不機嫌な太陽




見事な投球フォーム。金蝉の手を離れた茶碗は一直線にカッ飛び、扉にあたって鈍い音を立てた。
床に落下すると名残惜しげにゴロゴロ転がり、それから真っ二つにパカッと割れた。
俺は思わず拍手をした。
こんな見事な投げっぷり、そうそう見られるもんじゃない。

「ストラーック、バッター、アウッ!」

アウトが最期まで言えなかったのは、振り向いた金蝉が俺にゲンコを食らわせたからだ。おかげで舌噛みそうになっちゃったい。

「うるさいっ、このサルっ! 余計なことばっか覚えてきやがって。」

金蝉は忌々しそうに割れた茶碗を振り返った。
あーあ、せっかくお気に入りの伊万里だったのに。今月に入って三つめの茶碗かな。
もっともその前の二つは俺が割ったんだけども。

「痛ってーなあ。俺は教えてって言っただけなのにい。」
「だからそれが余計なんだっ。」

金蝉が怒鳴る。
あんまり大きな声を出すから、ほっぺが真っ赤じゃんか。俺は首をすくめた。
金蝉は怒っててもキレイだけど、なるべくなら怒られないほうがいい。

ひとしきり怒鳴った金蝉は、どうやら気がすんだようだ。ふうとため息を付くと、いつもどおりの渋い顔に戻って俺を見下ろした。

「ガキはさっさとメシ食ってフロ入って寝ろ。」
「メシ!」

そうだ、俺はだいたい、腹減ったから帰ってきたんだった。
ポンと座っていたデスクから飛び降りる。
金蝉は俺が座っていたのが“シツムヨウ”のデスクの上だったことにいまさら気が付いて、いやーな顔をした。

「なあなあ、オシゴト終わったんだよなっ。一緒にメシ食えるんだよなっ!」

俺は金蝉の周りをぴょんぴょん跳ねた。金蝉はちょっと苦笑いすると、ああと肯いた。
俺は金蝉の手を握って、食卓の方へ引っ張った。
しまった、ちょっと強く引っ張りすぎちゃった。
金蝉はつんのめったけど、俺の手を振り解きはしなかった。

俺はメシを食うとか、フロに入るとか、そういう普通の生活が楽しいものだなんて、ここにくるまで知らなかった。
地上での俺は、いっつも冷ややかな目の中で暮らしてた。メシを食うのも眠るのも、いっつも一人。
たまに俺の周りにくる奴は、決まって俺のこと、気味の悪い奴だとか不吉の象徴だとか言った。
まるで自分の周りの悪いことを全部俺が引き起こしてるみたいに。
俺の目玉が黄金で、いっくら他の人とは違っても、そんなの俺のせいじゃない。
俺はただ、息を吸って吐いて、そうして生きてるだけなのにさ。

だから金蝉と暮らすようになって、ぶっきらぼうな金蝉が俺のことをあれやこれやかまってくれると、俺はとっても嬉しかった。
金蝉はしょっちゅう怒鳴るし、俺のことボカスカ殴るけど、それでも地上の奴らより何十倍もあったかかった。
怒鳴るのは俺のことをちゃんと気にしてくれるからだし、しらんぷりをしてるふりして目の端っこで俺のこと見ててくれるのも、俺ちゃんと知ってるんだ。

金蝉と向かい合ってメシを食う。
金蝉のメシは野菜が多い。天ちゃんが、天界人は基本的にべじたりやんなんだって教えてくれた。天界は無殺生だからだって。
誰も守っちゃいないそんなこと、金蝉はリチギに守ってたらしい。
天ちゃんによると、金蝉はストイックでお堅い男なんだって。
だからどんな風に崩れるのかが楽しみなんだってさ。
だからって俺に期待してるってのはどーゆーことか、今ひとつわからないんだけど。

天ちゃんと話すと、俺の知らない言葉がたくさん出てくる。どうしてべじたりやんだと肉を食わないんだろう? 
だけど今俺たちの皿にてんこもりになってるのはどう見たって肉だ。

「なあなあ、べじたりやんは無殺生なんじゃないの?」
「…ガキには蛋白質が必要だからな。それに鳥はいいんだ。」
「えー、これ、鳥―?」

俺は手の中の肉を見た。けっこう太い骨がついてて鳥には見えない。味も違う。

「…それはウサギだ。鳥ばかりで飽きたと言ったのはおまえだろう。」

金蝉がいやあな顔をした。俺が食いながら喋るのが気に入らないらしい。

「ウサギは鳥じゃないよう。」
「鳥だ。連中は耳で空を飛ぶんだ。だから一羽二羽と勘定するんだ。」
「…そうかなあ?」

なんだか金蝉の答えはインチキ臭い。
俺は丘に出てくるウサギたちを思い出した。あいつら本当に耳で空を飛ぶのかなあ? 
今度試してみよっと。

「…気が済んだか? とっとと食っちまえよ。」

見ると金蝉は、もう自分の前の皿をきれいに平らげてる。頬杖をついて足を組んで、すっかりくつろいじゃってる。
金蝉がこんなにのんびりしてるのめずらしい。
今日はもう本当にオシゴトないんだ!

「金蝉、今日もうホントーにオシゴトないの?」
「…ああ。」
「うわーい! じゃあいっしょにフロ入ろう!」

バンザイに上げた手に引っかかって、皿がテーブルの上でガチャガチャ鳴る。
おまけに口に入ってた肉のかけらが金蝉の方に飛んだみたい。
金蝉は片手を上げて、俺との間を遮った。

「嫌だ。おまえはうるさいし、面倒くさい。」
「いいじゃん! おとなしくしてるし、ちゃんと髪も洗うよう。」
「…さてはしょっちゅうサボってたな。どおりで布団が泥だらけになる筈だ。」
「ねええ、金蝉、いいだろ〜。」
「…嫌だ。」
「いいだろうってば〜。ねっ、ねっ♪」
「………。」



「ぃやっほう! そぉぉぉれっ!」

掛け声をかけて湯船に飛び込む。
泳げるような広い湯船だから、勢いよく飛び込んでも平気。
水蒸気がいっそう濃くなって、声がうわんうわんと響く。
こおんな広いフロ、金蝉一人のためなんてもったいない。

「静かにしろ! おとなしくしてるといったのはてめえだろうが!」

金蝉に怒鳴られて、俺はちょっと舌を出した。
バタ足で湯船の縁まで進んで金蝉を見上げる。金蝉は長い髪を洗ってる。
俺はこれを見るのが大好き。フロ場の黄色い光の中にあって、金蝉の髪は本当に見事にキラキラ輝くんだ。
桶から流れるお湯でさえ、金蝉の髪の上では金色に染まって流れ落ちる。
金蝉の回りにはキレイが一杯つまってる。

「…何じろじろ見てやがる。」
「えへへ。キレイだなと思って。」
「何を…。」

あれ、めずらしい。金蝉が困ったように横を向いた。
照れてるのかなあ。いまさら変なの。
金蝉が視線を反らしたのをいいことに、俺は金蝉をゆっくり見ることにした。
だって金蝉といっしょにフロはいることなんか滅多にないんだもん。絶好のチャンス。

「あれ?」

俺は湯船から身を乗り出した。
金蝉が腰に巻いた手ぬぐいをそうっとはぐって見る。
でもやっぱり気付かれて、頭上から怒鳴り声が降ってくる。俺は慌てて首をすくめた。

「何しやがる! このガキ!」
「だってえ。」

何でもギモンに思ってケンキュウすることはいい事だって言ったのは金蝉じゃんか。
金蝉のソレ、俺のと形が違う。
ナタクとくらべっこした時だって、そんなんじゃなかった。
俺が口を尖らせてそういうと、金蝉はなんだか嬉しそうな顔をした。

「あったりまえだ。俺はオトナだからな。ガキとは比べものになるわけない。」
「え〜。俺だって大人だよう。」
「ばか言え。そんじゃ見せてみな。」
へへんと笑う金蝉が悔しくて、俺は思いっきり立ち上がった。
お湯がザバンと大きな音を立てて跳ねる。
ニヤニヤしてた金蝉の顔が急にぽかんとなった。

「これは…、おまえ、割礼なんか受けてたのか。」
「え? かつれいって言うの? これ。」

俺は自分のを見下ろした。
ナタクにも変だって言われたけど、俺のは2段構えになってる。
先っちょの皮を鋏で切ったんだもん。下にいるとき、大人になるためだって言われてそうした。
村でお祭りがあって、大勢の男の子たちが同じようにソレをして、俺もついでにってやられたんだ。

「大変だったんだぜー。ここの皮を引っ張られてさ、こおんなに伸びるんだぜ、ここって。」

俺は右手を高く上げた。
金蝉が眉間にシワを寄せた。見るからにそんなに伸びるかって顔。
だけど本当によく伸びるんだ。
ちょっとは大げさかもしんないけど、そんなにたいして大げさでもない。

「そんでさ、鋏でパッチンって。」
「野蛮なことを…。痛かったろ。」
「うーん…。そんときより、そのあとが大変だったよう。なんか腫れちゃって熱とか出るし、いつまでもシッコするとき痛いしさ。」
「不潔な鋏でやられたな。何でそんな無用なことするんだ。」
「早く大人になりたかったんだもん。」

俺はなんとなく胸を張った。
下界では俺はしょっちゅう、厄介者とかただ飯食らいとかって言われた。だから早く大人になって、自分の食い扶持ぐらい稼ぎたかった。
コレをすれば客を取ってお金が稼げるって言ったのは、村の男達だ。

「それでっ、客を取らされたのかっ!」

金蝉がいきなり大声を張り上げた。見たこともないような真剣な顔をしてる。
俺はびっくりした。何をそんなに怒ってるんだろう。

「う…ううん、こんな目玉じゃ気味悪がって客もつかないって、結局全然稼げなかった。
ところでさ、金蝉、客を取るって、何の仕事だったんだろ?」
「…聞かされてなかったのか? バカ猿。」

俺はむううと口をとんがらかせた。だって何回聞いたって、男達はニヤニヤするばっかで教えてくれなかった。
見た目はそこそこだし物珍しいから、いい売り物になるとかって言ってたかな。

「キショウカチだって言ってた。でも結局稼げないんじゃ意味なかったよな。結構痛かったのにさ。」

金蝉があんまりじろじろ見るので、俺は恥ずかしくなって急いで腰を下ろした。
どぷんって一気に鼻までお湯につかる。お湯が鼻の中に入って痛かった。

「馬鹿なことして…。泣いたんだろ、おまえ。」

金蝉がもう一回、変な笑い顔で俺のことを見る。
笑っているはずの金蝉の顔が、なんだか怒ってるように見える。
俺はぎゅっと眉をしかめた。

「泣かないよう。」
「嘘だ。絶対泣いたね。いてぇよーって、泣き喚いたに決まってる。」
「泣かないってばっ! だって回り俺よりちっせー子ばっかりだったし、それに…。」
「それに…?」

金蝉に突っ込まれて、俺はきゅっと奥歯をかんだ。どんな顔をしていいかわからない。

ほんとうはちょっぴり涙が出た。
俺は逃げも暴れもしないのに、俺の両手足をがっちり押え込んだ男達の薄ら笑い。着飾らされて、家族中にあやされてそれでもまだ泣き喚く男の子達。それを抱きかかえて、なんとも誇らしげな顔の母親達。
あの場にはあんなにも大勢の人がいた。
それなのに誰も俺のことには無関心で、それでいて凍てつくような視線で俺のことを睨んでた。人いきれのする中で、俺の周りにだけはひんやりした空気が流れてるように感じられた。
俺はその時ほど淋しいと感じたことはなかった。
ああ、俺ってほんとうに岩なんかから産まれちゃったんだなって。
きっとこれから先もずっと一人きりなんだろなって。そう思ったら涙が出た。
俺が涙を滲ませたのを見て、誰かが大声で笑った。
だから俺はその時、もうこれからは決して人前で泣くもんかと誓った。
少なくとも、涙なんか見せるかって。

歯を硬くかみ締めたまま、眼の縁までお湯に潜った。
歯の隙間から静かに息を吐くと、細かい泡がいくつもいくつも頬を伝って登る。
眼の前ではじけた泡たちが、俺の眼をしぱしぱさせた。
金蝉が髪を洗う手を止めて、俺のほうを見てる。俺は仕方なく顔を上げた。言いよどんでた言葉を振り絞る。

「それに、…泣いたって、俺のことなんか、…誰も抱きしめて慰めてくれないもん。」

金蝉の手が完全に止まった。俺のほうを向いて眉を曇らせてる。
馬鹿なこと言うなって怒られるのかな。それともあの男達みたいに、俺のことを笑うんだろうか。
だけど金蝉はそのどっちもしなかった。
泡だらけの腕をぬっと伸ばして、俺の頭をぽんぽん叩く。それだけじゃ足りなかったらしくて、大きな手で俺の頭をわしわし掻きまわした。
金蝉の手から泡と石鹸水が、肘を伝ってぽたぽた湯船に落ちる。俺にはいっつも湯船に泡を入れるなってうるさいくせにさ。なんだか俺は嬉しくなった。

「えへへえ。」

笑うと、金蝉の険しい顔もわずかに綻ぶ。嬉しいのに鼻の奥がつんとなった。



バイキ●マンは結局、ア●パ●マンのことが大好きなんじゃないかな。何回ぶっ飛ばされても必ず毎回遊びに来るし、ぶん殴られて退散するのに、ちゃんとバイバイって言ってくもんな。
そんな事を考えながら、俺は天ちゃんの部屋へ走った。
天ちゃんに借りたア●パ●マンの本は、今回もうまそうだった。
だけどど●ぶりマンってちょっと気持ち悪いな。なんか脳みそ食わしてるみたい。

勢いよく部屋のドアを開けると、天ちゃんがちょっとびっくりした顔をした。
紙とインクの匂いがする天ちゃんの部屋。その中にケン兄ちゃんもいた。

「ケン兄ちゃん、また来たの?」
「またじゃねえ、まだだ。」

なんだか尖がった声。ケン兄ちゃんは両手に積み上げた本を抱えて、てっぺんの一冊を顎で押さえてる。さも重そうに、腰と膝が曲がってる。

「捲簾は、本の住人達に好かれているようでねえ、本達がなついてくるんですよ。」
「うるせえっ。片づけても片づけても崩れてきやがって。おまえの尻拭い、どうして俺がしなきゃならないんだよ。だいたい、巻き物の上に本を積む奴があるかっ! 俺はもう、金輪際おまえの部屋には遊びに来ないぞっ!」

ケン兄ちゃんが、バイキ●マンみたいなことを言ってる。三日と開けずに遊びに来ちゃうくせにさ。
きっとケン兄ちゃんも天ちゃんのことが大好きなのに違いない。

「それはそうと、悟空、走ってきましたね?」
「うん。」
「なあんだ。金蝉も意外と意気地の無い…。」

どうして俺が走ってくると、金蝉が意気地なしなんだろう。
でも天ちゃんの言うことは時々俺にはよくわからないので、俺はケン兄ちゃんのほうへ向き直った。

「ケン兄ちゃん、頭にホコリ乗ってる。」
「…ちっ、ここに来るといつもこれだ。おりゃあもう帰るぞ。ひとっぷろ浴びて寝る。」
「俺もねえ、昨日、金蝉とフロ入ったんだ!」

ちょっと得意になって報告すると、天ちゃんが身を乗り出してきた。

「一緒にお風呂ですか! いいですねえ。なにか楽しいことありましたか?」
「えーとね、金蝉が髪を洗うのを見るの、俺好きなんだ。」
「髪を洗う…。」
天ちゃんはなぜかがっかりした顔になった。ケン兄ちゃんはきょとんとしてる。

「ヤローの髪洗うのなんか、面白いか?」
「金蝉が髪洗うのって、とってもキレイなんだぞ。」

俺は胸を張った。ケン兄ちゃんは眉間にしわを寄せ、ますます訝しげだ。

「髪洗うのなんかあれだろ? こう、シャンプーをガッとぶっかけて、思い切りよく爪を立てて、一気にガガーッと…。」

ケン兄ちゃんは運んでいた本を下ろすと、自分の頭をかきむしってみせてくれた。だけど金蝉の髪の洗い方とは全然違う。
俺はぶるぶる首を振った。

「違う違う、シャンプーはね、手のひらでちゃんと泡立てて…。」

俺は金蝉のやるように真似してみせた。
自分の長い髪を一掴み、胸の前に持ってくる。
それを合わせた両手で挟み、優しく擦る。
金蝉がやるようにウットリと眼を閉じて、少し首を傾げて。
金蝉の半分くらいでもキレイに見えるといいな。そんな事を思いながら、俺は本当に丁寧に金蝉の真似をした。
それなのに、ケン兄ちゃんてば俺のこと指差してゲハゲハ笑うんだ。

「そ、そんな、毎回そんなか、金蝉のシャンプーはっ!」
「なんだようっ! 乱暴に洗うと、キューチクルが痛むんだぞっ!」
「わははは、言う言う! 金蝉なら絶対言うっ!」

ケン兄ちゃんは、何がおかしいのかお腹を抱えて大ウケだ。
頭に来た俺が、天ちゃんに言いつけようと振り返ると…天ちゃんまで笑ってる。こっちに向けた背中が細かく震えていて、天ちゃんは声を出さずに笑い転げてる。

「…なんだよう…。」

俺は悲しくなった。
俺がみっともないとか言われるのは慣れている。だけど俺の言った言葉で金蝉が笑いものにされてると思うとどうしようもなく情けなくなった。
金蝉は俺の太陽なのに、俺の言葉が金蝉のカチを下げてしまう。

「そんなに笑うなよう。金蝉は…本当にキレイなのに…。」
「ああ、すみません、悟空。おや、なんて顔してるんですか。」

振り返った天ちゃんが、困ったように眉を下げる。だけど、声はまだおかしそうに震えてる。

「…悟空は本当に金蝉が好きなんですねえ。」
「うん。」

返事をすると、今度は天ちゃんは、びっくりした顔になった。それから、ははーんと唸って、おもむろに顎に手をやる。

「金蝉も罪な男ですねえ。悟空にこんな顔をさせて聖人君子を気取って。」
「なんだようっ、金蝉の悪口言うなよっ。いくら天ちゃんでも怒るぞっ。」
「おや、僕は誉めているんですよ。金蝉のクソ真面目っぷりを。」

どう聞いても、誉めているようには聞こえない。
俺が天ちゃんを睨むと、天ちゃんは目尻だけを下げた独特の笑い顔をした。

「それじゃねえ、悟空が金蝉の秘密を教えてくれたお返しに、元帥たる僕が作戦を練ってあげましょう。悟空、まだ気持ちいいこと、金蝉に教えてもらうつもりあります?」
「…うん。」

俺は思わず後ずさった。天ちゃんがしゃがみこんで俺に目線を合わせると、なんか妙に迫力があった。

「君にもできるムーディーと…、そうですね、とりあえず粘膜を教えましょうか。」
「…おい、天蓬。」

黙って聞いてたケン兄ちゃんが、あきれた声を出した。手と首を振って、よせよせの仕種をしてる。
だけどそれを見た天ちゃんはますます張り切ったようだ。

「僕が悟空に教えるのは、ごく常識の範囲のことですよ。それをどう解釈するかは、金蝉次第です。」

自信たっぷりで言う。俺のほうを向いた。なんだか押さえつけるような目つき。

「…楽しみですねえ。」

本当に楽しそうに、天ちゃんはにっこり笑った。



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