おたふくもーいーかい♪




古びた鳩時計が10回鳴いた。

八戒は2杯目のコーヒーをゆっくり啜った。両手の平を暖めるようにカップを包み込んで持っている。のんびり腰を据えるときの八戒の癖だ。肩の上のジープが、退屈そうに鼻面を足で掻いた。

「やー…。いい朝ですねえ。」
「あいつら…。」

三蔵は読んでいた朝刊をテーブルに叩きつけた。何回も丹念に読んだのを証明するかのように、新聞紙の端と端がばらばらになっている。

「おっと。せっかくの料理に、新聞が入っちゃいますよ。」

八戒はのんびりした動作で新聞を除けた。テーブルの上には様々なご馳走があまり手を付けられないまま残っている。
三蔵は、朝はコーヒーとタバコと朝刊さえあれば満足だったし、八戒もそれにほんの少し足すぐらいで事足りた。
この大量の料理は、無類の大食漢の悟空と、それにガキみたいに張り合うのを楽しみにしている悟浄のために頼まれたものだ。だが、その二人が今朝はいまだ姿を見せず、料理はどんどん冷めていく。

「集合は9時だってあれほど言っておいたのに…っ。」
「まあ、悟浄はともかく、悟空は本当にどうしたんでしょうねえ。これだけ料理のにおいをさせれば、いいかげん釣られて起きてくる頃でしょうに。」

三蔵は胸の前に硬く腕を組んだ。握り締めたハリセンがいらいら小刻みに揺れる。

「…もう我慢ならねえ。叩き起こしてくる!」

三蔵が声を荒げると、それに呼応するようにジープが細くぴいと鳴いた。

「あ、三蔵、待った。悟空がお目覚めのようですよ。」

ぺた、ぺた、ぺたとはだしの足が床を踏む音が近づいてくる。やがてドアがギイと軋みながら開いた。

「さんぞぉ〜…。」

くぐもったような悟空の声。三蔵のハリセンの動きがぴたりと止まった。八戒も笑顔でコーヒーを啜る体勢のまま動きを止める。

「ほっぺた…痛い〜…。」

悟空は両手でほっぺたを押さえた。
三蔵たちが驚くのも無理はない。悟空の頬は、押さえた指が自然に広がってしまうほど腫れあがっていて、しかも真っ赤に染まっていた。
三蔵はぐっと唇を引き結んだまま、八戒はコーヒーを啜りかけた体勢のまま、それぞれ固まってしまって悟空を凝視している。そんな二人の怪訝な表情に、悟空は悲しそうに顔をゆがめた。金色の瞳にみるみる大粒の涙が盛り上がってくる。
すっかり固まりきった三蔵の手からハリセンがコトンと落ちた。
立ち直りは八戒のほうが早かった。気を落ち着けるように大きく息を吸い込み、それからゆっくりとコーヒーを下ろす。

「三蔵。いくら悟空が可愛いからって、ハリセンプレイも程々にしとかないと…。」
「な…何がハリセンプレイだっ! 昨夜はこいつが疲れたって言うから、俺はなんにもしてないっ!」
「えー、本当ですかあー?」
「本当だっ! 俺はなんにも、なんにも! なああんにもっ!! してないっ!!!」

三蔵は、悟空に突きつけた指をブンブン振った。あんまり三蔵の拒絶が激しいので、八戒はぼんやりと、そんなに何かしたかったのか三蔵は、と思う。
すっかり鼻息の荒くなってしまった三蔵を放って置いて、所在なさそうに突っ立ったままべそをかきはじめた悟空を指先で招く。

「悟空、こっちにいらっしゃい。」

悟空はちらりと三蔵を恨めしそうに見て、それからよたよたと八戒の側に近づいた。
しかし見れば見るほど派手に腫れあがった頬である。近頃は店頭に並ぶトマトだって、こんなに不恰好なのはない。
八戒は失笑しないように気をつけながら悟空の額に手を押し当てた。熱い。ついで両耳の下に手を入れる。見る影もなく腫れ上がって、顎の骨の所在がつかめない。

「ははあ、どうやらこれは、立派なおたふく風邪ですね。」

八戒はにっこり宣言した。



三蔵は途方に暮れていた。
八戒はなんだか楽しそうに、薬を調達してくるからそれまでに悟空に何か食べさせておけと言い置いて出ていったきり、まだ帰ってこない。悟空に食わすことで心配をするなど初めてだった。何を持っていってやっても、悟空はほっぺたが痛いというばかりで口を開こうとしない。
それにしてもほんのごく短時間のうちに、この頬はますます腫れ上がったのではないのだろうか。面白いの一言ですまされる顔ではなくなってきた。
薬が有効なら、とっとと飲ませてこの腫れだけでも引っ込めさせるに限る。それなのに、悟空はちっとも言うことを聞かない。これだけ腫れていれば痛いのはわかるが、だからといってべそをかくな。泣かれると、怒鳴り付けることも出来やしない。

最後の最後に切れかかった三蔵に向かってようやく悟空が指差したのがりんごだった。
だが、悟空は一向にそれを食べようとしない。よく観察していると、どうやら口が十分に開かないらしい。
三蔵は舌打ちをしつつ、不器用な手付きでりんごの皮をむき始めた。

「悟空〜。具合いかがですか〜。」

帰ってきた八戒が呑気そうな声を掛ける。薬の入った袋をぶらぶらさせていた手が止まった。困っているのか笑っているのかわからない表情で眉を下げる。

「うわ〜。見事な腫れっぷりですねえ。悟空、何か食べられました? おおお!」

三蔵の手元を覗き込んで、世にも楽しそうな顔をする。
八等分されたりんごは半ばまで皮が剥かれ、残った皮には大きく裂け目が入っている。

「りんごうさぎだあ!」
「なにか食わせろって言ったのはてめえだろうが! こいつがぐずるから、工夫をしてたんだ工夫を!」

三蔵は真っ赤になって弁明した。悟空を甘やかしている現場を目撃されて、照れくさいらしい。

「工夫って…。ほっぺたが痛くて食べられないのに、いくらうさぎさんにしてもらったって食べられませんよねえ、悟空。」

八戒は苦笑した。

「もっと柔らかいもの。りんごだったらすりおろさなきゃ。
しかし、なんですかねえ、この顔は。スーパーな悟空に取り付くのは、やっぱりスーパーなばい菌なんですかねえ。」

八戒は悟空をはさんで三蔵の正面に立った。

「やれやれ困りましたねえ。1週間は足止めですかねえ。」
「なんでだ! 薬もらったんだろ。明日には出発だ。」
「だめですよう。これだけ大きくなってからのおたふくはキツイんです。可哀相ですよ。それにねえ、三蔵、大事なことを忘れてますよう。」
「な…なんだ。」

八戒は薄笑いを浮べてずいっと三蔵に顔を寄せた。嬉しそうな笑顔だ。

「高熱が続くと、あっちのほうがだめになっちゃうんです。困るでしょう、三蔵。悟空の可愛いムスコ君が役立たずになっちゃったら。」
「そ…それは…困る。」

思わず正直なところを述べてしまい。三蔵は柄にもなく狼狽する。
八戒はなぜか満足そうにうんうんと頷いた。あらためて悟空に向き直る。

「こんなに腫れちゃって、さぞ痛いでしょう。悟空、冷やしときましょうね。ちっとは痛みがひくかもしれませんよ。」

手際よくタオルを濡らし、それを頬に当てさせると、その上から一回り大きなタオルで顔全体を包む。悟空の頭の上に、あまったタオルの端がリボンを付けたように垂れ下がった。
三蔵はちょっと呆れながらその光景を見ていた。悟空の頬は、後頭部側からも膨れて見える。その上にあんなほっかむりは滑稽の極みではないのか。悟空がおとなしくさせているのは、痛みが酷くてそこまで意識が回らないからだろう。
八戒は、悟空の頭の上のリボンをやけに丁寧に整えた。目が妙にうつろになっていて、唇の下にヘンなシワが寄っている。さては唇の内側を噛み締めて、笑いたいのを必死でこらえているな。そう三蔵が思った途端、八戒は失敗した。
一瞬明らかに両頬が膨れた。噴出しやがったに違いない。

「う〜…。」

悟空が弱々しく抗議の声を上げる。八戒は慌てて立ち上がった。目尻が波打っている。

「み、水、取り替えてきますから…。」

苦しい言い訳をし、三蔵が悟空のほっぺたやら額やらを冷やすために持ち込んだばかりの洗面器を持ち上げる。
やたらたぷたぷ波打つそれを抱えつつ、八戒は部屋を出て行った。

「さんぞぉ〜…。」

悟空が三蔵を振り返る。熱が上がってきたためか、黄金の瞳が溢れんばかりに涙を湛えている。
三蔵は思わず手で自分の視界を半分隠した。ほっぺたがなければこんな可愛い悟空の泣き顔にお目にかかることは滅多にない。

不意に廊下が騒がしくなった。ばたばたと慌しく走ってくる足音。あれは断じて八戒ではあり得ない。そう思うと、ドアが乱暴に開かれた。いきなり全開だ。
こんな騒々しい開け方をするのは、悟空のほかにはただ一人。

「悟空っ! 男前になったって?」

悟浄は最初から満面の笑みだった。悟空がのたりと振り向くと、喉の奥からうぐうと妙な声を上げて一瞬のけぞる。

「ほ…。」
「ほ?」
「ほうずき太郎だっ!!!」

叫ぶと、あとは遠慮も会釈もあったものではない。悟浄は腹を抱えて大爆笑した。
なるほど、ほうずきか。三蔵はどこかでちらりと感心した。真ん丸で真っ赤な実を包んだ薄皮が、今の悟空の様子に似ていないこともない。
だが、悟空にとってそれはまさしく人事ではなかった。身も世もないという風に体を震わすと、ふみぃと泣き出してしまった。
その様子があんまりはかなげだったので、三蔵はぎょっとする。それから猛然と腹が立った。

「てめえっ! 殺すぞっ! このエロガッパ!」
「だ…だってよう…。」

悟浄はひいひいと喘ぎ、苦心して酸素をとりこんでいる。ハリセンを一発見舞ってやって,三蔵は悟空に向き直った。

「おまえもだっ、バカザル! びいびい泣くな。熱が上がるだけだっ!」
「だって…、痛いし、熱いし…、みんな笑うし…。」
「俺は笑ってねえだろがっ!」

三蔵は憤慨した。みんなという言葉で十把一絡げにされたのが気に入らない。
確かに滑稽だとは思うが、苦しんでいる悟空を見て笑うなど、三蔵には考えられないことだった。
憤慨はしても、さすがにこの顔はハリセンでは叩けない。せいぜい睨みつけるに留まると、悟空が胸元にすがり付いてきた。反射的に抱きかかえて、三蔵は再びぎょっとする。悟空は火の玉みたいに熱くなってしまっていた。

「なんだこの熱! 寝てろ、バカザル!」
「やだあ〜。いーたーい〜…。」
「ちっ、赤ん坊返りしやがって…。」

仕方なく、あやすように頭を撫でてやる。
ふと、この状態で致したらどんなだろうと不埒な考えに浸る。普段でも飛び切り熱くて気持ちいい悟空の中は、今ならどんなことになってしまっているだろう。
考えが顔に出てしまっていたかもしれない。悟浄が胸をさすり、ご馳走様と呟いた。三蔵は思わず赤面し、ゴホンと咳払いをした。

「それはそうと…、街の様子はどうだった?」

悟空も気になるが、出発の予定も気になる。そう思って聞いたのに、悟浄はキシシシといやらしい笑い方をした。

「いい街だぜえ。酒も食い物も豊富で、何もかも潤ってる。山一つ超えた所に温泉があるんだと。だから女の子たちがつやつやでよう。」

三蔵は額に青筋を浮かべた。そんなことを聞きたいんじゃねえと毒づきかけたのを止めたのは、うっそりと立っている八戒に気付いたからだ。
八戒は悟浄が開け放したままになっているドアの前に立って微笑んでいる。両手になみなみと水を湛えた洗面器を持っているから、自然忍び足になったのだろう。
悟浄は八戒がそこで話を聞いているのにまったく気付いていない。三蔵が八戒を見ているのに気付き、八戒はにっこりと微笑んだ。
無言の脅しを掛けられて、三蔵の背中に冷や汗が流れる。八戒は天使のような微笑みを浮かべて激怒していた。

「夕べ酌してくれた姉ちゃん、色っぽい別嬪でさあ、これがまた…。」

止せば良いのに、悟浄の饒舌は止まらない。手のひらを向かい合わせて顔の幅くらいに開き、胸の前に持ってくる。

「みっしり♪」

自分の体のラインに合わせ、まず一度手の幅を開き、いったんそれをすぼめてまた開く。
女性の丸っこい体つきを示しているのだろう。三蔵は思わず頭を抱えた。

「へええ。」

冷たい八戒の声に、一瞬悟浄の赤い長髪が一本残らず逆立ったのを、三蔵は確かに見た。

「昨夜は僕の部屋にこないと思ったら、そんないい連れがいたんですねえ。」
「は、八戒さん…。」

悟浄がかくかくと喋った。八戒はといえば、いつもどおりの穏やかな声、穏やかな顔。しかしぶちぶちとこめかみに浮いた青筋は隠せない。
悟浄の顔色がみるみる砂色に変わる。

「…ゆ、昨夜は、賭場にいたんだ。そこの酌女だよ。…本当ですよ。」
「…ふうん。」

救いを求めるような悟浄の視線を敢えて三蔵は無視した。この状態の八戒に逆らえる命知らずは、三蔵一行には存在しない。

「悟空も三蔵がいればいいみたいだし。」

八戒は洗面器を下ろすと、じろりと三蔵を見据えた。どうやら悟空が甘ったれて三蔵の胸にしがみついているのも、八戒の機嫌を損ねた一因らしい。

「さ、じゃあジープ、行きますよ。」
「ちょ…、おい待てよ。どこへ…。」

三蔵は慌てて手を伸ばす。こんな悟空を置いていかれてはたまったものではない。
八戒はドアのところで振り返ると、初めて冷たい目をした。

「決まってるじゃありませんか。温泉ですよ。僕はつやつやでもみっしりでもありませんから。」

悟浄がひぃと小さく悲鳴を上げる。三蔵と悟浄がたじろいでいるのをみて、八戒は冷笑を浮べた。

「一週間帰ってきませんから。」
「ま、待てっ。りんごっ、せめておろし金…。」
「おろし金なんて必要ありませんよ。」

八戒の言葉はあくまで冷たい。

「あなたの丈夫な歯と、悟空の可愛い唇があれば、何の問題もないでしょう。」

決め付けるとくるりときびすを返す。去っていく足音で悟浄が我に返った。

「ま、ま、待ってくださいよう、八戒さ〜ん。」

情けない声を後に残し、どたばたと八戒の後を追っていく。三蔵は伸ばした手の収め場所を失って呆然としていた。

そして彼はいまだぐずりつづける悟空を胸にぶら下げたまま、再び途方にくれた。



悟空は暗闇の中でぽかりと目を開けた。
安宿につきものの酔客たちの喧騒ももう聞こえない。薄く開いたカーテンから、欠けた月が見える。
身じろぎをすると、額の上からすっかり温まったタオルが滑り落ちた。ほっぺたばかりでなく、全身がキシキシと痛い。暗闇は音も光も、総てのものも飲み込んでしまいそうに思えて、悟空は心細くなった。

「さんぞ…。」
「…なんだ。」

囁くような声だったのに、すぐに傍らの陰が起き上がる。
淡い月光の下でも、三蔵は相変らず黄金にきらめいていて、悟空はほっとする。手を伸ばすと、思いがけない強い力で握り返された。

「…熱い手ェしてやがって。」
「…うん。」

三蔵の目が見たこともないくらい優しくて、悟空は返事をするのが精一杯だ。もう一度手を伸ばして、やっと三蔵の袂を握った。

「三蔵、俺さあ。」
「なんだよ。」
「…ううん、なんでもない。」

三蔵がこんなに優しいなら、いつまでもほっぺたが痛くても構わない。そう言いたかった。しかしきっと、笑われるか怒られるかのどちらかだろう。
だから悟空はぎゅっと三蔵の袂を握り締めた。少しでも長く、優しい三蔵を感じていたくて。

「…ばぁか。」

蕩けるような甘い声が、悟空の胸を内側から暖めてくれた。



「いやあ、実にいい温泉でした。」

きっちり一週間後、悟浄を従えて帰ってきた八戒はご機嫌だった。
八戒がつやつやなのに悟浄がなんとなくしなびているのは、温泉の効能のせいばかりではないだろう。
三蔵はむすっとしたままタオルを絞った。もう殆ど冷やす必要もないほどに、悟空の頬の腫れも引いている。
一週間の看病疲れのためか、三蔵は今日は機嫌も具合も悪かった。

「悟空、薬効いたみたいですねえ。ちょっと丸顔ぐらいの可愛い悟空に戻りましたよ。」
「うん! 三蔵が面倒見てくれたから!」
「…そのようですねえ。三蔵、袂が両方ともくしゃくしゃですよ。お医者さんごっこ、十分楽しめましたか?」
「…ぬかせ。そっちこそ、さんざん温泉仲居さんごっこしてきたんだろうが。」
「ああ! そんな手もありましたねえ。」

嬉しそうに切り返されて、三蔵はぶつぶつと文句を言った。

「しかし、おサルちゃんはやることが違うよな。何でいまさらおたふくかねえ。」
「そうですねえ。少し前の町で、ちょっとふくよかなお子たちと遊んでいたようですから、そのとき伝染ったんですかねえ。ふくよかなんじゃなかったんですね。」

三蔵の肩がピクッと震えた。だが、八戒と悟浄はそんな三蔵の様子に気付かない。

「ある意味、悟空は純粋培養ですからねえ。免疫がなかったんでしょうねえ。」
「この様子じゃ、麻疹も水疱瘡もまだなんじゃねえの? ああ、やだやだ。」
「…おい。」

三蔵の低い声に、二人は訝しそうに振り返った。三蔵の眉間に深いシワが刻まれている。

「これは…伝染るのか?」
「え?」
「今朝はなんだか耳の下が痛いんだ。…散々世話焼かせて…、口移しでりんご食わせてやったり…、その挙句、こんなふざけた面になるっていうのか…?」
「………ああ!」

八戒は丸めた右手の拳を左手の平に打ちつけた。ポンと妙にいい音が響いた。

「そういえば、純粋培養がもう一人いましたねえ!」
「今度は三蔵がおたふく?」

悟空は黄金の瞳をくりくりさせた。

「じゃ、今度は俺が世話してあげる! ちゃんとゴハンも食べさせてあげるし、体も拭いてあげる。…うわあっ、なに怒ってんだようっ、三蔵っ!」
「………コロス。」

三蔵の懐から取り出された拳銃の、撃鉄を起こす音が冷たく響いた。



 そして三蔵一行の出発は2週間ほど遅れたのだった。




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