はりねずみ




前衛に立った海堂の背中が大きく揺れている。対戦相手に大きく揺さ振りを掛けられて、もうずいぶん走りまわされたからだ。
だが、きっと海堂の前に回れば、その瞳が興奮でキラキラ輝いているのが見られるのに違いない。追い回せば追い回すほど、怖じ気付くどころかむきになって食いついてくる。海堂はそういう奴だ。

乾は視線を前方に向けた。敵の後衛が体をしならせてボールを投げ上げたところだった。

矢のようなサーブが落ちてくる。予測通り右前方に食い込んだ打球を跳ね返し、乾はステップを踏んだ。敵は軽い足取りで交差し、鋭い打球を打ち返してくる。海堂の左後方。海堂の長いリーチなら届く位置だ。だが僅かに及ばない。

「チッ。」

ラケットを掠めて白線の内側に落ちたボールを忌々しそうに見やって、海堂は剣呑に息を吐く。
ラリー続きの試合だった。海堂は持ち前の粘っこさのため、右に左に駆けまわされている。かなりの体力を消耗したはずだ。上がる息が自然焦りを呼ぶだろう。

「海堂!」

声を掛けるとぎらつく瞳がうっそり振り向く。足を踏み出すと、しかたないという風に海堂は近づいてきた。

「落ち着け。焦れば敵の思うつぼだぞ。」
「…っす。」

極端に省略した返事をして、海堂は踵を返そうとする。肩を捕まえて引き寄せた。

「それから…。」

アドバイスするふりをして顔を寄せると、汗ばんだ頬にチュッとキスをした。
とたんに拳固がうなる。十分に予測される行動。乾は数センチで躱すと、海堂の柔らかい髪をバンダナ越しにぐしゃぐしゃと掻き回した。

「ふざけんな。ぶっ殺されてえか。」

猛々しい言葉を吐いても、頬はほの赤く染まっている。こんな悪ふざけも、上背のある乾に遮られて、敵や審判からはちょっと濃度の密なディスカッションくらいにしか見えないだろう。

「肩の力が抜けたろう?」
「………チッ。」

再び舌を鳴らして、海堂は自分のポジションへと戻る。
だが乾は、今し方まで強ばっていた海堂の背中から、緊張が抜けているのを見逃さない。
体を重ねる間柄になっても、いつでも海堂は初めての頃のようなつっけんどんな初々しさで乾を楽しませてくれる。これから更に年月を重ねても、きっと海堂は変わらないのだろう。とんがりきった小さな獣みたいに、必死な面持ちで乾を威嚇しつづけるのだ。

鋭いサーブが、こんどは左に飛んでくる。ダイレクトにそれを下した海堂は、後方の乾に向けて、一瞬背後にまわした左手の親指を突き立ててみせる。
相変わらず分かりやすくて可愛い奴。乾は、海堂が入部してきた日を思い出していた。



青学のテニス部といえば、全国も狙えるレベルの高さで有名だ。だからスポーツが盛んな青学の中でも、特に人気が高い。毎年春先には、入部希望者が長い列を作る。

「どれどれ、今年は面白そうな子、いるぅ〜?」

入部希望者を並べて名簿をつけていた大石に、英二が絡んでくる。大石の隣で、その名簿を一緒に除いていた乾は、嬉しそうに口をひん曲げた。

「はりねずみがいる。」
「ほえ?」
「はりねずみ…ね。同級生たちにはまむしって呼ばれてるみたいだけど。」

英二は、大石の指す方を、不思議そうに見た。

大石が苦心して作らせた最初の列はもうとっくに崩れている。その、だらしなくたむろした1年生たちから少しはずれた位置に、乾の言うはりねずみは立っていた。

強烈に強い目つきが印象的な1年生だ。その強い視線のままあたりを睥睨しては、脅すように息を吐く。まるで喧嘩を売っているようなその態度に、彼を取り巻く人の輪は広がっていくばかりだ。

「ひゃあ、強烈な奴〜! あれじゃ友達できないよ〜。」
「そうでもないようだよ。」

短髪をつんつんと尖らせた1年生が、彼の傍へ寄っていく。したしげに話し掛けた彼は、やがてどんどん表情を険悪な物に変えていく。

名簿によると、短髪の方が桃城、目つきの悪い方が海堂。桃城は、海堂が短い返事を返すたびにいきり立っていくようだった。ついに決裂したのか、いきなり桃城が海堂の襟首を掴む。海堂も負けじと掴み返して、二人はお互い睨み合った。

「おお! 血気盛んだなあ。」
「なにを呑気なことを…、止めないと!」

生真面目な大石が慌てて割って入り、その場は何とか納まった。
大石のくどいお説教に、一応うな垂れて見せる二人だが、全然反省していないのは変わらない目付きで分かる。

「あれ、ぜんぜん懲りてないよにゃ。それではりねずみ?」
「ふふ、それだけじゃないよ。」

乾はゆっくりと顎をさする。中2にして剛毛の質の乾は、朝たんねんに髭を剃っても午後にはざらざらと肌が粟立つようになる。それを無意識のうちに撫で回すのが最近の彼の癖だった。

「………かわいいなあ。」
「ええ、あれが? 乾、目ぇ変〜!」
呆れ顔の英二をよそに、乾一人楽しそうだった。



はりねずみは悲しい生き物だ。
身を守る爪も牙も持たない彼らは、せいぜいその体毛をいかつく尖らせることで、外敵から身を守るすべとしてきた。だが、ひとたび裏返されてしまえば、その内側には柔らかくて傷つきやすい肌しかないのだ。
必要以上に尖ってしまった彼らは、身を寄せ合うことも知らない。うっかり寄り添えば、その鋭すぎる針で互いを傷つけてしまう。
だから彼らはもしかすると、その針に覆われた自分自身が人一倍柔らかくて傷つきやすいことを知らないかもしれない。そうして鋭く尖ってまわり中を威嚇しては、一人切なさに震えている。海堂には、そんな印象がある。



その年も、まとめて入部してきた1年生たちは、あっという間に仲良くなった。まだ基礎トレーニングと球拾いくらいしかさせてもらえない彼らは、常にかたまっては女子のように囁きかわしている。だが、海堂がその賑わいに加わっていることはない。

試験代わりにさせた簡単なテニスのトーナメントでは、海堂と桃城が突出していた。しかし、その腕前が彼を同級生から遠ざけているわけではないことは、1年生の群れに馴染みきった桃城の態度からも分かる。海堂は、どこか物欲しそうな目をしながらも、確実に自分から一線を引いているのだった。

「また海堂だけ浮いてるにゃ。」

面白そうに英二が言う。

1年生のお披露目を兼ねた部外活動でも、海堂だけはなぜか一人でぽつんと立っている。

その日は通常の部活を少し早めに切り上げて、みんなで町へ出たのだった。新部長となった手塚が、いつもより更に神経質に眼鏡を光らせて、いちいち号令を掛けている。だが、さすがに町中ではお得意の校庭100周も効き目がない。

「こんな大所帯では、他に行くところもないか。」

手塚が神経質そうに言う。彼は不二が提示したマックへ行くのが嫌でたまらないらしい。
そこは実は例年テニス部の新歓コンパに使われる場所だが、毎年大騒ぎになって店側から注意を食らってしまうのだ。しかも手塚は、ジャンクフードを食べつけていないらしい。

しかし、今年は手塚のほかにもジャンクフードを食べつけない者がいた。
店の外で呆然とドナルドを見上げている海堂だ。

乾は興味深く海堂を観察していた。ひとかたならないお節介焼きらしい桃城が、大きな仕草で海堂の背中を叩いて入店を促している。海堂は誘われるまま平然を装って、おっかなびっくりレジに並んだ。
隣のレジでは不二が手塚に付きっ切りで商品の説明をしている。順番が来た海堂は、途方に暮れた様子でそちらを窺っていた。自分にもレクチャーして欲しいのだ。だが、普段尖がっている海堂は、自分からは決して弱みを晒せない。
だから乾は、そっと海堂の背後を取ってみた。珍しく海堂の針が閉じかかっている。柔らかい肌に探りを入れるには、今をおいて他にない。

「決まったのかな?」

忍び寄って、耳元に息を吹きかけるようにして囁けば、海堂は大きく肩を竦めた。なるほど、彼は耳が弱いらしい。

反射的に振り向く大きな目は、いつもの威嚇が取れて驚き半分安心半分の色をしている。やっぱりかわいらしいなと乾は一人ごち、海堂の肩越しに背中を抱きかかえるようにメニューを見た。

「桃城はハンバーガーを3つも頼んだようだよ。我々のおごりだからといって遠慮のない奴。」
「ちょっ…、妙なところで話し掛けないで下さい。」

耳や首筋にかかる息がくすぐったいのか、海堂はしきりにそわそわと体を揺らす。

「君も? バーガー3つも詰め込む口?」
「俺は…。」
「ああそう、君の豪華なお弁当のうわさはこっちにも聞こえているよ。」

口を挟めないように畳み掛けると、見る間にきりきりと眦が釣り上がってきた。
ほんの少し構うだけで、面白いくらい過敏に反応する。乾は思わず含み笑いを漏らしてしまう。声を掛けられてあんなに安心したくせに、海堂は素直にそれを喜べないのだ。

「いいかげん離れて下さい。俺は…。」
「そうだね、後ろが詰まってる…。君も俺と同じ物でいいね。」

決め付けるとややあって、鋭い瞳がゆっくりすがめられた。
針が閉じて柔らかい肌に届いた。乾は確信して、二人分のオーダーをした。



「しかし、今時珍しいねえ、マックを知らないっていうのは…。」
「…知らないわけじゃないっす。あんまり来ないだけで…。」
「それじゃあ、当然注文だってしたことあるんだろう?」
「…いや、こんなもんは母親が頼んでくるもんでしょう。」
「へえ、意外と過保護なんだ。…それとも坊ちゃんなのかな。」
「………普通っす。親父サラリーマンっすから。」

バーガーとポテトとドリンクのセットに、律義に背中を伸ばして合掌してから口をつけた海堂は、面白くもなさそうにポテトをつついた。あまりお気に召さなかったらしく、癇症に指先を紙ナプキンで拭って、海堂は鋭い目を目前の乾に向けた。

「で、あんたはなんでこんなところにいるんです。」
「ん? 俺がいたらじゃまかな?」

乾はにこにこと海堂を見下ろした。

駅ビルの3フロアを占めているマックも、3階は比較的空いている。今は青学のテニス部員たちがそこを占領している形だった。
フロア真ん中の大きなテーブルにあちこちから椅子を持ち出して、一塊に座っている。連中はもうLコーラの一気飲みで盛り上がっている。すでに2杯目になるコーラを氷ごと飲み干して、たった今桃城が気炎を上げたところだ。

「それとも君は、あのばか騒ぎに加わりたい?」
「…冗談じゃねえ。」

乾と海堂は、彼らの大騒ぎを遠巻きに、少し離れた位置の二人がけのテーブルに座っている。海堂がぽつんと離れたところにいるのを、無理矢理乾が割り込んだ形だ。

「俺はあーゆーのは性に合わねえ。」

そう言いながら、海堂の目はなんとなく羨ましそうだ。乾も反り返るようにして大テーブルを窺った。

騒ぎの真ん中にいるのは桃城と英二。大石が必死に静めようとしているが、今のところまったく徒労に終わっている。不二は静かに笑いながら煽り立てているし、手塚は頭痛でも起こしたようにこめかみを押さえて俯いている。河村と1年生数人の姿が見えないのは、Lコーラのお代わりを買いに行かされているらしい。

「馬鹿騒ぎが嫌いなら、こんなところについてこなければ良かったのに。」

乾は頬杖を突いた。海堂がはっとしたように大きな目を見開いて、それから乾をきつく睨んだ。

「そうやって防御壁を張って、それでも本当は淋しくて、みんなに擦り寄って行きたいんだろう?」
「あんた…。」
「ほんとうに、かわいいなあ、海堂は。」

さらりと言うと、海堂の目がぎょっと見開かれた。ガタガタと音を立てて椅子ごとあとずさる。だが、嫌そうな表情とは裏腹に、頬がたちまち赤く染まっていく。好感触だ。乾は舌なめずりせんばかりに思う。

「あんた…、ヘンなんじゃねえのか?」
「うん、よく言われるよ。海堂は可愛いって言われたことないのかい?」
「そっ、そんなこと、…言われるわけねえじゃねえか。」
「みんな見る目がないんだなあ。海堂はこんなにかわいいのに。」
「ばっ…、ばっかじゃねえの。」

海堂はケッと言い捨てると目を逸らした。その面に動揺が走っているのを、乾は見逃さない。いつもはこのぐらいの距離に近づいたらピンピンに突っ立ってあたりを威嚇しまくる海堂の針が、戸惑いに伏せ加減になってしまっているのが良く分かる。もう一押し。乾はテーブルの上に身を乗り出した。

「それじゃお互い馬鹿騒ぎが苦手同士ってことで…フケちゃおうか。」

ん?と笑いながら誘うと海堂はあからさまに警戒心を表に走らせた。

「淋しがり屋の君に、イイコトを教えてあげる。」
「ふざけんな! 俺はっ…。」
「それとも、…俺が怖い?」

ほんの少し挑発を言葉尻に乗せると、案の定海堂のきつい目が挑みかかるように輝いた。
乾は静かに席を立つと、海堂を手招いた。一瞬気後れしたような目をした海堂は、それでも忌々しそうに顔をしかめて、乾の後をついてくる。なぜか足音を忍ばすような慎重な足取りになってるところがおかしい。
こうして数回の「怖い?」という問いかけだけで、その日のうちに乾は海堂の唇までを物にした。



いったん裏返らされてしまったはりねずみはの針は、もう乾にとっては脅威でもなんでもなくなっていた。思ったとおり、鋭い武器の下の肌は柔らかくて暖かく、乾だけにさらすその弱々しさは、彼をますます夢中にさせた。
いつでも意地っ張りな海堂を陥落させるのは、乾にはたやすいことだった。そうして海堂の初めての夏休みを迎える前には、もう、二人はお互いの肌の熱さを知るようになっていた。

「…信じらんねえ。」

海堂はうつぶせに伏せたままでつぶやいた。海堂の柔らかい髪を弄んでいた乾は、その言葉に注意を引かれ、裸の上半身を押し上げた。

「なにが?」
「あんたなんかと…その、こんなことになっちゃってるテメエがだよ。」

海堂は恥ずかしそうにつぶやくと、首を乾とは反対のほうへ捻じ曲げた。
すらりとした背筋に肩甲骨の三角が際立って見える。肩甲骨が天使の羽の残骸だというのは本当のことかもしれない。乾はそう思いながら、そっと海堂の滑らかな肌に手を沿わせた。

「…そんなによかったのかな?」
「いいとか…そーゆーことを言ってるんじゃねえ。こんな…こと…、んっ…。」
「…かわいくないお口は塞いじゃおうか。」

乾はくすくすと笑いながら、一度は手放した海堂の背中をもう一度抱え込んだ。腕を伸ばしてあごを押さえ、唇を唇で塞ぐ。やや厚みのある海堂の唇は、いつも柔らかくて、乾は一度触れてしまうと簡単には手放せない。

「だから…っ、こんなことを簡単にさせちゃう自分が信じられねえんだよ!」

首を振り払って乾の腕と唇から逃れた海堂は、乾をきつく睨みながら言った。目つきはきつくても、大きな目は感極まったように濡れている。乾は海堂に逃げられないように、腕を伸ばしてそのしなやかな背中を抱きしめた。

ついさっきまで乾の腕の中でうっすらと汗ばみながらしなって、乾を楽しませていた背中だ。乾は注意深く、海堂の襟元に唇を押し付けた。襟を立てて着る青学ジャージの、襟すれすれの位置だ。

「…! 跡付けんなってば!」
「海堂はかわいいから、俺のものだってみんなに分かるように、印。」
「だから、…あんたがそんな事いうから、だまされたんだ。」

乾は驚いて海堂を見下ろした。腕の中の海堂がきゅっと四肢をこわばらせるのが分かった。

「あんたが…かわいいなんて言うから。俺はそんなこと言われたことなかった。どんな誉め言葉でも、俺は怖くて威厳があるとか、近寄りがたいとか、そんなことばっかりだった。俺は誰とでも近づきすぎちゃいけないんだって思ってた。」

一息に言った海堂は、顔ばかりか襟足まで真っ赤になっている。海堂が照れているのだと分かると、乾はもう一度海堂を抱きしめたくなった。

「だいたい…俺のどこが、か…かわいかったんだよ。」

顔を半分だけ捻じ曲げて、海堂は強気な中に縋るような目をする。その仕草全体がかわいらしいことなど、きっと海堂は気づいていないのにちがいない。

「うん、君の柔らかくて優しい髪が、とってもかわいかったんだ。」
「髪…?」
「そう、全身どこもかしこも尖がっていたけど、髪だけがね、サラサラなびいて油断丸出しで、とってもかわいかった。」

海堂がふてくされたように視線を逸らす。きっと海堂は乾がわざと海堂の望んでいない返事をしたことなど分からないに違いない。その弱さをつんつん尖らせた針で必死に庇っているのがかわいらしいのだから、乾はそれを海堂に教える気はなかった。

「もちろん…いまでも海堂はかわいいよ。」
「やめっ…、あんたのあごは髭が濃くて痛ェんだよ! や…っ、耳噛むなって…。」
「君があんまりかわいらしいから、お仕置き。」

拒むように形ばかりもがく腕を取って、首筋に舌を這わすと、下敷きにした体が震えた。
その、言葉とは正反対に素直な反応に気を良くした乾は、もう一度海堂を追い上げるべく、滑らかな肌を慎重に撫で始めた。



海堂が長いリーチを生かした返球で、相手のコートを割った。
審判が得点を読み上げる。いつのまにか逆転に成功している。

乾は頼もしく海堂の細い背中を見た。あの、乾がからかい半分に髪がかわいいといった次の日から、海堂は柔らかい髪を隠すバンダナが標準装備になってしまった。それで自分の弱いところをカバーして、ますます身を固めた気分になっているのだろう。本当に海堂はかわいらしい。

コートチェンジが告げられ、海堂が無言で歩き始めた。
後を追った乾は、途中のベンチで足を止めた海堂に簡単に追いついた。作戦を授けるような顔をして、深く除きこむ。もう一度、あわよくば唇に触れたい。
危険を察したのか、海堂はひらりと顔を逸らした。今度は触れてもいないのに、また拳が飛んできた。乾はちょっと残念に思いながらそれを避けた。鼻先数センチで拳が通り過ぎる。だが同時に、ずしりと腹に重い物がめり込んできた。乾にダメージを与えて、でも決して本気ではないそれを見下ろすと、それは海堂のひざ頭だった。

「いつまでもふざけてんじゃねえよ。」

海堂はさも得意げに顔を緩める。

「俺がいつもいつもあんたの思うままになってると思ったら大間違いだ。」

海堂はきつい目をほんの少し和らげて、嬉しそうに笑う。
乾は軽く咳き込みながら、やっぱりかわいいなと、癇の強い恋人を見下ろした。 



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