名作童話劇場 3




「この町ももう飽きたな。そろそろ移動する頃じゃねーのか?」

「……。」

「小さな町だと、なかなかうまいクイモンに当たらないのが難点だよな。」

「………。」

「…って、無視すんなよ、三蔵サマ。何読んでんだよ、さっきから。」

「…るさいな。ほっとけよ、エロガッパ。」

「ああ? 世界名作童話集? なんだい、そりゃ?」

「サルと遊んでやるのに使うんだよ。」

「んあ? そんなんでどうやって遊ぶんだよ。」

「『大きな蕪』と『かちかち山』はもう使ったんだ。今度はオーソドックスに『赤頭巾ちゃん』ってとこかな。」

「『赤頭巾ちゃん』だあ?」

「おまえの声を聞くための大きな耳に、おまえを見るための大きな眼ってとこが使えそうだな。…大きな黒い手はおまえを抱きしめるためってとこか。」

「…いったいどんな遊びをしてるんだか。…そういえば今日はあのチビザル、八戒にべったりだったぞ。妙に警戒してる様子だったし。俺が八戒連れ出そうとしたら、思いっきりあかんべーとかされた。」

「そういえば今日は悟空のやつ、ちっとも寄ってこないな。」

「何とかしてくれよ、さんぞー。チビザルの飼育は、おまえの管轄だろ。」

「ぐずぐずしてねーで、とっとと出掛けてくれればよかったのに。」

「おまえ、あんまりおいたが過ぎて、嫌われたんじゃないのか? いつもさんぞーさんぞーってうるさい悟空が、今日はさっぱりだったじゃないか。」

「まあ、さすがに3連チャンは辛いしな。今日は休戦日か。」

「何の話をしてるんだ。」

「……。」

「………。」

「うるさいから、黙って飲んでろ。」

「…オヤジ、なんか珍しいものはないか? ん? 海の向こうの国の酒?」

「ほう、変わったものがあるな。」

「なんだって? しゃんぱん? 変な名前だな。…うわ、噴出したぞ!」

「…あいつみたいだな。」

「ああ、いい、いい。手酌でやる。向こう行っててくれ。…なんか言ったか?」

「太さもちょうどそんなもんか。」

「あん? だから何だって?」

「くびれてるとこをちょっと握って2〜3回擦ってやると、たちまち白いモンが噴出すんだ。」

「………。」

「なんだよ。そーゆー話がしたかったんじゃないのか?」

「あハン、そゆ事。」

「聞く気がないんなら、黙って飲んでろよ。」

「それなら俺は日本酒党だな。冷えてるのもいいけど、ちょっと暖かい湯に入れて燗してやるとたまんないよな。翌朝までしつこく残るとこもそれはそれでたまんねえ。」

「………。」

「そーゆー話だろ。」

「ふん、ま、そうだな。」

「…お、この大根もちうまいぞ。しっとりした白い肌が手に吸い付いてくるみたいで。歯ぁ立てると、抗うみたいに粘りついてくる。」

「俺はこの、海老のおつくりのほうがいいな。手の中でぴんぴん跳ね回って、皮ぁむくのに一苦労だが、向いた後の身は甘くて蕩けそうだ。」

「そんなに甘いのか?」

「おお、甘い甘い。…そっちこそ、そんなに粘っこいのか?」

「ああ、粘っこいねえ。どうかすると、こっちの方がからからに吸い取られるぜ。」

「…なんとなく、想像できるとこが恐いな。…こっちの肉まんもいけるぜ。真っ白くてふわふわの皮に食いつくと、みずみずしいジュースが滲み出てくる。」

「酢豚も食ってみろよ。脂っこい割に酸味が全体に利いてて、それでいて時折びっくりするほど甘いものも混じってやがる。」

「…酢豚はいい。すっぱいのは性にあわない。俺は素直に甘いのが好きなんだ。…オヤジ、何かさっぱりするモンはないのか?」

「フルーツバスケットか。しゃれたモンが出てきたな。…お、俺はこの桃がいい。内側から紅をさしたようにほんのり赤くって、またこの産毛がたまらないよな。果汁も滴りそうなほど多くて甘いし。」

「…それなら俺はこのライチをもらう。一見硬そうだけど、黒いのは皮だけでみずみずしい白い肌がたまらない。噛み付いたときのシャキシャキいう歯ごたえもなかなかなんだぜ。」

「………。」

「…なんだよ。」

「いや、さんぞー様、なかなか罪だなと思ってな。」

「何だよ、聖職者を捕まえて何が罪だ。」

「あの、零れんばかりの大きな金色の目は、いつもおまえだけをまっすぐ見つめているのに、おまえはあいつのこと、クイモンくらいにしか思ってないのかと思ったら、ちょっと哀れになってな。」

「あいつは俺のクイモンだ。それのどこが悪い。」

「……俺は少なくとも八戒のことをそんなふうには思ってないぜ。」

「あいつは、俺の手の中でもっとうまい果実に熟れさせてやる。だが、他のやつには味見させてやらないぜ。俺だけのクイモンだ。」

「あんただけの…ね。」

「そうだ。それにな、おまえら妖怪はどうだか知らないけどな…。」

「……。」

「俺はつまらないただの人間だからな、クイモンがなきゃ生きていけないんだよ。」



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