「いいよ。一人で入れるってば。」
「なりません。三蔵様がお留守なのですから、私がしっかりお世話させていただきます。」

おっさんはなんだか鼻息を荒くして、俺の後にくっついて来た。綺麗に畳まれた木綿の着物を俺に突きつける。
どうして風呂に入るのにこんな着物を着ないといけないんだろう。風呂は真っ裸で入るもんだ。だけどおっさんは頑として譲らない。
大きな浴槽がもうもうと噴き上げる湯気に、僧衣を着たままのおっさんの剃り上げた頭がぶつぶつと汗を吹き出すのを見ていられなくて、俺はしぶしぶそれに袖を通した。

「なあ、なんでこんなの着なくちゃいけないわけ?」
「私どもは、お前様にはあまり触れない方がいいからです。」

湯船に逃げ込んだ俺を追っかけるように、おっさんは洗い場で仁王立ちになっている。両腕は襷がけで、ぬか袋をしっかり握り締めている。どうやらあれで、俺を磨き上げるつもりらしい。
俺は無駄と知りつつも、お湯ににもぐって姿を隠してみた。膝丈の短い物とは言え、やっぱり着物が纏いついてじゃまくさい。

「そろそろいいでしょう。お上がりなさい。清めて差し上げますから。」

いらいらした口調に、俺は諦めて湯船から上がった。着物が肌に張りついて気持ち悪い。余計なおふざけをした為に、濡れた長い髪までが全身に纏いついて、俺は酷く窮屈な思いを味わった。

おっさんが浴槽の縁に腰掛けた俺の足元に蹲って、しつこいくらい丁寧に俺の足を洗っている。裸足で駆け回るから、爪の間に入り込んだ泥が、どうにも気に入らないらしい。
俺は片足をおっさんに取られた格好で、所在無くおっさんの青い頭を眺めていた。

「こんなに酷く擦りむいてしまって…。」

おっさんは俺の膝を見て、顔を顰めた。

「三蔵様がなんとおっしゃることか。」
「三蔵は、俺がちょっぴり擦りむいたくらいで心配なんかしないよ。」
「そんな事はないでしょう。せっかくの触りごこちに、難が残る。」
「触りごこち…?」

ふと嫌な予感がした。おっさんの視点は、俺とどこか違う。

「ところで、悟空殿。」

おっさんはエヘンと咳払いをした。

「お役目はちゃんと果たされていなさるのか?」
「お役目って?」
「お前様の、稚児としてのお役目だ。最近、…声が聞こえないようだが。」
「チゴ? 声?」

俺に役目があるなんて知らなかった。チゴってなんだろう。三蔵にはいつでも、お前は煩すぎるってハリセンでどつかれているのに、俺の大声はこのおっさんには聞こえないのだろうか。

俺の不思議そうな顔を見上げて、みるみるおっさんの表情が険しくなる。おっさんはいきなり立ち上がった。今度は俺の頭上から、俺を威嚇するように睨み付ける。

「まさかとは思うが、あれから1度も…。」
「だから、チゴってなにってば?」
「三蔵様を、お前様のその体でお慰めする役目のことだ!」

体で慰める? 不意に俺の頭に、数週間前の三蔵の寝室での出来事が蘇った。
三蔵は動けない俺を押さえつけて、俺を意のままに組み敷いた。三蔵が俺を脅し付ける声が、今でも耳に残っている。

思わず立ち上がった俺の腕を、おっさんは力一杯握った。ぐりっと後ろ向きにされる。次の瞬間、信じられない事が起こった。

「ぎゃんっ!」

俺は尻尾を踏んづけられた犬みたいに飛び上がった。おっさんがいきなりぶっとい指を俺のお尻に突きたてたのだ。
俺はお尻を押さえて飛びすさった。まだそこがひりひりする。泣きたくもないのに、涙がかってに湧きあがってきた。

「固い…。信じられん。」
「信じられないのはこっちだよ!」

俺は喚いていた。なんて不躾なおっさんだ。だが、おっさんは俺の言葉に逆上したようだった。

「お前がそんなだから、三蔵様のご機嫌が悪いのだ!」

風呂場中がびりびり震えるような大声だった。頭上から浴びせられる胴間声に俺は一瞬たじろいだ。

「毎日毎日遊び歩いておって。稚児なら稚児らしく、張方でも咥えて慣らしておけ。稚児としての役目も果たせぬお前なぞ、何の価値もない。お前は、三蔵様の物なのだから。」
「俺は…物じゃない。」

やっと言葉を繋いだ。俺の胸に刺さった三蔵の光の髪がシャリシャリ鳴る。カタカタカタと、いつもの音が小さく聞こえる。

「物じゃないだと? 生意気な。三蔵様のお情けがあった身だと思うからこそこうして私も跪くのだ。三蔵様の御威光を被らぬ貴様など、触るだに汚らわしい。」

おっさんは、俺の体中を擦っていたぬか袋を、忌々しそうに投げつけた。
俺は濡れそぼった哀れな姿のまま、突っ立って震えていた。別に寒かったわけじゃない。なんだかどうしようもなく心細くて不安で、どうしていいか分からなくなったのだ。
おっさんは俺の事を気に掛けてくれているのじゃなかった。俺の後ろの三蔵の影を追っかけて、それにひれ伏していただけだったのだ。そんな事、とっくに分かっていたはずなのに。俺は自分の甘ったれぶりに、歯噛みする思いだった。

「………待てよ。」

おっさんがしかめっ面をほんの少し緩めた。

「…三蔵法師様は慈悲深いお方。こんな貧弱な妖怪といえども、傷つけるに忍びなかったに違いない。だが、一旦お情けを掛けられた物を、手放すにも忍びなかったのだろう。どういうわけか、三蔵様はこいつにご執心だ。ならばこれを具合良くするのも、侍従たる私の勤めか…。」

おっさんの目がぎらりと光った。嫌悪を露にしているくせに、どこかしら喜んでいるような歪んだ笑み。

「こっちに来い、悟空。今夜からでも同衾できるように、私が慣らしてやろう。」

太い指が迫ってくる。俺は身の危険を感じた。

「さあ来い。三蔵様の御為だ。」

三蔵の名前を出された途端、頭に血が上った。

俺の三蔵の名前を語ってそんな醜い顔をするな。三蔵はそんな悪巧みに使われるほど安っぽくない。

「三蔵を馬鹿にするなーっ!」

ゴギュルッ!

「おうっ!」

思いっきり蹴り上げた足が、おっさんの股間にヒットした。不気味な感触が伝わってくる。

俺の鋭い蹴りに、一瞬おっさんの体が宙に浮いた。白目を剥いて、体中の空気が飛び出してしまったみたいに頬を膨らませる。
着地したおっさんは顔色を青緑に染めた。それからザーッと真っ白になる。

泡を吹いて悶絶したおっさんには目もくれず、俺は薄っぺらい着物1枚で、寺院を飛び出した。無様にひっくり返って爪先をぴくぴく震わすおっさんも少しは気になったが、居たたまれなくて、身の置き所のないような気分になったのだ。



一度は三蔵の後を追いかけたものの、俺はやっぱり三蔵の懐に掛け込む気にはなれなかった。
きっちりよそ行きの法衣を着込んでしゃなりしゃなりと行列させられる三蔵には、きっと俺が1日駆けとおせば追いつけるはずだ。だけど、追いついた所で何をどう訴えたらいいのだろう。正直に話せば、自分が惨めになるだけだ。
山道の真ん中に、行き場をなくして突っ立つ俺が逃げ込む先はたった一つしかなかった。



質素な木目の浮いた扉を、俺は散々迷った末にそっと叩いた。誰に聞かれなくてもいい。返事がないならそれでも構わなかった。

「はあい。」

だけど、俺の迷う気持ちをあっさり無視するように、扉は簡単に開かれた。暖かい色の部屋の明かりが、俺を照らしだす。ことさらに眩しく感じて、俺は目を細めた。

「おや、どうしたんです悟空、その格好は。」
「八戒…。」
「お猿ちゃん? どうしたのよ、今頃。」

八戒の背後から、彼を抱きかかえるような格好で、悟浄が顔を出す。今にも八戒にしがみつきそうになっていた俺は、慌てて足を止めた。逆光に立った悟浄の、裸の上半身が嫌でも目に入る。

もう俺には、悟浄と八戒が一緒に住んでいる事の本当の意味が分かっていた。
たった一つしかないベッドが目に入ると、胸が苦しいくらいにドキドキいった。ここにもやっぱり俺の居場所はない。
だけど、八戒の柔らかい声を聞いてしまった後では、俺の足は強硬に引き返す事を拒んでいた。

「ずぶ濡れじゃないですか。悟空、とにかく入って。」

あちこち走り回ってきたから、着物や髪から水滴がぼたぼたひっきりなしに垂れることはもうない。だが、水分までは完全には落ちきれず、全身に纏いついた髪や着物は、俺を凍えさせていた。
八戒は暖かい手で優しく、でも強引に俺の肩を掴んで、部屋の中に引き入れた。部屋の中はほんわりと暖かくて、足を踏み入れると鼻がむずむずした。

「三蔵は出かけたはずでしょう。なにかあったんですか?」

大きなタオルで俺をくるみ込んで、八戒は俺の顔を覗き込んだ。

「………黙ってちゃわからねえだろうがよ、お猿ちゃん。」

からかうような悟浄の声。いつもの俺ならここで腹を立てる所だけど、この時はいつもと変わらない悟浄の声に、なんだかとてもほっとした。

「…固いって…。」
「え?」

八戒が不思議そうに首を傾げる。

「俺が固いから、三蔵が怒るんだって…言われた。」
「何の事ですか?」
「俺のが硬けりゃ、八戒は悦んじゃうんだけどな…げふ。」

茶々を入れかけた悟浄は、八戒の痛烈な肘鉄をみぞおちに食らって丸まった。八戒は俺に向けた優しい笑顔を一瞬たりとも崩す事なく、俺の濡れた髪を拭った。

「ちゃんと話してごらんなさい。僕で良かったら相談に乗りますから。」
「役目が果たせてないって…俺…、ひ…っ、へあ…。」

二人のいつもと変わらない穏やかな空気が俺を包み込むと、急に俺は寒さを感じた。大きなくしゃみが続けて3つも出てしまう。
八戒は慌てた顔になって、俺を急いで暖かい部屋の真中まで抱き寄せた。



濡れた着物を脱いで、悟浄の大きな服を貸してもらい、髪をすっかり乾かしてもらった。大きなマグにいっぱいのホットミルクを入れてもらって、俺はやっとあったまってため息を付いた。
八戒は不満そうに、やっぱり風呂場は必要だとかなんとかブツブツ言っている。見回すと、悟浄の姿が見当たらなかった。

「なあ、八戒、悟浄は?」
「買い物に出しました。帰ってきたらうんとご馳走を作りますから、今夜はたんと食べて泊まっておいきなさい。あなたに風邪なんか引かせたら、三蔵が煩くて大変だ。それに、…悟浄がいない方が、いいでしょう?」

八戒は穏やかに笑うと、俺の顔を覗き込んだ。俺は思わず、マグに顔を隠すようにして俯いてしまう。

「…何があったんです?」

八戒の声は優しいくせに有無を言わせない強さがあった。

俺はちょっと肩をすぼめて、おとなしく寺院での出来事を白状するしかなかった。



八戒の優しい声に脅されるようにして、俺はおっさんとのやり取りを一から全部話した。聞き終わった八戒は、楽しそうに拍手をした。ひっくり返ったおっさんの変な顔色を思い出してビクビクしていた俺は、意外な八戒の反応にびっくりした。

「上出来上出来。なあんにも気にすることはありませんよ。」
「だって…、すっげーヘンな音がした…。」
「いいんです。坊主に煩悩は必要ありません。悟空は善行を施してやったんです。大いばりでいなさい。その坊主も、そんな不名誉なこと、誰にも言えるわけないですからね。」

八戒は、さも楽しそうに嘯いた。

「どうしても不安だったら、反省してるから三蔵に報告するって言っておやりなさい。自分の方から降参してきますよ。三蔵に知れたら、瞬殺ものですからね。」

八戒は当事者でもないくせに、得意満面でコーヒーを啜った。俺はぼんやり、悟浄の帰りが遅いことを気にしていた。こんな時間では商店も殆どやっていないだろう。八戒は、それも見越して悟浄を長いお使いに出したのかもしれない。

「…それより僕が気になったのは、あなたと三蔵との間に、…その、交渉が全然ないってとこです。」

八戒は、さすがに少し言いにくそうに声を落とした。

「………本当ですか?」

俺はマグをぎゅっと握り締めた。八戒の視線が痛くて、仕方なく小さく頷く。

「…どうしてですか?」

八戒の声が、いっそう柔らかくなった。

「だって…、俺…。」

どうしてなんだろう。俺の方が聞きたいくらいだ。

カタカタカタカタ………。

ああ、またあの音がする。

あの音がすると、俺は体が動かなくなってしまう。三蔵が、酷く切なげな目をして、俺に優しくなる。

マグに僅かに残っているミルクの水面が、細かく揺れる。表面に張っていた膜に、細かい皺が寄っていく。俺はその皺を睨みつけていた。こめかみがつきつき痛む。

不意に視界を遮られた。俺がはっと顔を上げると、八戒が俺の手からマグを取り上げたところだった。
八戒は、さっきまでの楽しそうな様子を一転させていた。困ったような顔で俺を見下ろしている。

「可哀相に。よっぽど三蔵は乱暴だったんですね。」

乱暴? 何のことだろう。

「いいんですよ、そんなに震えなくても。無理に聞く気はありません。」

震えてる? この俺が? そんなことないよ。

だけど俺の指は、マグを握った形のまま、小さく揺れ動いていた。八戒が俺の頬を両手でそっと包み込むようにした。そうされて初めて、俺はあの音の原因を知る事ができた。

俺の奥歯が、なにかを拒絶するように噛み合って、小さく音を立てているのだった。

「三蔵との事は、嫌なら嫌って言ってもいいんですよ。三蔵はそれしきの事ではあなたを手放すはずはないし、あなたはまだ、お酒よりミルクが似合う年なんですから。」
「嫌じゃない。嫌じゃないよ、俺、三蔵がそうしたいって言うんなら…。」

反射的に叫んだ途端に、ぞくりと背中を寒気が駆け上がった。

三蔵の目を、あんなに近くで見たのは初めてだった。

深い菫色の瞳は、空みたいに澄んでいて、怖いくらい真剣だった。

「でも、…俺、もう、…あんな痛いの嫌なんだ。」

震える両腕を自分で抱え込む。言いながら、それは嘘だと思う。
痛い事なんかいくらでも我慢できる。三蔵がそうしたいと言うのなら、俺は手足を引き裂かれたって構わない。無防備な喉笛を笑って晒す事もできる。
いつのまにか小さく鳴咽が漏れていた。理解できない自分自身がもどかしい。

「……それは、あなたの本心ではないんでしょう。」

八戒が、俺の頭を優しく撫でた。どこかに引っかかったのか、髪がつんと引っ張られた。

ああ、そうか。俺の怖かった事は、体の痛みなんかじゃなかったんだ。

俺を見つめる三蔵の目があんまり真摯で、どうしていいかわからなかったんだ。

俺は三蔵の期待に応えられるのだろうか。あんなに綺麗で優しい三蔵の、ひたむきな思いに応えられるような俺でいられるのだろうか。

俺は、昔の事はみんな忘れてしまった。三蔵の事もいつかは忘れ果ててしまうのかもしれない。
こんな俺に三蔵が愛情を傾けてくれるだけの価値があるのかどうか分からない。だから怖いんだ。俺の存在が、三蔵を駄目にしてしまう、そんな気がして。

腕の上にはらはらと涙が落ちる。俺はこんな喪失感を確かに覚えてる。俺のために大切ななにかを失ってしまった罪悪感。俺はもうそれを2度と味わいたくはない。

「俺、…髪の毛が伸びないんだ。」

俺の髪を梳いていた八戒の手が止まった。

「爪も、背も…。きっと俺、許されてないんだ。」
「誰に許されるっていうんです?」

八戒の声がわずかに険しくなった。両の肩を掴まれて、ぐっと顔を上げさせられた。
間近から俺を見つめている八戒の顔は、少し怖い。

「悟空。僕が人間の理性を保っていられるのは、このカフスのお陰かもしれませんけれど、そのカフスの力の源になっているのは、人間でありたいと願う強い意志の力です。あなたの金鈷だってそうでしょう。三蔵の、あなたを人たらせたい強い意志が、あなたの妖怪化を塞き止めているんです。あなたの時が止まっているとすれば、それはあなたの願望のせいに違いありませんよ。」
「…俺の、願望…。」
「そう、いつまでも俯いて立ち止まっていれば楽に違いありませんものね。でも、あなたは今に蘇った。大好きな三蔵に誘われて。違いますか?」

違わない。俺はずっと外に出たかった。俺を連れ出しに来てくれた三蔵は、それこそ輝いて見えた。
そう、俺はあの瞬間、この綺麗な金色と一緒に生きていく事を誓ったのだ。

「あなたは自分自身を開放してもいいんです。僕が許します。あなたが蘇った意味は、あなた自身が決めていいんです。人の存在に、間違いなんてないんですよ。」

八戒は言いながら、少し淋しそうに笑った。自分自身にも言い聞かせているようだった。

俺は八戒の顔を見つめた。穏やかな笑顔は、自信に満ち溢れている。辛い思いを乗り越えて、人間から妖怪に転じた八戒の礎が透けて見える。

八戒の言う事を信じたい。それが本当なら、いつか俺が三蔵の側にいても誰にも疎まれない未来が来る事があるのかもしれない。
俺が、三蔵にとってかけがえのないものになれる時が来るかもしれない。

「…あなたは三蔵の事が好きでしょう?」

俺は大きく頷いた。それだけは何があっても揺るがない。

「じゃあね、いいことを教えてあげます。三蔵に呼ばれたら、自分の素直な気持ちを思い出してごらんなさい。心も体も豊かに潤います。そうしてみずみずしく潤ったら、何の躊躇いもなく三蔵を受け入れる事ができますよ、きっと。」

ふんわりと、包み込むような微笑みに、俺の強張っていた心が蕩けていくのが分かる。胸の奥が暖かくなってきて、俺はまた涙を零しそうになった。

「うん。ありがとう、八戒、…俺…。」

なんだかとても気持ちが楽になった。同時に酷く照れくさくなって、俺はきっと頬を赤らめていたに違いない。
不意に八戒が方頬を緩めた。モノクルが鈍く光る。

「…三蔵に貸し一つ。」
「え?」

意外な言葉を聞いた気がして、俺は目を丸くして聞き返した。八戒はたちまち元の穏やかな笑顔に戻った。

「いえ、こっちの事。さあて、悟浄遅いですねえ。どこまで買い物に行ったんでしょうね。」

その言葉を聞いていたかのように、玄関の扉が開かれた。大荷物を抱えた悟浄がよろめきながら入ってくる。
焼いたパンの香ばしい香りがして、たちまち俺の腹がグウグウなる。そういえばさっきからずっと腹ペコだったんだ。
八戒は嬉しそうに笑いながら、悟浄から荷物を受け取った。



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