名作童話劇場 1




「あー、うまかった! 三蔵、風呂はいる前に遊んでよ。」

「……。」

「なー三蔵ってばっ! 無視すんなよ!!」

ガシッ  バコッ

「…ってーなー! いきなり殴ることないじゃんかあ!」

「やかましい! いきなり頭突きかましゃーがって!! 悟浄にでも遊んでもらえっ!」

「悟浄と八戒なら出かけたよう!」

「何? …あいつらどこへ行った?」

「知らないよう。八戒が白竜つれてどっかへ出かけたら、急に悟浄もそわそわしちゃってさ、ナンパに行くなんて言ってたけど、アレ、絶対嘘だぜ! きっと何か二人でうまいもんでも食いに行くんだ。」

(ははん、さては示し合わせてどこぞへしけこみやがったな。…とすると、一晩は帰ってこないか…)

「なあ、だからさあ、俺暇なんだよう。遊んでよ。」

「…そうだな。狸さんごっこならしてやってもいい。」

「狸さんごっこ? 何だよ、いつもは俺のことサルサル言うくせに…。」

「…嫌なら別に構わんぞ。俺は忙しいんだ。」

「やるっ!! なんだか知らないけどっ!! …で、それって何するの?」

「東の果てのヤポンという国にな、そりゃー悪戯者の狸がいたんだ。…おまえにぴったりの設定だろ。」

「ちぇっ、悪戯者だけ余計だよう。俺がその狸なのかよ。」

「そうだ。おまえの幽閉されてたあの岩山な、カチカチ山とか言わなかったか?」

「言わないよう。」

「…まあいい。その狸の悪戯にほとほと困り果てているじーさんとばーさんがいてな、俺はそのじーさんだ。」

「ふうん、それで?」

「ある日とうとう、じーさんはその悪戯狸をとっ捕まえたんだ。」

「わっ、いきなりなんだよう、抱きつくなよ、三蔵!!」

「じーさんはその狸を縛り上げてな…。」

「い、痛い痛い!! どっから出したんだよう、その紐! ヤダヤダ、縛るなってばっ!!」

「ばーさんに命じて、狸汁を作ることにしたんだ。」

「! 狸汁って何それ? うまいの?」

「…そりゃうまいさ。」

「あっ、ちょっと、何? なんで服脱がすんだよう!!」

「狸が服着てちゃおかしいだろうが。…ところがその狸が改心してな、縛られて梁に吊るされながらぽろぽろ涙を流すんだ。」

「やっ、どこ触ってんだよ!! 三蔵、さんぞ…ってばっ…、あっ…、嫌っ…。」

「ほら、泣けよ、…泣けよ、狸さん。」

「やっ、やっ…、こんな…、あぁっ…。」

「ふ、こっちも泣き出したか。さあ、ここから俺はばーさんだ。」

「え…、何…、ひ…。」

「ばーさんはな、狸の涙に絆されて、狸の縄を解いてやるんだな。」

「そんなら…。解いてよ…、早くぅ…。」

「こっちのばーさんはもっと意地が悪いんだ。まだといてやる訳にはいかないな。…それに泣きかたもまだまだ足りないし。」

「あっ、あんっ、三蔵!!」

「…縄を解かれた狸はな、ばーさんを殴り殺してしまうんだ。」

「えっ、マジ? 俺三蔵殺さなくちゃいけないの? ヤダ、そんなの、絶対ヤダッ!!」

「心配すんな。俺はもう、とっくにおまえに殺されてる。 …メロメロにな。」

「あっ、あっ、三蔵っ、…あーっ!」

「…思わぬところで、狸汁が出ちゃったな。」

「ひ…どいよ、三蔵、お願いだから、もう、この手ほどいてよ。」

「話はまだ続くんだ。狸はばーさんを殺してな、その皮を剥いで被って、帰ってきたじーさんを騙して、ばーさんの肉で作ったばーさん汁を食わせるんだ。」

「え…、ばーさん汁…、それはあんまりうまそうじゃないかも…。」

「そんなことないさ。…さあ、狸さん、ばーさん汁だしてくれよ。」

「えっ、うわっ、三蔵、何そんなの出してんだよ、うわっ、黒っ、…なんか光ってる…。」

「あいにく皮は被ってないけどな、美味しいばーさん汁飲ませてやるから、…ほら、暴れんなよ。」

「やだっ、そんなっ、…んぐっ、むぐぉっ!!」

「やれやれ、色気の足りない狸さんだな。 …おい、歯ぁ立てるんじゃないぞ、狸さん。もっと舌を使うんだよ。」

「んぐっ、…んっ、んっ、…。」

「……。」

「んっ、んふうっ…、んっ。」

「……うっ!」

「んがっ、がはあっ! ゲホゲホゲホッ ひ、酷いよー、三蔵ー!」

「…ああ、泣くな泣くな。次の狸さんはもっとうんと優しくしてやるからな。」

「えー、まだやるのー? 狸さんごっこ…。」

「…次の狸さんは、ゲンコツ山に住んでるんだ…。」



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