桃の節句




執務室の扉がくぐもった音で鳴り、三蔵は取り組んでいた書類から目を上げた。

「さんぞー、開けてー。」

悟空の声がする。いつもなら扉を蹴破る勢いで入ってくるのに、今日の登場はやけに静かだ。

「なんだ。てめえで開けて入って来い。」
「手がふさがってるんだよう。ね、お願い、開けてよ。」

ぶつぶつ言いながらも、三蔵は結局は悟空に甘い。面倒くさそうに立ち上がって、扉を開いた。

「サンキュー、三蔵。」

悟空は三蔵を見上げてにっこりと笑った。彼にしては慎重な足取りで執務室へと入ってくる。三蔵は半ば呆れた顔でそれを見守った。
悟空の腕には、抱えきれないような量の木の枝が収まっている。今にも綻びそうな濃いピンク色の蕾をたわわにつけた桃の枝だ。

悟空は見かけによらず草花が好きだ。
だがいつもなら手にして帰ってくるのは、可憐な野草が殆どだ。こんなに大ぶりの枝をもぎ取ってきたことなど初めてだった。

「きれいだろ、これ。ちょっと触ると落ちちゃって、ここまで持ってくるの、大変だったんだぞ。」

言われてみると、悟空が歩いてきた後に、点々とピンクの斑点が落ちている。

「どうしたんだよ。そんなにたくさん。」
「エヘヘ、もらったんだ。女の子のお節句だからって。」

女の子の節句で、どうしてお前がもらって来るんだ。そう突っ込みたいのを、三蔵は堪えた。
大きなピンクの蕾に顔を埋めるようにして、自らも頬をピンク色に染めて笑う悟空は、確かに女の子のように愛らしかったからだ。

「なあ、さんぞ、花瓶は?」
「今朝小坊主が、庫裏に片付けただろうが。庫裏に直接まわりゃよかったんだ。」
「だって、三蔵に一番に見せたかったんだもん。」

香を楽しむように枝に鼻を近づけ、それから小さく悲鳴を上げる。鼻先が掠めただけなのに、またぽろぽろと蕾が落ちた。

「なあ、さんぞ、花瓶取ってきてよ。」
「面倒くさい。自分で行け。」
「だってこれ、手ェ放すと蕾が落ちちゃうんだもん。」

ね、と掬い上げるような瞳で見上げる。三蔵は少し考えてそれからにやりと笑った。

「仕方ないな。」
「わあ、ありがと、三蔵。」

すたすたと歩き出した三蔵に、悟空は感謝の声を上げた。だが、扉まで歩いた三蔵はそれを開けず、ガチリと錠を下ろす。

「さんぞ…?」

悟空は不安そうな声を上げた。嫌な予感に、思わずあとずさる。ちょっと肘がデスクに引っかかっただけで、またも蕾がぱらぱら落ちた。

「女の子の節句でもらったんだろ。」

三蔵は悟空の腕を掴んで引き寄せた。

「女の子扱いしてやるよ。今すぐ、たっぷりな。」
「ちょ…、やだ、三…っ。」
「暴れんなよ。花が落ちるぜ。」

抱えた枝ごと逃げようとすると、はらはらと蕾や咲き始めた花まで落ちる。三蔵は言葉だけで悟空をがんじがらめにして、顎を取った。
気丈にもがっちり噛み締められた歯も、舌で何回かなぞってやると僅かずつ緩んでくる。温かい口腔内に三蔵の侵入を許せば、それでもう勝ったも同然なのを三蔵はよく知っていた。

「んん…っ、蕾が落ちちゃうってば…っ。」

三蔵の体に触れるのを警戒して少し腕を高く持ち上げたのだろうか。桃の枝は三蔵の目の高さにまで掲げられていた。
悟空の大地色の髪に、まるで宝石を散りばめたみたいに桃の蕾が乗っている。深い口付けに、瞳も唇も潤ませて、悟空は哀願するような声を出した。

「花瓶、取ってくるから、ちょっと待っててよ、ね。」
「花瓶なんかいらねえよ。」

三蔵は一歩足を進めた。あとずさった悟空はデスクに突き当たり、逃げ場を失ったことを知る。

「ダメだって…。待ってってば、三…、あん…っ。」

めくり上げたシャツの裾から素肌に手を這わすと、それだけで悟空は膝を震わせた。堪り兼ねたようにデスクに寄りかかると、その振動でまた花が散る。
花びらが一枚ふわりと舞ってきて、悟空の睫に引っかかった。まるで目尻に朱を刷いたようだ。

「お願い、これ、すぐ生けちゃうから…っ。」
「俺が生けてやるよ。」

三蔵は悟空にのしかかるようにして、デスクの引き出しに手を伸ばした。

「お前が一番綺麗に見えるようにな。」

手探りで探し当てたのは、事務用のカッターと木工用のボンド。三蔵はゆっくりとカッターの刃を押し出した。チキチキチキと小さな音がするたびに、悟空は身を竦ませる。

「動くなよ。切っちまうぞ。」

シャツの襟にカッターを押し当てる。襟元さえ切ってしまえは、木綿のシャツは簡単に裂けていく。悟空が小さく抗議の声を上げたが、三蔵はそのまま最後には引き千切るようにして悟空のシャツを切り開いた。
よほど大事なのか、悟空は頑として桃の枝から手を放さない。抵抗がないので、三蔵は切り開いたシャツの袖を抜かないまま、それを肘まで押し下げた。これで悟空は桃の枝を手放さない限り、身動きが取れない。

「やだっ、なにすんだよ、三蔵っ!」

流石に声に怒りが混じる。それには構わずに、三蔵はボンドを手にした。開いたまま落ちてしまった桃の花を拾い上げる。

「生け花。創意工夫溢れる自由花。」
「ひゃあ…っ。」

ボンドを塗った花を、悟空の乳首に押し付ける。落っこちないように、と口実を口にして、ぐりぐりと押さえつける。反対側の乳首がぴんと立ってくるのが目に入る。

「ほら、綺麗だろ。こっち側にもつけてやろうな。」
「もう、やだ…っ、やるんなら、ちゃんと…っ。」
「ちゃんと、…なんだって?」

言いかけた言葉を、悟空は恥ずかしそうに飲み込む。唇を噛んで俯くと、せっかく睫に乗っていて可愛らしかった花びらが落ちてしまったので、三蔵は目尻にも桃の蕾を張り付けた。
鎖骨の上を強く吸って、鮮やかな朱を残すと、その周りにも桃を張り付ける。
悟空の上半身は、たちまち赤い印と桃の花や蕾で飾り立てられていった。

「生け花はな、足元が肝心なんだぜ。」

ジーンズに手を掛ける。ジッパーを下ろすと、確かな存在感を見せる下着が現れた。
何だかんだ文句を言っていても、いざ事が始まってしまえば否応なく応える従順さに、三蔵は嬉しくなる。
下着の上から悟空をむんずと掴む。悟空の背中がビクンと震え、また頭上からはらはらと花が舞ってきた。

「やだあ…っ、さんぞ…っ。」
「なにが嫌なんだよ。こんなに先っちょ濡らしやがって。」

軽く手を揉むようにすると、そのたびに悟空はビクビクと震える。蕾も花もぱたぱたと落ちてきて、悟空の周りにはすでにピンクの敷物をしたようになっている。
布越しに一番湿ったところを擦り上げてやると、悟空はもどかしそうに身をよじった。吐息がだんだん甘ったるく弾んでくる。

「あんまり動くと、花が全部落っこちるぞ。」
「こんな…中途半端なの、やだあ…。」

声に嗚咽が混じってくる。三蔵はジーンズをひき下ろすと、悟空の下着の足からカッターの刃を入れ、ウエスト部分まで一息に切り裂いた。反対側にも同じ事をすると、悟空の下着は展開された一枚の布になった。
半ばまで下ろされたジーンズで硬く膝が合わされていて、その布が落ちないので、三蔵はそれを足の間から引き抜いた。狭いところをすり抜ける布は、悟空の敏感なところを一息になぞり、悟空に甘い悲鳴を上げさせた。

「ここも飾ってやろうな。」
「も…、さんぞ、そこじゃなくて…。」

違うところを触って欲しいと、目が訴えている。三蔵はあえてそれを無視すると、悟空の淡い下生えに桃を差し込んだ。
いくつかそうして飾りをつけた後、僅かに枝の残ったまま落ちた花を見つける。三蔵はいじわるな笑みを浮べた。

「ちっと我慢しろよ。」
「え、なに、三……、あ…っ、痛っ。」

鋭い痛みに、悟空は思わず飛び上がりそうになってしまう。一際たくさん桃の花が落ちた。
すっかり立ち上がった悟空自身の天辺の割れ目を三蔵が押し開いて、そこに桃の花を押しこんだのだ。大して太い枝ではないといっても、そこに挿すには太すぎて、悟空の出口は完全に塞がれてしまった。

「やだっ、こんなの…っ。取ってようっ!」
「いいじゃねえか、大好きな花だろう。可愛いぜ。」

三蔵はくすくす笑った。まだ勢いを殺がれない可愛らしい悟空の天辺に、綺麗な花が咲いている。
滑らかな足をなでおろすと、悟空は感度よく震えて、花びらまで細かく揺れる。

ジーンズから片足だけ抜いてやる。胸を押してやると、悟空はあっけなくデスクの上に倒れこんだ。もう膝ががくがく言っていたから、限界だったのだろう。
デスクの上には落ちてしまった桃の蕾がたくさん乗っていて、まさしく花の褥だ。
三蔵はジーンズから引き抜いた悟空の素足をデスクの上に抱え上げた。入り口に指を這わす。散々焦らしたせいか、最初から楽に2本入ってしまう。

「んう…っ、さんぞ、もっと奥…っ。」
「おまえ、バカじゃねえの。いいかげん桃放せよ。」

デスクの上に転がされた悟空は、三蔵の代わりのように桃を抱きしめている。もう、枝には殆ど蕾は残っていない。
三蔵の言葉にも悟空は反応しない。もう意識は三蔵の指先に集中してしまっているようだ。だが、指先を白くするほどに力いっぱい何かに縋る悟空の顔を、この位置から眺められることなど滅多になくて、三蔵は固唾を飲んでそれを見守った。
目尻に張り付けた桃に負けないくらい、頬が高潮している。しっとり潤んだ唇が、しきりに動いて、三蔵の唇を誘っている。指を3本に増やすと、ゆっくりと腰が揺らめきだした。それを見て三蔵は慌てて前を開く。三蔵とて、こんな痴態を見せ付けられて、さっきから辛抱を重ねていたのだ。

「あぁあ…っ!」

性急に押し入ると、悟空が高い声を上げた。桃を抱きしめた腕に力がこもって、数本分の鈍い音がする。どうやら抱き潰したらしい。立てさせた膝を抱え上げて、もっと深く交わると、声は悲鳴に変わった。

「ああ…ん、もっと、もっと奥ぅ。」

ねっとりと絡み付いてくるような悟空の内部に、三蔵の息も自然荒くなる。少し角度を変えて突き上げると、デスクの上の悟空の体がしなやかにのけぞった。

「ひあ、そこ、いい…っ、もっと…っ。」
「ここか? …こうかよ。」
「あ…っ、さんぞ…っ、ああーっ。」

悟空の平らな腹が、鮎みたいにビクビク跳ねた。入り口を塞がれていた欲望が一息に跳ね、白い粘液と一緒に桃の花が舞った。
悟空の中がぎゅっと三蔵を絞り上げるように収縮する。たまらずに三蔵も、悟空の中に欲望を叩きつけていた。



「は、あ、は〜…。」

三蔵は虚脱したようなため息を吐いた。ずるりと悟空から自らを引っこ抜くと、白濁が床を汚す。
立ったまま最後まで行ってしまったから、なんだか妙に疲れた。部屋は花だらけだし、他の坊主たちにこの有様を見つけられないうちに片付けるのはずいぶん骨だろう。
まあいいか、悟空にやらせれば。仕事もまだ残っていることだし。ぼんやりそんなことを考えていると、悟空がむくりと起き上がった。

「ああーーーーっ!」

手の中の桃を見て大声を上げる。もう花は壊滅状態だし、枝も殆ど折れてぶらぶらぶら下がっている。

「どうすんだよ、これっ。花が可哀相じゃないかっ!」

目がみるみる涙目になってくる。まだ一杯蕾を体に張り付けたままで、悟空はぐすんと鼻を啜った。

「これから綺麗に咲くんだったのにっ。」
「切花なんてのは、切った時点でもう命が絶えてんだ。花が開いたって実をつけるわけじゃねえだろ。いいじゃねえか、庭に挿し木でもしてやれば。根がつけば、そっちの方が桃のためだろ。」
「だって、これ…。」

悟空はぐすぐす言いながら、必死になって枝をより分けている。なんとか無事なものを探そうとしているらしい。

「八戒が…くれたのに…。」
「…………。」

なんだか三蔵はいやな予感に捕らわれた。
自称保父で、悟空を猫可愛がりしている八戒は、悟空の喜ぶことなら何でも厭わないだろう。

「まだ蕾の固いうちから準備して、ムロでちゃんと大きくして、ここまでたくさん蕾をつけるようにしてくれたのに…。お祭りしましょうねって言ってくれたのに…。」
「お祭り…。」
「そうだよ。女の子のお祭りだけど、悟空にも経験させてあげるって、これから白酒とご馳走もって来てくれるんだよ。だからそれまでに、一番大きな花瓶に、綺麗に生けておいて下さいねって頼まれたのに…。もう台無しじゃないかあ。」
「…そういうことは早く…。」
「言う暇なかったじゃないか! あんなに待ってって言ったのに! いきなりサカっちゃって突っ込んできたんじゃないか!」

悟空はぽろぽろ涙を落とした。三蔵を恨みがましい目で見る。
悟空の手には桃の枝が数本。あれだけの数があったのに、無事に残ったのはそれだけだったらしい。

三蔵はとりあえず着衣の乱れを正した。そうっと足を踏み出す。
仕事はまだ残っているし、執務室の惨状も目を覆うばかりだが、多分この場にいないほうがいい。三蔵のアンテナが強くそう言っている。だが少々遅かったらしい。

コンコンとノックの音がする。

「三蔵、悟空、…珍しい、何で鍵なんかかかってるんでしょうね。ご馳走もってきましたから開けてください。」
「…さんぞー、言い訳は三蔵がしろよな。」

三蔵は思わず立ち尽くした。小坊主が気を利かせて合鍵でも持ってきたのか、鍵がガチャガチャと音を立てている。ゆっくりと取っ手が回っていく。

にこやかな八戒の顔が凍りつくまで、あと数秒。



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