第五話


輿が止まると、御簾が上げられた。煌びやかな袈裟の僧が覗き込む。

「間もなく到着いたします。その…精霊様のお加減は如何ですか。」
「大事無い。案ずるな。」

俺の言葉を端から聞く気のない態度で、その僧は俺の膝の上の悟空を覗き込む。ごくりと喉が動いて、僧がつばを飲み込んだのが分かった。俺の膝の上には素っ裸の悟空が乗っている。俺はこの大地の精霊の正体がただの少年に過ぎない事を、この旅の間に、寺全体の僧に知らしめるつもりだ。
衣類の代わりというよりは、暖を取らせるために僅かばかり巻き付けた錦は、輿が動き出すとすぐ俺の手によって引っぺがされた。だが、手足と、途中で粗相したりする事のないように、悟空自身をがんじがらめに縛り上げてあるため、悟空には自分の裸身をどう庇う事もできない。今、この瞬間のように、物見高い僧が皿のような目で悟空の先走りに濡れた屹立を凝視していても、彼は身を捩る程度しか抵抗する事ができないのだ。
無粋なわめき声を聞きたくないから、口には呼吸を阻害しない、穴の空いた玉を結び付けた猿轡をしっかり噛ませてある。それがひっきりなしにふうふう音を立てて、俺を楽しませている。そして更に、悟空の尻には小さなローターを挿入してあって、常にそれが悟空をからかっている。

輿をあつらえたのは何年ぶりだろう。久しぶりで西安を離れる旅に、僧たちは悟空を同行させるためにこれを用意した。三蔵の冠を被せられたときに詰め込まれた輿は乗り心地が最悪だった。窮屈な場所に押し込められて揺られているのは、一通りの苦痛ではなかった。だから俺は今まで、どんなに遠い旅も、歩くかせいぜい馬を用意させるにとどまっていたのだ。だが、この明け透けな密室は、悟空の立場をほのめかすには最適ではないか。

僧はまだ悟空の辛そうな顔を覗き込んでいる。ふと悪戯をしたくなった。

「んっ、んん…っ!」

小さな声を上げて、悟空がぴくんと震えた。見開かれた大きな瞳には、見る見る涙が滲んでくる。俺はさりげなく手を上げて、そこから悟空へとつながっているコントローラーの小さな機械を僧に示した。俺がそれを操作して、ローターを激しい動きにしたのが彼に良く分かるように。悟空は懇願するように俺の胸に顔を擦りつけた。揃えられた爪先が強ばって空を掻く。涙を流すみたいに、先走りがとろりと流れた。

「さ、三蔵様…。」
「可愛いものだろう?」

俺は悟空の股間に手を伸ばした。屹立したものを指先でなで上げ、なで下ろすと、その度に膝の上の体がびくびくと震える。猿轡にはまった玉ががりがり鳴っている。悟空が歯を立てているのだ。

あまりからかって玉をかみ割られても困る。俺はローターの動きを弱く戻した。たちまち、固く反り返っていた悟空の体がぐったりとしなだれかかってくる。悟空は俺の胸に顔を埋めると、くんくんと子犬みたいに鼻を鳴らした。あまりしつこく苛めているので、すでに熱く火照った頭は理性的には働かないらしい。俺は悟空を苛めて粘った指で赤く尖った乳首を抓んだ。くふんと、悟空が拒むように鼻を鳴らす。

「…私どもは、三蔵様のお連れになったのは、聖なる大地の精だと思っていました。」

舌が張り付いたような強ばった口調で、僧が呟く。僧の背中に斜めに遮られた空は今日も真っ青で雲一つ見えない。俺は、僧たちが悟空に期待しているものを気付くのに、後れを取ってしまった。こんな四角張った僧たちが、妖怪とも精霊とも知れぬ子供に、そんなに色めきたって食事だの旅の支度だの、整えるはずがなかったのだ。

「大地の精には間違いない。だが、これは見てのとおりただの子供だ。聖なるは余計だな。」

膝の上の悟空が身じろぐ。一息ついて、羞恥心が沸き上がってきたのだろう。しきりに身もがき、僧の視線を意識するしぐさを見せる。俺は苛立ちを感じた。

「早く出せ。暑い。」

不機嫌に唸ると、僧は仕方なく御簾を降ろした。



到着の挨拶や手続き、雑多な用事に3時間ほどかかった。

あてがわれた部屋に戻ると、悟空がベッドの上で尺取虫みたいに体を屈めてすすり泣いていた。俺はわざと焦らすように、悟空の姿を遠巻きに眺めた。今朝は輿で揺られる事6時間、都合9時間余り、悟空はこの窮屈な姿勢を強いられている。すすり泣きの一つや二つ漏れて当然だろう。

「ん……、んぐ…ん。」

猿轡の奥から、小さな声が漏れる。悟空は首を捻じ曲げると、必死に俺を睨んだ。ひっきりなしに涙の溢れる瞳で睨まれても可愛いだけだ。このところ、悟空はいい目をするようになった。拾ってきた当初の、死んだみたいな目とは雲泥の差だ。

「俺のいない間、いい子にして待っていられたか?」

ゆっくり懐から赤マルを出して火を付ける。悟空が催促するように、呻きながら尻を振った。きれいな丸い尻の狭間から尻尾みたいに長く伸びているコードの奥で、途切れる事なく機械音が鳴っている。今こうしている間にも、悟空の中はずくずくと掻き回されて、真っ赤に熟れているだろう。俺はコントローラーを手にした。わざと悟空に届くところに放置したそれだ。だがもちろん触られた形跡はない。悟空の両手は後ろ手に、足は膝と足首の2個所で厳重に縛り上げてあり、口さえ塞いであるからだ。

「なんだ、楽しまなかったのか? せっかく届くところに置いてやったのに。」

からかうように言うと、悟空の目に恐怖の色が混じる。同じくぎゅうぎゅうに縛り上げた悟空自身は、放出されない熱を抱えて、千切れるように痛むだろう。この上更に、中のローターを激しく動かされるのは酷い苦痛のはずだ。

だが俺は容赦しない。

指先にほんの少し力を込めた。それだけで、機械音が大きくなり、悟空のしなやかな背中がのけぞる。俺は吸い差しの赤マルを慌ててもみ消した。もう煙草どころではない。俺だって9時間がたずっと我慢をしてきたのだ。

「どうだ…、いいんだろう?」

だらだらと透明な粘液を垂らす屹立を、ぞろりと舐めあげる。先端を舌先でこじ開けると、滑らかな腹までもひくひくとのたうった。纏めたままの膝を、肩の上に担ぎ上げ、コードを生やした穴に、中指を突っ込んだ。肩の上でびくりと跳ねる体をそのままに、指先を鉤状に曲げる。指の腹にぶるぶると震える、温まりきったローターが乗った。それを悟空の柔らかい内部に押し付けると、涙混じりの悲鳴が聞こえた。

囀りが直に聞きたくて、猿轡をむしるようにはずしてやる。頬にくっきりと皮のベルトの跡が食い込んでいる。玉の穴からは、悟空の唾液が糸をひいて流れ落ちた。

「う…あ…。」

穴があいているとは言っても、やはり呼吸をするには不十分だったようで、悟空は肩で息をした。俺は指を引き抜くと、代わりにコードを握った。

「かわいい声で鳴いて見せろよ。」

引き抜けない程度にコードを引っ張る。そのたびに震える尻が可愛くて、ついでにそのコードでピシリと尻を打ってやった。桃色に染まった肌に、赤い線が増えていく。

「も…やめてぇ。」

真っ先にもれた言葉は哀願だった。

「取ってよぅ…、お願いだから…。」
「いいだろう。だがひとつだけだ。どこを取って欲しい?」

俺は悟空の足を抱えなおし、もう一度指を突っ込み舐めあげた。とろとろにとろけた先端に、わざと音を立てて吸い付くと、悟空が高い声をあげる。深く差し込んだ指を、内壁が締め上げる。熱い襞が蠕動して、絡みついてくるようだ。この調子なら、ローターを抜いてやる必要はないかもしれない。

「前! もう出させて! おね…あっ!」
「初めてのころは一滴流れるだけでも死にそうに恥ずかしがったのに、出させてとはな。」

俺は悟空自身を縛り上げている紐に手をやった。かわいらしく根元で蝶結びにしたのは、一引きで戒めが外せるためだった。だが悟空の滴りが多すぎて、紐は思ったようにすんなりとは解けない。

「やぁ…っ、意地悪しないでよ…っ。」
「そんなつもりはないがな。」

確かにそんなつもりはないが、焦燥感に俺に局部を擦り付けてくる悟空が可愛くて、俺は慎重になった。最後の一巻きを外してしまうのが、もったいないような気さえした。

最後の戒めを解く前に、俺は悟空を深く咥えた。ローターを飲み込んだままのそこにも、2本の指が楽に入る。悟空は蕩けきり、待ちわびている。紐を取ってやりながら、中の指をローターに強く押し当てた。同時に口を窄めて、吸い出すように刺激してやる。

「きゃあん…っ。」

腕の中にまとめたままの悟空の足が、高く跳ねた。

一瞬大きく膨れ上がった悟空から、奔流が放たれる。俺はその勢いと多さに軽く咳き込みながら、思わず舌なめずりをした。男を覚えて熟れ切った、まろやかな味がする。

「あ…あ、は…。」

陸に上げた魚みたいに白い腹をひくつかせて、悟空はぐたりと脱力する。俺は余裕ない動作で悟空の両足を押し上げた。尻が天井を向くと、俺の意図に気付いた悟空がはっと身を強ばらせる。

「やっ、だめっ、まだ中に…入ってるのに…っ。」
「だからいいんじゃねえか。このローターと一緒に俺をぶち込んで、中で思い切り震わせてやるぜ。おまえも俺も、うんと良い目が見られるだろうさ。」
「やだあ…っ、そんなの無理…っ。」

悟空が抗えば抗うだけ俺は猛る。拒絶がまったく受け入れられないのを悟った悟空は、声の調子を僅かに変えた。

「せ、せめて、足を解いて…っ。お願いだから…っ。こんなんじゃ、三蔵の…。」

息を呑むように言葉を切って、悟空は目を逸らした。片手だけで苦労しながら前をはだけていた俺は、法衣を脱ぎ掛けた間抜けな姿のまま、思わず悟空を凝視していた。

三蔵の…その先は何だと言うのだ。

なんだか酷く甘い睦言を聞いた気がする。

「俺の…なんだよ。言えよ。」
「…………三蔵の、顔が、見えない。」

蚊の泣くような声で、それでも確かに悟空はそう言った。なぜ俺の顔が見たいのだ。悟空にとって俺は、ただの憎い男に過ぎないだろうに。

俺は動揺していた。聞く事のできないはずの言葉だった。

甘い感傷に身を委ねて、流されてもいいのだろうか。俺は悟空には決して聞かせられない言葉なら、いくつでも持っている。

「それは………どういう意味だ。」

声が滑稽なほどに掠れている。首を捻じ曲げた悟空は、俺の声が届かないようにぎゅっと目をつぶっている。悟空の次の言葉が聞けないのは、俺にとっては幸いだったかもしれない。それが俺の望むものにしろそうでないにしろ、俺は酷く取り乱すに決まっている。

「…いいだろう、望むように…してやろう。」

俺は震える手で、悟空の足を縛る紐を解いた。簡単には抜け出せないようにがんじがらめにしておいたから、血の巡りの悪い色に染まった足は、痺れて動かしづらいようだった。俺はその華奢な足を思い切り左右に開き、その間に体を乗り上げた。悟空の言うように、俺の顔が嘗め回せるほど近くに見える位置まで。

「オラ、望むようにしてやったぜ。」

きれいな黄金の瞳を覗きたくて、俺は悟空の頬に片手を這わせる。長い睫がゆっくり上がって、潤んだ瞳が俺を捕らえた。きれいに色づいた唇が、俺を誘うように開く。悟空の唇が欲しい。だが、悟空は決してそれを許しはしないだろう。

「三蔵は…何でも思い通りじゃんか。」

不意に呟くような言葉が漏れた。緩く瞳を瞬くと、限界まで盛り上がっていた涙が一滴、頬を伝った。

「俺のことだけじゃない。何だって、思い通りにできるじゃないか。あんなに大勢にかしずかれて、みんなを顎で使って。それなのに…、何でそんな絶望したみたいな目をするんだよ。」

俺は息を呑んだ。見透かされている。こんな仔ザルに。誰にも覗かせる事のなかった俺の心の奥まで、この仔ザルは見通していると言うのか。

「俺は…、俺が見たいのはそんなんじゃない。本当の三蔵を見せろよ!」
「…るせえ。」

俺は奥歯を噛み締めた。ここで何もかも暴露して、ガキみたいにこの小さな胸に縋りつけたらどんなにいいだろう。

俺はまだ、悟空に本当の俺を見せるわけには行かない。

表情を殺すために、ぎゅっと奥歯をかみ締めた。思いがけない悟空の言葉にうなだれかけていた俺自身は、きついほどに握り締めるとすぐに勢いを取り戻した。

性急に弄ると、俺の険しい顔に怖気づいたように、悟空が身体を固くした。構わずに、そのまま一息に突き入れた。

「やあっ、無理…っ、うああっ。」
「く…っ、きつい…っ。」

小指ほどの大きさのローターとはいえ、狭い悟空の中に同時に突っ込むのはやはり難しかった。痛みと強すぎる異物感に閉じそうになる悟空の両足をこじ開け、押し開いて、俺は無理やり侵入を果たした。俺の隣にローターが密着している。俺は手探りでコントローラーを探り当て、ローターの動きを最強にセットした。

「ひゃああぁぁ!」

ローターが暴れ狂っている。一瞬、腹の上に俺を乗せたままの悟空が、俺ごと身体をのけぞらした。ローターの、予想よりずっと激しい動きに先端の縊れ部分を刺激され、俺は無様にも、入れただけで達しそうになる。覚えのない感覚に、俺自身の硬度も反り返りも、いつもより、だいぶ強い。

俺は刺激の強さに目がくらみそうになりながら腰を引いた。いっしょにローターが抜け落ちたりしないように十分留意しながら、また深く突き入れる。

「あぁっ、…や…、やぁ…っ、ひっ、ひ…いっ。」

悲鳴の形に開かれた悟空の口の端から唾液が滴り落ちる。一突きごとに痙攣にも似た体の震えは大きくなるが、同時に悟空の悦びも感じられる。火傷しそうに熱い悟空の中が、うねるように動いて俺に絡みついてくるのだ。絡み付いて俺を取り込んで、もっともっとと声にならない声で俺を搾り取ろうとする。白い太ももがぶるぶる震えて、触れていない悟空自身から白濁が迸った。腹から胸まで白く汚して、悟空は喘いで俺を誘う。

「あ、あ、…はぁっ、…ああ…んっ。」
「この…淫乱ザル…。」

自分でそう仕込んだくせに、悦びもだえる悟空の痴態がいまいましい。こんな風に男に組し抱かれて狂うように仕込むことが本当に悟空の為になるのだろうか。俺の存在がかけた後にも、悟空はうまくこの世を渡っていけるのだろうか。

俺はこんなところにまで悟空を連れてくるつもりはなかった。日照りがこんなに続かなければ、もっと緩やかに、俺だけにすがり付く愛しいおもちゃに悟空を仕込んでもよかったのだ。

「あぁ…っ、もう…、あっ、あああ…っ!」

悟空の中のローターが俺の先端に引っかかった。内部を強く抉られて、悟空が思い切り背中をのけぞらす。俺を締め付け、絡みつく熱い襞が急速に俺を締め上げる。

「うぅっ!」

俺はうめくと、悟空の中に熱いものを叩きつけた。

「ひゃあ…っ!」

悟空は高い悲鳴をあげた。滑らかな腹が大きく反り返って全身の震えを俺に見せつける。不意にその四肢が弛緩した。軽い音を立てて寝具の上に伸びてしまった身体からは意思は感じられない。だから俺は油断した。てっきり悟空が失神したと思ったのだ。

すっかり上がってしまった息を抑えつけながら、悟空の中から離れる。一緒に出てきたローターがシーツの上を転がると、鮮やかなピンクの筋がついた。暖かい悟空の中から放り出されたというのに、まだ未練がましくモーター音を響かせながら醜く蠕動している。まるで俺のようだ。俺はため息をついて、そのピンクの筋をぼんやり見た。乱暴にして、また出血させてしまったらしい。

「こうでもしなきゃ、おまえは逃げ出してしまうかもしれない。ここは札も閂もないからな。」

罪悪感をなだめるように独り言がもれる。俺にだって、こんな行為が悟空の身体に過分な負担をかけてしまうことはわかっているのだ。

「俺はこんなところにまでお前を連れてくるつもりはなかった。」
「じゃあ…、何で連れてきたんだよ…。」

突然掠れた声に切り返されて、俺はびくんと肩を竦めた。潤んだ黄金の瞳が、俺を静かに見据えていた。

「俺…、何にも悪いことしてない。なのになんで、三蔵は俺をこんな目にばっかり合わせるんだよ…。」

言葉を重ねたことで我慢できなくなったのか、大きな瞳から、ひっきりなしに涙があふれて流れる。俺は言葉を無くしていた。悟空には俺の弱みは決して見せてはならなかったのだ。俺の本心を悟られれば、俺は自分の気持ちに嘘をつきとおしてはいられなくなる。

それなのに、こんなところで馬脚を露してしまった。

「答えてもくれねえのか…。」

悟空の声が沈む。なぜこいつは涙を零すのだろう。いつだって俺には敵意をむき出しに噛み付いてばかりいたのに。

「僕たちが教えてあげましょうか♪」

いきなり明るい声が響いた。俺は驚いて振り返る。開け放たれた戸口に、二人の男たちが楽しそうに立っていた。 



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