「あっ、やべっ。」

悟空は、走り詰めだった足をキュッと止めた。だが、相手は悟空がバタバタ走ってくるのをとっくに気付いていたようで、眉間の皺を深くした。
首から喜捨用の鉢を下げた連雀―托鉢の途中らしい―は、悟空の姿を上から下まで見下ろした。両手の肉まんと、上空を飛びまわるギンヤンマに気付いて、彼は鼻を鳴らした。軽蔑しているように見えて、その実羨ましがっていることも傍目に分かってしまう態度だった。
悟空は深く息を吸った。ここは花街の入り口だ。この辺りをうろついていることが三蔵にばれれば、また小言を言われるに決まっている。だけど同年代の連雀だってここまで踏み込んでいる。簡単に言い付けたりはしないだろう。

「連雀! 托鉢してるとこ?」

声を掛けるには少し勇気が要った。連雀はいつでも悟空には喧嘩腰だ。案の定、とげとげしい言葉が返ってきた。

「寵童はいいよな。遊び暮らしてて食事にありつけて。僕なんかずっと働き詰めで、帰ってからもまだまだ仕事が山ほどあるってのにさ。」

連雀はフンと肩をそびやかした。悟空の両手でまだほのかに湯気を上げている肉まんを、きつく睨み据える。

「うまそうなもの持ってるじゃないか。それにも砂かけてやろうか?」
「なっ…、だめだよ、これは石楠花にやるんだから。」

悟空は慌てて両手を後ろに回し、負けないように連雀を睨み返した。

「連雀、あれだけはやめろよ。」
「あれ? あれってなんだよ。」

連雀の右の眉が嬉しそうに跳ね上がった。何をしてもへっちゃらそうな悟空が初めて拒んでみせている。

「ミミズだよ。飯ん中にミミズ入れたろ。生きてるヤツ。」
「ああ、あれね。」
「可哀相じゃないか。熱いって泣いてたんだぞ。」

連雀は思わずドキンと胸を高鳴らせた。寺の裏の畑で掘り起こした、丸々太ったミミズ。あんまり立派にうねうね動くから、悟空の飯に埋め込んでやったら、彼に悲鳴でも上げさせられるかと思ったのだ。まさか悟空が食っちまうとは思ってなかった。
寺では厳しい戒律がある。殺生を禁じるのもその一つだ。無論あのミミズに関して直接手を下したのは連雀ではない、悟空だ。だが、そう仕向けたのは連雀だ。

「…食い殺したのは、おまえじゃないか。」
「熱くて熱くてたまらない。どうか殺してくれって、あのミミズが言ったんだ。あんな酷いこと、よくできるよな。」

悟空の静かに怒った顔が、連雀の頬を羞恥で赤く染めさせる。悟空ごときに、ただ飯食らいの妖怪ごときに、そんなさげすんだ口をきかれるなんて。

「…お似合いだと思ったんだ。役立たずの妖怪と、役立たずのミミズで。」
「ミミズは役立たずなんかじゃない。ミミズやありんこが土を掘り返してくれるから、土が肥えて立派な植物ができるんだって、悟浄が言ってたぞ。」
「…じゃあおまえはミミズ以下だな。それこそ何の役にも立ちゃしない。」

連雀は吐き捨てるように言うと、その場に悟空を置き去りにして駆け出した。半ばまで満たされた托鉢用の鉢が跳ねて、中身がぐちゃぐちゃになるのもかまっていられない。今まで悟空にしてきた嫌がらせの一つ一つが、全部倍になって連雀自身に跳ね返ってきたようだ。何であんな妖怪に、こんな敗北感を味合わせられなければならないのだろう。
角を曲がって身を隠し、悟空を振り返ると、彼はまだ立ち尽くしている。不思議で不思議でたまらないといった表情だ。あの素っ頓狂な顔を見ていると、大体の考えは読める。きっと俺は俺でミミズはミミズだ。以上も以下もあるもんか…そんなことを思っているのに違いない。

「妖怪の…くせに…。」

連雀は歯噛みした。水仕事で荒れた自分の手を眺め、悟空を物陰から睨み付ける。悟空は子供らしいふくふくした手をしていた。同年代の自分とは待遇がまったく違う。

「お美しくて高潔な三蔵様を一人占めして…。あんな小猿みたいな妖怪が…。」
「妖怪がなんだって?」

いきなり頭上から野太い声が掛けられて、連雀は飛びあがった。小山のような大男が、連雀の背後から、彼の視線の先を見つめている。しばらく悟空を見ていた大男は、ゆっくりと顎をさすった。

「あの金色の目玉、珍しくていいよなあ。ちょっとやそっとぶん殴っても、そうそう簡単にはぶっ壊れそうもない。あの寺の坊主でも手伝ってくれりゃあ、あいつを手に入れることができるんだがなあ。」

わざとらしく言い、連雀を見下ろす。戸惑い顔の連雀に向かって、独り言のような声を上げた。

「俺の小屋のいい出し物になると思うんだ。俺たちはすぐにほかの街へ移るし、そうなればあれも一緒に連れて行く。もう2度とあれも役立たずなんて言われずにすむし、まじめな坊さんをわずらわすこともない。いい手だと思うんだがなあ。」

ごくんとつばを飲み込む連雀に向かって、大男は黄色い歯を剥き出して笑った。目が合うと、背筋が冷たくなる。こんな酷薄な表情を、連雀は初めて見た。
いつのまにか連雀は左手の親指の先を噛み締めていた。貧しくて何もかも思うように行かなかった実家での子供時代、何度止めるように言われても改まらなかった悪癖だ。連雀はそれでいつも左の親指の先に血を滲ませていた。出家して衣食住に足りて、すっかり治ったと思っていた癖が顔を出している。

「…いいだろう。色小姓が肉奴隷になったって、たいして変わりゃしねえと思わねえか?」

連雀は男の言葉に一層指を噛み締めた。



石楠花は、今日も小さなテントの前で蹲っていた。昨日とはまた違う着物を着ている。昨日の着物ほど体にぴったり張り付いてはいないけれども、間違えたかのように襟ぐりが大きくて、背中も大きく開いている。
石楠花は今にもずり落ちそうな肩を何度も神経質に直していた。

「石楠花!」

悟空の明るい声に一瞬顔を上げた石楠花は、また慌てて俯いてしまう。だが、悟空のことは待ち焦がれていたようで、嬉しそうに小さく手を振った。
悟空は石楠花の隣に、体を擦り付けるようにぺたんと座った。俯いてなぜか悟空の方を見ようとしない石楠花の前に、持っていた肉まんを一つ差し出す。

「はい、お土産。八戒が作ってくれたんだ。まだあったかいよ。」

石楠花は、目の前に突きつけられた肉まんを驚いたように眺め、それからコクンと喉を鳴らした。綿菓子を受け取るようにそろそろと肉まんを受け取り、はあっと息をついた。

「ありがとう。すごくお腹空いてたんだ。…昨日から何にも食べてなくて。」
「ふぁんふぇ?」

早くももう片手に持った肉まんを口いっぱいに頬張っていた悟空は、驚いて目を見張った。食べ盛りの悟空には、食事を抜くことなど考えられなかった。今はもう夕方に近い時刻だ。昨日から何も食べてないということは、朝も昼も食べていないということではないか。石楠花はそっと肉まんに食いつき、もそもそとかみ締めた。

「昨日…あんまり上手にお相手ができなくて…、罰で食事抜きなんだ。上手にできるようになるまで、多分、ずっと…。」
「上手にって、何を?」

石楠花は悟空の問いかけには答えずに、またため息をついた。少し背を伸ばし、悟空のほうに向けた横顔だけで笑ってみせる。

「おいしいね、これ。」
「うん、八戒は料理の天才なんだ! 料理だけじゃなくて、細かいことも得意で…、あっと、これ!」

悟空は手に残っていた肉まんを慌ててすべて口の中に放り込むと、絹糸を巻き付けた指を石楠花の前に差し出した。糸に気付いた石楠花はゆっくりと首を上げて上空を見る。糸に括られたギンヤンマは、悠然と弧を描いて、石楠花の頭上を飛びまわっていた。

「これもやる。これは俺が捕まえたんだ。」
「トンボ…。」

石楠花はなぜか声を落とした。彼の喜ぶ顔を想像していた悟空は、少し拍子抜けする。さりとて突き出した指を引っ込めるわけにも行かず、困ったようにそのままの姿勢でもじもじしした。

「…僕、多分明日からここにはいないよ。」
「え?」

突然切り出した石楠花に、悟空は首を傾げる。石楠花はトンボを見上げたまま、暗い目をした。

「山吹がいなくなっちゃったんだ。だから今度は僕の番。僕がここに座っていたのは客寄せのためなんだ。明日からは僕よりもっと若くてキレイな子がここに座る。
一番年上の僕は、一番辛い役目をしなくちゃならない。他の子達はまだみんな小さいからしょうがないんだ。今までも一番大きい子からどんどんいなくなっていった。山吹は、当番が長くて…とっても可哀相だった。いつも泣くかうめくかしていた。今度は僕の番なんだ。」
「え? 当番ってなに?」

悟空はぱちぱちと目をしばたたかせた。石楠花がなにか酷く落ち込んでいることは分かる。だが、石楠花の言っていることはどんな意味だか全然分からない。

「そのトンボ…、放してあげて。」

石楠花の言葉に、悟空は再び目を見張った。石楠花にトンボを拒絶されるとは思っていなかった。

「ちゃんと飛べるのに…、縛り付けられたままじゃ可哀相。…まるで僕みたいだ。」

石楠花は悟空の手を取って、絹糸をするすると解いた。ゆっくりと糸の端を放す。トンボは長く絹糸を引きずったままその辺りを旋回していたが、やがて不意に我が身の自由に気付いたように高度を上げると、あっという間にどこかへ飛び去った。

「…ごめんね、せっかく捕ってくれたのに。」
「ううん、…いいけど。」

悟空は絹糸のまいてあった指を曲げたり伸ばしたりした。なんだか妙に指がすかすかする。石楠花が今日始めて悟空の顔を覗き込み、困ったように首を傾げた。悟空に背けていた反対側の顔が見え、悟空は少し眉を潜めた。

「どうしたの、それ。」
「あ、…これ。」

石楠花は慌てて手を上げた。石楠花の小さくてかわいらしい口元の左端が裂けている。赤黒い腫れも伴っていて、とても痛そうだ。
悟空は石楠花の手元を見下ろした。悟空がとっくに食べ尽くした肉まんを、石楠花はまだ半分ほどしか食べていない。口が痛くて大きく開けられなかったからに違いない。悟空の心配そうな目にほだされるように、石楠花は重い口を開いた。

「これは…、昨日のお客さんが乱暴で…。」
「! お仕事で、そんなんなっちゃうの?」
「…うん…。」

まだなにか言いたそうな石楠花の肩に手を置いて、悟空は伸び上がった。悟空の顔が大きく近付いてきて、思わず石楠花は息を呑んだ。
目を瞑った悟空の、意外に長いくるんと丸まった睫が頬をくすぐり、そのくすぐったさに身を引きかけると、あったかいものが唇に押し当てられた。悟空が傷を嘗めているのだ。呆然とする石楠花の頭を抱くように抱え、悟空はぺろぺろと舌を動かした。
引きつって強ばっていた傷口が、悟空の優しい体温と唾液とで解されていく。ようやく悟空が離れてくれたとき、石楠花は頬を赤らめて、ためらうように後ずさった。柔らかくて優しい舌の感触が、いつまでも唇に残っている。

「な…何したの、今…。」
「早く痛くなくなるように、おまじない。」

屈託なく微笑まれて、石楠花はかえって言葉を失う。

「八戒なんかはさあ、俺が怪我すると薬もって追っかけて来るけど、こうやってツバつけとくのが、結局いっちゃん早く治るんだぜ。」

悟空は得意げに言い、はみ出させた舌をぴこぴこ動かす。それからにっと笑った。

「だけど、…エヘヘ、肉まんの味がした。」
「く…唇は簡単に許しちゃいけないんだぞ。カラダ許したって…。」
「ん? なにそれ?」

悟空はきょとんと目を見張るばかりだ。



二人のたわいない会話を、物陰から大男はにたにたと笑いながら聞いている。

「…へっ、素質十分じゃねえか。」

大男は満足そうに呟くと、懐の連雀の肩をぽんぽんと叩いた。肩を抱くように抱えられた連雀は、ぎりぎりと指先をかみ締めながら、じっと悟空を凝視していた。
男はついと手を伸ばして、空をさまよってきた絹糸を掴む。勢いよく引き降ろすと、糸に括られたままのトンボは、半分に千切られそうな勢いで連雀の目の前まで降りてくる。

「石楠花の奴、分かってるんじゃないか。僕みたいで可哀相…か。」

男の喉がくくくと嬉しそうに鳴る。連雀の目の前で、無造作にトンボを掴んだ。

「だが、縛り付けるだけじゃ、こんな風に逃げ出さないとも限らない。」

男の無骨な手が、トンボの透き通った綺麗な羽をむんずと掴む。頭部をぐりぐり回すトンボは、必死に抗っているように見えた。

「活きのいい奴は、ちゃあんとこうして羽根を毟っておかないとな。」

ぷち、とかすかな音がした。羽根を毟られたトンボが地面で弱々しく足掻いている。男の手から、綺麗な羽根がはらはらと舞った。

「どうだい、俺たちのすることは万全だろう?」

連雀は、じっとトンボを見下ろした。瀕死のトンボはそれでもようやく体を起こし、もぞもぞと連雀の足元から逃げ出そうとしている。連雀は片足を上げた。心が決まるともう躊躇はなかった。そのまますとんと足をトンボの上に下ろす。薄い草鞋を通して、小さな生き物が潰れる感触が心地よく伝わってきた。

「あれの名前は、今日から…そうだな、日向葵だ。」

ヒュウガアオイ…ひまわりか。あいつにはぴったりな名前だ。連雀はにやりと笑った。



日が暮れてきた。悟空は赤く染まり出した空をそわそわと見上げた。もうそろそろ寺に帰らなくては。だが、もう会えないかもしれないという石楠花ともっと話していたい。

「悟空、…もう帰らないといけないんじゃないの。…いいんだよ、帰っても…。」

石楠花が消え入りそうな声で言う。帰っていいと言いながら、潤んだ瞳は何より雄弁に悟空に向かって帰らないで欲しいと訴えている。

「うん、…きっと、もうちょっとは、大丈夫。」

一言一言区切るようにして、自分に言い聞かすように言う。寺の大門を閉められたって、よじ登って入ればいい。三蔵に怒られるのは…いつものことだ。今日は石楠花が帰るまでここにいよう。そう決めたとき、目の前に見慣れた僧衣が立った。

「悟空。」
「…連雀?」

悟空は思わず不思議そうな声を出していた。
こんな時間にまだ連雀がこんなところをうろついているとは思わなかった。連雀はもうとっくに寺に帰って、夕方のオツトメをしていなくてはいけない頃だ。そんな悟空の思いを証明するかの様に、寺の鐘の音が響いてくる。

「三蔵様からの伝言を持ってきたんだ。」
「三蔵から?」

嬉しそうに答える悟空を見つめ返しながら、連雀は静かに笑った。悟空はその連雀の笑顔を見て、なんだか薄ら寒くなる。連雀はいつもより顔が青白くて、目が血走っている。どこも見ていないような瞳が妙に不気味だ。

「今日は遅くなるから、お前も遅くなっていいって。門が閉まっちゃったら、帰りは明日でもいいって。好きな所に泊まれって。」
「ほんと!?」

いつも口うるさい三蔵が、そんなことを言うなんて信じられない。悟空の素っ頓狂な顔を見て、連雀は更に薄く笑った。

「それから、その新しい友達に、自分の身の振り方をよーく教えてもらえって。役立たずはいらないって。」
「…え?」

一瞬、言われたことの意味が分からなかった。三蔵が本当にそんなことを言ったのだろうか。
確かに悟空は寺では何の役にも立っていない。自分の身でできることを果たすまで、寺に帰ってはいけないのだろうか。
悟空が問い返すまもなく、連雀は踵を返した。すたすたと立ち去る後ろ姿を、悟空はただ呆然と見送った。

「どういう意味? …帰ってくるなって聞こえたんだけど。」
「…うん。」

短い石楠花の答えから察するに、彼にもそう聞こえたらしい。悟空は困ってしまって俯いた。
おやつにあんなに大きな肉まんを2つも平らげたのに、悟空の健啖な腹はもうくうくうと音を立てている。お腹が空いているからこんなに切ないんだ。悟空は無理にそう思おうとした。
ギュッと目をつむると、いつもどおりの不機嫌そうな三蔵の顔が浮かぶ。胸の中で小さく、三蔵、と呼びかけてみる。三蔵の言う、身の振り方って何だろう。

隣に座っていた石楠花が、ピクンと体を震わせた。影が差し掛かって悟空が顔を上げると、昨日の大男がにやつきながら立っていた。

「よう、話は聞いたぜ。お前、引導渡されたみたいだなあ。」
「引導…?」
「俺がお前を雇ってやろうか?」

石楠花がはっと息を呑む。悟空は言われていることの意味が分からずに、ぼんやりと男を見上げた。

「役立たずはいらないって言われたんだろう? お前が立派にその体で稼げれば、誰も文句は言わないさ。」
「体で稼ぐ…? 力仕事の事?」
「だ、だめだよ、悟空。」
「石楠花。」

男の冷たい声に、石楠花は体を強張らせた。

「…山吹のお得意様がなあ、代わりを御所望なんだ。お前、そっちにするか? 次は団体様でお越しだと。」

石楠花の顔から血の気が引いた。哀れなほどに縮こまり、細かく震えている。

「こいつには、山吹の代わりをしてもらおうと思ってる。お前よりよほど頑丈そうだし、何より活きがいい。山吹の代わりは特別暴れてくれなくちゃ面白くないからなあ。」

石楠花がそっと悟空の顔を盗み見た。脅えた色の瞳の中に、逡巡がちらつく。悟空は男のほうを見た。

「それで、俺は誰かの役に立つの?」
「ごく…っ。」
「おうよ、少なくとも石楠花は大喜びだ。なあ、石楠花。」

叫びかけた石楠花を遮り、男は彼の頭に手をやった。太い指を立ててぎりぎりと頭を撫でる。石楠花が小さくうめいた。明らかにその動作は石楠花の口封じだった。

「そうと決まれば、とりあえず腹ごしらえか。…石楠花、お前も特別にご馳走を食わせてやる。いい子を引っかけてくれた礼だ。」

男は石楠花を抱き上げ、悟空の片腕を掴んだ。男の力が強くて、悟空は思わず顔を顰める。そんなに力一杯掴まなくても逃げやしないのに。
悟空が男を睨み付けると、男は肉厚な唇をべろりと嘗め回した。

「鼻っぱしの強そうな、いい顔だ。」

さも嬉しそうに、男は喉の奥で笑った。



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