからいいかと思って。」
「自分の切り売りの代価は食い物の味か。お猿ちゃんらしいや。」
「それは不公平な話ですねえ。僕たちは今までにずいぶんあなたに美味しいものを貢いできたと思いますけど。」
「え…、切り売り? 切り売りって何?」

やはり悟空は自分のしていることにさしたる危惧も罪悪感も抱いてはいないのだ。こんな間抜け面、この糾弾の場面には似合わない。

「僕たちの今までの努力を、返してもらうときが来たのでしょうね。」
「お猿ちゃんに代償を払う気持ちがあるんだから、美味しくいただいてもいいんじゃねえの。」

長身の二人は、悟空の頭上で会話を交わした。それを悟空は、あどけない顔で見上げている。
俺は八戒の右手がほのかに光っているのを見つけた。敵を倒すとき、強大な力を発揮するその気孔術が、僅かな量とはいえ、剣呑な輝きを放っている。
八戒はその手を、そのまま悟空の腰にそっと押し当てた。



「あ…れ?」

不意に悟空の膝が崩れた。床にすとんと腰を落として、悟空はそんな間抜けな声を上げた。

「どうしたんだろう、なんか、いきなり足が…あれ?」
「心配することありませんよ。脊椎をほんのちょっと震わせただけですからね。3時間もすれば元に戻ります。」
「3時間って…八戒がやったの! どうして?」
「余計な労力を使いたくないですからね。」
「おう、八戒、こっちだ。立派な寝台があるぜ。
執務室と寝室が繋がってるなんて、ずいぶん即物的だよなあ。」

俺の居室を覗いてきた悟浄が嬉しそうに報告する。その太い笑みの中にも、八戒の初めて聞く冷たい言葉にも思いがけない危険な空気を嗅ぎ取って、俺は立ち尽くしていた。
八戒が乱暴に悟空の腕を掴むと、俺を強く睨んだ。
俺はその瞳に宿る凶暴な意思に突き動かされるように、少しあとずさった。

「窓を閉めて、扉に鍵をかけなさい。できますね、三蔵。」
「ちょ…っ! やだ! なんだよ、八戒…!」

八戒に強くいい伏せられて、俺は言葉もなく頷いていた。

「そうすれば、僕たちの後に、あなたにもお楽しみがあるかもしれませんよ。」

いつも悟空には滅法優しい八戒に似合わない無造作な仕草で、彼は悟空を引きずっていく。
俺は重い脚を動かした。頭と体が別人のもののようだ。
これから悟空に、俺に起こること。その嫌悪感を伴うことを細部まで予測できるにも関わらず、俺はおとなしく八戒と悟浄に従っていた。
確かに俺にも悟空にも、外部からの強い強制が必要なのだ。



「やだってば! 放せよ、悟浄っ!」

悟空の叫び声に、俺は一瞬立ちすくんだ。
俺のベッドに八戒と悟浄が蹲っている。悟浄は咥え煙草で悟空の両腕を押さえつけ、八戒が酷く丁寧に悟空の下着を剥いでいた。
悟空の白い両足は、時折ヒクヒクと震える以外には、満足に動かない。八戒の施した気孔術は、確実に悟空の自由を奪っていた。

「怖がることはないですよ。あなたがあのふざけたお遊びを続けていれば、そのうち当然味わうことを、今教えてあげようと言うだけなんですからね。」
「わめくなよ、お猿ちゃん。八戒を喜ばすだけだぜ?」
「なに…言ってんだよ、二人とも! 俺がなにをしたって…ひゃうっ!」

悟空が甲高い悲鳴を上げた。俺はまるで、その痛みを俺自身に突きつけられたようにびくりと竦んだ。
八戒の長い指が、悟空の奥をまさぐっていた。

「良かった。」

八戒は、こんな場面には似合わない、晴れ晴れとした顔で笑った。

「まだこっちはまっさらですよ。誰も触れてません。」
「へーえ、三蔵ぐらいは手をつけてるかと思ったのに。」
「意気地がないんですよ。ねえ、三蔵。」

不意に八戒が振り向いた。俺は立ち竦んだままだ。顔を背けることすらできないでいる。

「僕はちょっとあなたに感謝してるんです。」

悟空の悲鳴が高くなった。八戒の指が2本、深く悟空を貫いているのが見える。

「あなたが曲がりなりにも目を光らせていてくれなければ、悟空はここまで無事に育つこともなかったでしょうし、あなたが意気地なしのおかげで、僕たちが一番美味しいところを真っ先にいただけるかと思うと、嬉しくて胸が高鳴りますよ。」
「…っ、俺は…。」

言いかけて俺は唇を噛む。俺とて、悟空をそういう対象としてみなかったわけではない。寺のやつらの、ソワソワした視線に気づかなかったわけでもない。
だが、俺が今まで悟空を大事にしてきたのは、八戒が言うように意気地がなかったわけでも機会がなかったわけでもない。ただ…なんとなくに過ぎないのだ。
でも…俺は気づいてしまっている。もしかして俺は、こうして背中を押してくれる手をひたすら待っていたのかもしれない。その俺の、煮え切らない態度が、もしかすると悟空の不安定を招いていたのかもしれないのだ。



「やだ…っ、やだぁ! 八戒、いやぁ!」

ぼんやりした思いを、悟空の切り裂くような声に遮られた。いや、本当は俺は、一部始終を見ていたのだ。その上で、その事実を認識するのを拒んでいたと言うのが正しいのかもしれない。
八戒は、酷く無様な格好で立っていた。ズボンと下着をずり下げて、臀部だけを丸出しにしているのだ。そうして両脇に抱えているのは、悟空の白い足だった。八戒は、ベッドの縁すれすれまで引き摺り下ろした悟空の両足をがっちり抱え上げ、大きく開かされたその間に、今まさに身を沈めようとしているところだった。

「おい、いくらなんでも、オイルぐらい使ってやったほうがいいんじゃねえの?」
「なにをもったいないことを。この、若木を裂くような感覚がたまらないんじゃないですか。」

八戒は喉の奥で笑った。悟空の入り口に、その凶暴な楔の先端を押し当てると、そっと手を伸ばした。ゆっくりと悟空の頬を撫でている。

「可愛いですねえ、悟空は。」

俺でさえ一瞬、八戒の心変わりを期待してしまう、優しい声。悟空は荒い呼吸をすると、すがるような目を八戒に向けた。

「なあ、八戒…冗談だよね? 俺、もう、寺の奴らにあんなことさせないから、お願いだからもう勘弁してよ、ね?」
「そんな言葉は、僕を喜ばせるだけだって、分りませんかねえ…。そういうところが、可愛いんですよ。とってもお馬鹿でね。」
「悟空、あんまり八戒を煽らない方がいいんじゃねえの?」
「え? 何? 煽るって…? 俺、そんなつもりじゃ…!」

悟空の頬が白く染まっていく。俺からは後姿しか見えない八戒は、どんな凶悪な表情をしていることだろう。

「僕たちが何の下心もなく、あなたを可愛がっているとでも思っていたんですねえ。
僕たちは待っていたんですよ。あなたが美味しく熟れきって、僕たちの手の中に落ちてくるのを、ずっと。」
「悟空、力抜いといたほうがいいぜ?」
「え…? ひ、あ、
きゃあああぁぁぁぁぁ…っ!」

抱えあげられ、麻痺して動かないはずの悟空の足が一瞬跳ね上がった。
こっちに向けられている八戒の臀部が大きくゆがんだ。快感を堪能するために、全ての筋肉を引き締めている、そんな動きだった。

「きつ…、流石に初物は違いますねえ。」

背中をわずかに仰け反らした八戒が、歌うように呟く。

「ふうっ、この、メリメリいう感覚が…たまりませんよ。」
「おい、あんまりぶっ壊すなよ。かわいそうじゃねーか。このあと、俺様の大砲も待ってるのにさ。」

悟空の、魂切るような悲鳴はまだ続いている。時折そこに、嗚咽と哀願が混じった。

「いぃ、痛い…っ! 八戒、もう、や…ぐうぅっ!」
「それは困りました。頑張ってくださいね。まだ…半分しか入ってないんですから。」

八戒は、喉を鳴らすようにそう言うと、丁寧に悟空の両足を抱えなおした。途端に悲鳴の声音が変わる。悟空の内部に押し込められている怒張が、彼を切り裂きながら進んでいるのだ。



不意に八戒が動きを止めて顔をあげた。俺にもその理由は分かっていた。
外から扉がドンドンと叩かれていた。悟空を呼ぶその声は、悟空を可愛がっている、俺の傍付きの僧のものだ。

「悟空! どうかしましたか! 三蔵様、いらっしゃらないのですか! ここを開けてください!」

悟空の大きな悲鳴が、偶然通りかかった彼を呼び止めたのだろう。彼はひっきりなしにドアを叩き、ノブをガチャガチャ言わせ、そして途切れることなく悟空を呼び続けていた。

「う…むぅ。」

くぐもった声に引き寄せられるように悟空を振り返ると、八戒と目が合った。八戒はにっこりと笑いながら、悟空の悲鳴を片手で封じていた。相変わらず面倒くさそうに悟空の腕を押さえつけている悟浄は、長く伸びた煙草の灰ばかりを気にしている。二人は何の危惧も感じていないようだった。
俺は震える脚を踏み出した。なにを命じられたわけでもないのに、全身にのしかかるような圧力を感じていた。

「なんでもない。…案じるな。」

やっと絞り出した声は酷く掠れていて、俺の狼狽を明らかに映し出していた。

「三蔵様! で、でも、悟空の悲鳴が…!」
「ちょっとふざけただけだ! 下がっていろ!」

言うことを聞かない僧と、俺自身の行動に苛立って声を荒げると、扉の向こうは沈黙し、やがてゆっくりと踵を返す気配がした。
俺は肺を絞りつくすようなため息をついた。にわかに締め切った部屋の暑さがぶり返してきた。

「よくできました。…三蔵。…くっ。」

八戒の手のひらに押さえきれない悟空の悲鳴が漏れる。恐る恐る振り返ると、八戒はぶるりと大きく背中を震わせた。抱え上げている悟空の腿と、八戒の腹とが密着している。八戒は俺に僧を追っ払わせている間にも、着々と悟空を犯し続けていたのだ。

「もういいのか?」
「初めてですし、後も控えてますし、こんなもんでしょう。
ねえ悟空、あなたの中はとっても狭くて気持ちよくて、僕は思わずいっぱい出しちゃいましたよ。僕ので、お腹の中がぐちゅぐちゅで、気持ちいいでしょう?」

八戒はようやく悟空の口をふさいだ手を外すと、頬を撫でた。悟空の丸い頬には、幾筋も涙の伝ったあとが残っていて、八戒はそれで酷く満足しているようだった。
身を引いた八戒が振り返ると、俺は目を背けたくなった。八戒の露出された局部には、鮮血が染み付いている。悟空のほうは、恐ろしくて見る気にもなれなかった。



「よーし、それじゃ、交代な。」

ギシリとベッドが鳴る。ちびた煙草を投げ捨てた悟浄は、すでに上半身を脱ぎ捨てていた。

「あーあ、血だらけにしちゃって、酷ぇやつだよなあ、八戒は。」

唇を噛み締めていた悟空が小さく悲鳴を上げる。バックルを鳴らしながら、悟浄が悟空の両足の間を覗き込んでいた。

「なにを言っているんですか。僕が汚れ役を引き受けてあげてるんじゃありませんか。あなたは飴のほうがいいんでしょう?」
「だからって、こんなに酷ぇ鞭、くれてやることねえじゃねえか。なあ、三蔵?」

不意に問いかけられて、俺は応えることができない。しかし悟浄も、俺の答えを期待しているわけではなさそうだった。

「優しくしてやっから、リラックスしてな…っつっても、俺様の暴れん坊じゃ、優しくなんて無理か。」
「ひ…っ、いや…っ!」

悟空が引きつった悲鳴を上げる。視線は、悟浄の股間に注がれたまま動かない。
悟浄は丁寧に悟空の膝を開いた。折り曲げられた悟空のつま先が、宙に浮いている。

「自分ばっかりイキやがって、本当に酷ぇやつ。ちゃんとエレクトさせてほしいよなあ、悟空?」
「やだ…やだぁ! 触るなぁ!」

悟空は震える腕を振り上げた。悟浄の広い胸に向かって、立てた爪をメチャクチャに振り回す。爪が逸れて悟浄の腕に走り、赤い蚯蚓腫れを作った。きっと悟浄の胸は真っ赤になっているはずだ。
しかし、悟浄はそれさえも楽しげなのだ。

「暴れんなって。今気持ちよくしてやるからさ。」
「あっ、やあっ、…やだよう、悟浄…っ!」
「…若いねえ。それじゃ、一緒にイクか、悟空?」

悟浄は俺に見せ付けるように少し体を引いた。
悟空の子供じみたシンボルが天を仰いでいる。どうやら、悟浄の手によって刺激を与えられたものらしかった。
そして同時に、悟浄は自分の持ち物を俺に見せびらかすようにしていた。飛びぬけて太い怒張は凶暴な色をしていて、到底小さな悟空には飲み込めそうもない。
だが、悟浄は容赦なしだった。

「おら、息吐け、悟空。てめえが辛いだけだぜ?」
「いやっ、…いや、いやだぁ、ひっ、あ、あっ…。」

握りこぶしがつぷりと音を立てた。爪が柔らかい皮膚を破ったのだ。
そうして、血の滴る拳を握り締めたまま、俺はその場を動けない。
悟浄は小刻みに腰を揺らしながら、ゆっくり前進している。悟空は途中から、悲鳴を上げることもできなくなったようだ。ただ、白い拳が、千切れんばかりにシーツを握り締めているのだけが目に映っていた。

「…どうです、いいでしょう、悟空の味は。」
「ああ、これから毎度、これを頂けるかと思うと、…最高だねえ。なあ、悟空?」

ぱちん、ぱちんと、間抜けな音がしている。それが、悟浄の腹が悟空の腿を叩く音だと気がついて、俺は胸が悪くなった。結局悟浄は、あんな棍棒じみたものを、悟空の尻に全部押し込めやがったのだ。

「あ、あ、…痛い、痛いよぅ、いやだぁ…。」
「今いい目見せてやるって。待ってろよ。」

悟浄の手が伸びて、悟空の腹を這っている。八戒は、丁寧に悟空の髪を撫でながら、喉の奥で笑っている。
まるでサバトのようだ。横たえられた悟空を、悪魔が二人で貪り食っている。

「ひ…っ、あ、あ…ぅ、んあ…っ。」
「そうそう、感じ出てきたんじゃないの?」
「悟空、これから毎日、ありとあらゆることを教えてあげる。あなたを世界で一番幸せな子にしてあげますからね。
だから、明日から、僕たちが来て三蔵が部屋の鍵をかけたら、あなたは服をすべてとって、足を開くんですよ。できなければもっと酷いお仕置きが待っていますからね。」

優しい口調で脅しつけるように、八戒が悟空の耳に囁いている。
悲鳴が上がった。背中を反らした悟浄が大きく震えると、満足そうにため息をついた。

「ようし、イイコだ。」

酷く優しい口調で、悟浄が呟いた。



身支度を整えた二人には、何も変わったようなそぶりは見られない。
だが俺は、体を洗いもしない彼らが、下着を悟空の血に染めていることを知っている。
悟空は投げ出されたまま、すすり泣いていた。シーツは血にまみれ、悟空の腹の上には白い粘液が散っていた。

「明日、また来ます。」

八戒は晴れ晴れとした顔で言った。

「今日は急だったので、僕らの怖さを知ってもらうだけになっちゃいましたけど、明日はいい気持ちになることでも覚えてもらいましょうか。
レベルアップはそれからでもいいでしょう。」
「悟空、八戒だけには逆らわない方がいいぜ? こいつは相手が泣き叫ぶと燃えるってやつなんだから。」
「失礼ですねえ。愛情の傾け方が違うと言うだけですよ。」

まるで明日の天気を予測するときのような朗らかな会話に、俺は眩暈を感じる。こんな物騒な会話を交わしておきながら、二人はいつもとまったく同じ様子なのだ。

「そうそう、躾の仕上げをしておかなくちゃ。」

八戒は俺に向かってにっこり笑った。

「お待ちどうさまでした。好きにしていいですよ。」
「…っ、俺に、なにを…。」
「別に強制はしませんけどね。」

八戒は悟空の腿を撫でた。悟空が息を呑んで、全身を強張らせるのが分った。

「悟空だってあなたに抱かれた方が嬉しいでしょう?
僕らの後には必ず、あなたが抱いてくれると分ったら、悟空ももう少し素直になってくれそうですしね。」
「ただし、三蔵様は必ず俺らの後にしかさせてもらえないけどな。」

腕を組んだ悟浄が喉を鳴らす。いかにも、俺には一人で悟空を押し倒す勇気はないと言いたげな顔だ。

「まあ、好きにしたらいいですよ。僕たちは明日もまた来ますから、それから考えてもいいでしょう。」
「んじゃな、悟空。明日もよろしくな。」

固く閉ざされていた扉が開け放たれると、一瞬涼風が吹きぬけた。だが、それは部屋にこもった熱気と獣の臭いを一掃することはなく、また閉ざされた。
俺はいまだ立ち尽くしていた。
流れ出した汗が顎にたまって落ちる。それが暑さのためだけでないことは分っていた。
傷ついた悟空の、無残に汚された様子が、俺の喉をカラカラに乾かしている。
不意に悟空がうめいた。まるで俺を誘っているかのようだ。

「痛い…、痛いよう、三蔵…。」

悟空は身じろぎをすると、大きく顔をゆがめた。丸い頬を、新たな涙が伝った。

「三蔵、助けて、痛いよ、三蔵…。」

悟空が動いた拍子にあふれ出したのか、血の混じる粘液が悟空の尻から溢れている。
俺は思わず唾を飲み込んでいた。俺がずっと待っていたのはこれだったのかもしれない。
汚され、貶められた悟空。俺と同じ地面に這い蹲るしかない、哀れな姿の悟空を。

「…三蔵?」

俺はゆっくりと進みだしていた。時間のかかる一歩一歩で扉に向かうと、震える手で錠を下ろした。これでもう邪魔は入らない。

「嘘…でしょ、三蔵?」

悟空の黄金の目が大きく見開かれて、俺を射抜いている。俺は静かに帯を解いた。

「ね…え、嘘って、言ってよ、…三蔵…。」

汗ばむアンダーを脱ぎ捨てる。自然と息が弾んでいる。自分の体からも強烈な獣の匂いが噴出しているようで、俺は少しだけ眉をひそめた。
結局、俺もあの二人にいいように躾けられてしまったようだ。

「三蔵…、いやぁ…。」

悟空の声が嗚咽に途切れた。
俺はゆっくりと悟空の白い足を抱え上げていた。





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