1週間ぶりに帰ってきた三蔵を、俺はじっと待っていた。
御本尊様への挨拶やら大僧正への報告やらで、帰ってきてからも三蔵は忙しい。この寺院にとっても、三蔵は尊くて誰もの憧れの的だから、いつになく寺院中がざわめいてそわそわしているのが分かる。
きっと三蔵はさぞかし苛立っている事だろうな。持ち上げられて、遠巻きに囁き交わされる事ほど三蔵を苛立たせる事がないのを、寺院のみんなは知らない。三蔵の本当の姿を知っているのは俺だけだ。そんな自覚が、俺にちょっぴり胸を張らせる。

思った通り不機嫌丸出しで部屋に入ってきた三蔵は、俺の顔を見てちょっとたじろいだ。俺がここに居るとは思わなかったのかもしれない。

「おかえり、三蔵。」
「…ああ。」
「………淋しかったよ。」

俺の素直な言葉に、驚いて三蔵は振り返る。俺は落ち着くように大きく息を吸って、八戒の言葉を思い出した。

長旅の疲れだろうか。綺麗な金色の髪が少しもつれている。眉間の皺がいつもより多いのも、疲れている証拠。
だけど三蔵の深い菫色の瞳はいつものように煌いていて、強い意志の力を感じさせる。こういうのをきっと神々しいって言うんだろうな。

うん。やっぱり俺は三蔵が大好きだ。どんな表情の三蔵からも目を逸らせない。この綺麗な金色を、一時でも独占できる自分がちょっと誇らしい。

「…何じろじろ見てやがる。」
「…三蔵。」

ずかずかと近付いて来た三蔵を伸び上がって迎えた。柔らかく抱きしめて冷たいほっぺたに唇を押し付けると、三蔵は心底驚いた顔をした。
大丈夫。今日はあの音も聞こえない。心も体も潤うって、こういう事かな。胸がどきどき言って、体の奥が暖かくなっていく。八戒の言葉を思い出すまでもなく、自分の素直な気持ちが言葉になって溢れ出た。

「三蔵、俺、三蔵の事、誰よりも一番好きだよ。」
「…当然だろ。お前は俺のものだ。」

僧たちに言われるとあんなに嫌だった言葉が、嘘みたいに俺の胸を温かく寛がせる。

三蔵はほんのちょっと自信なさそうに、俺を見返して笑った。



三蔵の指が俺の体中を這っている。左手は俺の髪を掴みっぱなしだ。俺はもう、どこへも行きはしないのに、まるで三蔵は、俺が消えてしまうのを恐れているかのようだ。
俺よりずっと体の大きい三蔵が可愛く思えるなんて変かな。だけど、俺の体を貪る三蔵の金色を見下ろしていると、俺は三蔵を抱きしめて、何からも守ってあげたい気分になる。

胸の敏感な突起を嘗められて、俺は思わず声を漏らしてしまう。俺の反応に気をよくしたのか、暖かくて湿った舌先が、からかうように俺を弄ぶ。
三蔵は俺のここが好きなんだな。この間は噛み切られそうになって俺を脅えさせたそこが、どんどん俺を追い上げていく。

「あ…ん、さんぞ…、くすぐった…い。」

甘い声。自分の口から出ているとは信じられない。前は恐怖にしかならなかった三蔵の体の重みが、今はとても心地いい。暖かい右手が、俺のからだの輪郭を確かめるように脇腹を擦ってお尻を辿り、そうっと内股をさすった。抱え込まれた左足が、ゆっくり開かれていく。

わずかな恐怖が俺を震わせた。こじ開けられ、切り裂かれる痛みは、頭では許容できても体が拒む。俺が震えたのが三蔵にも分かったらしい。夢中で俺をついばんでいた三蔵が、顔を上げた。

「…怖いのか?」
「ううん。俺、三蔵となら…怖くないよ。」

紛う事のない俺の本意。だけど声は微かに震えている。三蔵がふっと表情を緩めた。

「悪ぃな、俺ももう、引き返すつもりはないんだ。」

三蔵の重みがすっと移動する。

「だからせめて…気持ちよくさせてやるよ。」
「さんぞ…、あっ、や…っ。」

大きく広げられた足の間に、三蔵が顔を伏せた。さっきから三蔵の手に刺激されてはちきれそうになっていた俺の中心を、暖かい湿ったものが包み込む。三蔵が俺のを咥えてる! 胸が一つ大きく鳴って、同時に全身がかあっと火照る。

「だ、だめ、そんなとこ…っ、さんぞ…っ。」

三蔵の舌が生き物みたいに柔らかく蠢いて、俺の声を躍らせる。俺は必死に三蔵の髪を掴んだ。与えられた事のない激しい快感に、足が細かく震えて腰が浮いてしまう。

「気持ちいいんだろ。」
「ひ…あ、しゃべんないで…っ。」
「俺がしたいんだ。させろよ。」

三蔵が俺を含んだままもぐもぐと喋ると、呼気やら細かい舌の動きやらが俺を柔らかく刺激する。羽毛の先で責められているような切なさに、知らないうちに俺は涙を零していた。

「あ…ああ、三蔵、さんぞ…っ。」

唇を付いて出る言葉が、拒絶なのか歓喜なのか、もう俺にも分からない。
三蔵は意地悪で、俺を追い上げては突き放す。高められて破裂しそうになると、押さえつけたり軽く齧ったりされて、俺は何度も泣かされた。
柔らかく解けた体が、三蔵に苛められるたびに苦しくて切なくてバラバラになりそうで、でももっともっと三蔵に触れていて欲しいのだ。

「や…あ…っ、三蔵…っ、もう出ちゃうよ…っ。」

何度目の哀願だっただろうか。俺は喉を震わせて開放を乞うた。すっと足の間にあった暖かさが遠のいた。俺は中途半端な所で放置された空虚感に胸を喘がせた。

「すげーな、こっちの方まで垂れてきてる。」

俺の両膝を押さえつけて、三蔵が俺の一番奥をのぞき込んでいる。あまりの恥ずかしさに、俺は慌てて膝を閉じようとした。だけど散々嬲られた俺の足はがくがく笑って言う事を聞きやしないし、三蔵の手は意地悪で俺の意志なんかまったく無視する。

「ここも…綺麗な色に染まってきたぜ。」

指が俺のお尻を撫でていく。何でだか、俺のその辺はぬるぬるしたものがいっぱい垂れていて、三蔵の指は滑らかに滑る。つぷんと指が潜り込んだ。俺は思わず息を呑み込む。

「んっ…。」
「バカ。力入れんな。」

少し焦れたような三蔵の声。だけど俺は体を強張らせずにはいられない。

「大きく息を吸って、ゆっくり吐いてみろ。」

三蔵の声が少し優しくなった。俺はいわれるままに大きく息を吸った。

「はあ…ぁ、んあ…っ。」

吐き出した息と共に全身の筋肉が緩んだ所をすかさず、三蔵の指が潜り込んできた。
俺は思わず妙な声を上げ、体を捩ってしまう。俺の中にくいくいと蠢くものがある。

「暴れんなよ。ちゃんと入ったぜ。…痛くねえだろ。」
「や…っ、動かさないでよ…っ。」
「…冗談。」

短い言葉に笑いが混じった。俺の中でゆっくり蠢いていた物が、次第に動きを大きくしていく。内側をかりかりひっかかかれると、その度にからだがびくびく跳ね上がってしまう。

「あっ、んっ…や…っ。」

三蔵の指の動きに合わせて、短い泣き声が漏れてしまう。
俺が声を上げるたび、三蔵の息遣いが荒くなっていくのが分かるけど、声を抑えるなんてできない。唇を噛み締めて恥ずかしい声をこらえようとすると、三蔵の指はもっと動きを激しくした。
俺が震えながら嗚咽を漏らすのが、三蔵には嬉しくて仕方ないらしい。

抜き差しが始まると同時に、指の数が増やされた。内臓を押し上げるような圧迫感は増えたけど、痛いよりももどかしく、なんだか気持ちよくもなってきて、俺は三蔵の腕に縋りついた。

「あっ、あっ…、やっ、さんぞ…っ、や…んっ。」

俺が腕を伸ばして必死に縋るのに、三蔵は俺に抱き付く事も許してくれない。俺はピンで白い紙に縫い付けられた蝶みたいに、四肢を広げて三蔵の視線に晒されている。
三蔵が俺の誰にも見せた事のない姿を見ている。
その事だけでどうしようもなく体が火照り、恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうだ。

「…聞こえるかよ。」

俺の手の届ききらないぎりぎりまで体を傾けた三蔵が、俺の耳に囁く。

「いやらしい音がしてるぜ。」

ぐりっと一層奥を掻き回されると、三蔵の指が、今までとは比べ物にならない刺激を与える部分を突いた。
思わずのけぞって泣き声を上げてしまう俺にも、それはしっかり聞こえている。三蔵の指が蠢くたびに、ちゅぷちゅぷと淫らな音を立てる俺のそこ。

「聞こえ…てる。俺、三蔵の事、大好きだから…。」

声が掠れている。三蔵の指が、俺の中から乱暴に引き抜かれる。一瞬訪れた虚脱感に弛緩する俺を、三蔵が見逃すはずもない。

「大好きだから…、体だって…潤うんだもん。」

じゅぷ…っと一際淫らがましい音がして、指とは比べ物にならない圧迫感が俺の体を押し上げた。一瞬にして奥まで満たされて、俺は悲鳴を上げて果てそうになる。

「ひい…っ、やあ…っ、さんぞ…っ。」

密着するからだの間に手を差し入れて、三蔵は俺の欲望を塞き止めている。放出できない切なさに、俺はぼろぼろ涙を落とした。

「慌てんなよ、サル。」

三蔵の声も掠れている。

「お前は俺と一緒に…いくんだろ。」

ほんの少し躊躇する声。俺は腕を伸ばした。
俺の上に伸し掛かった三蔵を、やっと捕らえる事ができた。

「…うん、うん。いく。一緒に…いく。」

言葉以上の思いを込めて、悲鳴のように言う。
三蔵の熱い腕が俺の体に巻きついてくる。唇を貪られた。マルボロの香りのする苦いキス。
自分から三蔵の舌を求める。俺のすべてを吸い尽くされてもいい。もっともっと奥まで貪って。三蔵のすべてを掴み取りたくて、抱きしめきれない大きな背中に必死に爪を立てる。

「ん…んんっ、さんぞ…っ。」
「…動くぞ。」

押し殺すような呟き。俺の中をいっぱいにしていたものがズッと音を立てて引かれる。内臓ごと引き抜かれるような感覚。だが三蔵の熱い昂ぶりは、休む間もなく、更に深い所まで叩き付けられる。

「ああ!」

俺は悲鳴を上げる。もっと奥の方まで突いて欲しくて、足まで三蔵に絡み付いてしまう。
俺の耳元に噛り付いた三蔵が、獣のような吐息を吹き付ける。体ごと突き動かされて、摩擦で背中が熱い。
三蔵の、俺を抱きしめる力がますます強くなって、俺は大きくのけぞってしまう。体中が熱い。キスして欲しいのに、息が弾みすぎて唇を重ねられない。

「あっ、あっ、…さんぞ…っ、三蔵…っ。」

三蔵の金髪に縋り付く。俺の欠けていた部分が満たされる。三蔵でいっぱいになっていく。俺の中で三蔵が猛り狂うたび、俺は苦しくて嬉しくて、三蔵の名前を呼んだ。

「さんぞ…っ、もう…っ。」
「…悟空、一緒に…いこう。」
「ん…、あ…、ああーっ。」

一際強く抱きしめられて、三蔵が俺の一番深い所を突いた。大きく膨れ上がったものが、俺の中に熱いものを叩き付ける。
同時に俺の中心をしごき上げられて、俺は堪らずに三蔵の手の中に放っていた。
ずっと塞き止められて待ちきれずに震えていたそれが開放されるのはものすごい快感で、俺はがくがく震える体を止められない。

力の抜けた三蔵が、ゆっくり俺の中から抜け出していく。
自分の一部が無くなってしまいそうな淋しさに、俺は三蔵の頭をぎゅっと抱きかかえた。吐息のような言葉が漏れる。

「だめ…、まだ行かないで…。」
「がっつくなよ、サル。」

やっと余裕を取り戻したような三蔵が、意地悪そうに笑う。

「しばらくおあずけ食らったんだ。…言われなくたって今夜は寝かせねえ。」

マルボロ臭いキス。俺はひりひりしだしたお尻をさすり、ほんのちょっと後悔した。



明け方ごろ、やっと三蔵の腕から開放された。
俺はベッドの縁に座って、窓を見上げた。白んだ空の端っこに、少し欠けた月が見える。昨日まで冷たく輝いて見えた月が、今日はもう柔らかく光っている。
俺はそうっと立ち上がった。足腰はがくがくするけど、最初の時ほど酷くない。ふと、前髪が気になった。少し伸びたのか、目の中につんつんと入り込む。

「三蔵。今度、髪切ってよ。」

振り向いて言うと、だらしなく頬杖を付いていた三蔵が面倒くさそうな顔をする。

「…別に切る必要ねえだろが。」

三蔵は俺の髪を引っ張るのが好きだから、本当はきっと切りたくないんだ。
だけど俺にはもう長い髪は必要ない。この髪を撫でてくれた手の記憶だけに縋って、過去を振り返ることはもうないだろう。

「いいんだ。またいくらでも伸びるから。」

俺が笑うと、三蔵は訝しげな顔になった。

「…三仏神の命が下った。」

三蔵は俺から目を逸らして、思い切ったように切り出した。

「妖怪討伐に出る。長い旅になる。…1年や2年は帰ってこれないかもしれねえ。」

正面から俺の目をじっと見る。微かな躊躇いが感じられた。

「お前は…どうする。」
「一緒に行く!」

間髪を入れずに答える。当然だ。俺のいるべき場所がやっと見つかったんだから。

俺はこれからずっと、三蔵と一緒に生きていく。

三蔵がまぶしそうに目を眇めた。

「お前、少し…背が伸びたか?」

それには答えずに背を向けた。
優しい月の光が、明るい日光に飲み込まれていく。

俺は優しい月に向かって、大きく手を振った。




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